街に着いた



「街へ入る手助けというのはどういうことです?」


「お願いする立場で申し訳ありませんがとある理由であまり自分の情報を開示したくないのです。街によってはそういう物を見れると聞いたことがあります。私はそれを交わしたいのです。」


 そう伝えるとハルベルトは騎士と顔を合わせると


 「なるほど。わかりました。少し相談させてもらいます。」


 といいなにやら話し始めた。そして少しすると再びこちらに向き直り


「わかりました。あなたは我々の命の恩人です。ぜひ手伝わせてください。……それと敬語は不要です。」


「そうですか……いや、わかった。お願いを聞いてくれて感謝する。」


「いえいえ、こちらこそ助けていただき感謝しています。」


 こうして街へ向かうことが決まった俺はせっかくならということでハルベルトが乗る馬車に乗せてもらうことになった。中に入るとさすがは貴族用の馬車、装飾もされており座るところもふかふかとしていて揺れてもあまり衝撃は来ない。ただ1つ問題があるとすれば気まづいということだ。

 元々俺はあまりコミュニケーションを得意としていない。ましてや初めて会う相手且つ貴族ときた。なんて声をかけていいか分からない。そうして俺が1人悩んでいるとハルベルトの方から声をかけてきた。


「ハーゲンダンツ殿はどうしてこの森に?」


「あー…ちょいと修行をするために各地を渡り歩いててな。……それと殿なんて付けなくて大丈夫だ。ハーゲンでいいよ。」


「そうですか。ならば今後はハーゲンと呼ばせてもらうよ。それにしても修行か。やはりあれだけの強さは並大抵の修行じゃ身につかないものなのか?」


 なんて言えばいいんだ。ゲームの世界だし課金しまくって手に入れた強さだから働くという努力はしたけど。まぁ修行をしたということにしとこう。


「ええ、まぁ。と言っても本業は魔術の方なんですがね。」


「そうなのか!あれだけの力を持ちながら魔術士だったのですか。ハーゲンはお強いのだな。」


「いやいや、俺なんてまだまだですよ。世界にはもっと強い者がたくさんいる。」


 そうだ。俺も上澄みの方にいたとはいえ俺よりも強いプレイヤーはたくさんいた。俺が魔王と呼ばれて称号まで貰ったのもひとえにこの死人族に寄るところが大きかったしな。


「私にはまだ遠そうだ。…修行しているということはやはりあそこには行ったのかい?」


「あそことは?」


「カタル地帯だ。あそこは高位の冒険者ですら近づかない魔境と呼ばれている場所なんだ。だけどハーゲン程の強さがあれば行っていてもおかしくないと思ってね。」


 …ダメだわからん。そこがどれくらいのところか分からないし高位の冒険者がどれぐらいの強さかも分からないから下手なことは言いたくない。が、ここで会話を終わらせてまた沈黙の時間を過ごすのは些かキツイ。ここは話を合わせておくか…


「少しの間そこで修行はしていたな。」


「そうか。さすがはハーゲンだ。」


「そんな、誇ることでは無いしな…」


「それでも私から見たら充分すごいことだよ。」


「ありがとうございます。」



 その後も話は何とか途切れることなく…とは言っても何回か魔物が襲ってきたようで止まったりはしたものの夕暮れ時には無事に街に着いた。


 大丈夫だとは言われていたがどうやって街に入るのか疑問だったが、街の近くまで来ると、

「大きさが合うか分かりませんがこちらを身につけて下さい。」

 と言われ騎士の人達が着けている甲冑を貸してもらった。大きさは少しでかく感じたがそこまで違和感なく身につけられたお陰で無事に街に入ることが出来た。


 街に入ると俺のお願いは叶ったため別れることになった。怪しまれないように路地裏で甲冑を脱ぎ騎士に返し、ハルベルトに挨拶をしに向かった。


「ここまで助かったよ。また会うことがあればよろしく頼む。」


「こちらこそとても助かったよ。……あと今回のお礼としてこれを受け取ってほしい。まだ使えるはずだ。」


 そう言われ何やら紋章のついたコイン?のようなものを貰った。


「これは?」


「これは我がマークスマン家のお客人の証さ。これを持っていると何か厄介事に巻き込まれた時に多少は役に立つはずだよ。」


「なるほどな。ならばありがたく貰っておこう。」


「うん。それじゃまた会えるといいな。」


「あぁ。またな。」


 そういうとハルベルトは再び馬車に乗り騎士の付き添いの元去っていった。俺はそれを見えなくなるまで見送ると俺は転生したと気づいてからやりたいと思ったことをやることにした。

 だがそのためにはやはりお金が無いといけない。ということでハルベルトと話している最中にも出てきた冒険者ギルドに向かおうと思う。とはいえ冒険者登録をするつもりは今のところない。もしかしたら俺の正体がバレる可能性もあるわけだしな。


 確かギルドで魔物の素材を売る分には登録も必要ないと言っていたし…ただ売価は下がるらしいが。


 とにかく今後の目的のためにもお金を稼がなければならない。行くところも決めたわけだし早めにギルドに向かうことにしよう。





 その後街の人に聞いたりしながらギルドへ辿り着いた俺はでかい木の扉を押して中に入った。やはりと言うべきかギルドの内部は冒険者だろうと思われる人たちで溢れかえっている。多分一日の仕事の終わりがこのくらいの時間なのだろう、ギルドの隣にある酒場に冒険者が大勢座っていた。




 俺はそいつらを尻目に受付だと思われるところに行き換金をお願いすることにしたのだったが……やはりこれもお約束なのだろう。案の定


「おめぇ見ねぇ顔だな!ちょっとツラ貸せよ!」


 という冒険者が現れたのだった。



 ――――――――――――――――――――


 この称号と呼ばれるものはゲーム内と異世界で少し変わった仕様になっています。

 ゲーム内では持っている称号の中からひとつ決めてセットします。セットした称号はその称号によってプレイヤーにバフを与えることが出来ます。

 一方、この異世界では称号を付け替えることができません。その代わりなにか達成したりすると称号が自動で切り替わるようになっています。


 ちなみにハーゲンダンツの付けている魔王は

「魔物から受けるダメージ-30%。対人間に与えるダメージ+100%」

 というとんでもない効果の称号です。

 ゲーム内で魔王の称号を持つのは彼一人です。

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