第21話 クリスマスディナーだよ小出さん!【後編】

 クリスマスということでカンタッキーフライドチキンには長い行列ができていた。まあ、予想はしてたけどね。

で、並んでいた他のお客さんのほとんどがパーティーバーレルなるものを注文していた。まあ、クリスマスといえばチキンだから当然か。


 こりゃ、いくらフードコートとはいえ大混雑してるだろうな。と思ったんだけど、意外と席はスカスカ。たぶん皆んな、家などで行うクリスマスパーティー用に持ち帰りで購入してただけみたい。 ここでは派手にクリスマスパーティーはできないもんね。そんな雰囲気じゃないし。


 でも、そのおかげで小出さんには先に席に座ってゆっくりしてもらうことができた。長い行列のせいでめちゃくちゃ時間がかかっちゃったから逆に良かった、のかな?


 それにもし、一緒に並んで、ネットカフェで受け付けした時みたいにまたコミュ症スキルが発動しちゃったら大変だ。


 本当はもっとクリスマスディナーっぽいお店でと思ってたけど、だけど、小出さんたってのお願いだもん。叶えてあげたいに決まってるじゃん。


 というわけで、僕は無事、行列に並んでの買い物を済ませて、今は小出さんと一緒に対面で席に座っている。ちなみに確保しておいてくれた席は一番端っこ。相変わらずの小出さんって感じかな。


 にしても。たくさんのチキンを見た瞬間の小出さんの目といったら。まるで宝石でも散りばめたようにキラキラと輝いていた。よっぽどチキンが好きなんだね。


「ねえ小出さん? ここで本当に良かったの? 僕はもっとクリスマスっぽいお店の方がいいのなって思ってたからさ」


 ぶんぶんと勢いよく首を横に振る小出さんである。愚問だと言わんばかりに。


「ううん、すごく嬉しい。いつもお父さんとお母さんと一緒にローストチキンを食べてたから。それにここ、なんだか落ち着くの。初めて来たけど、全然気取ってないから緊張もしないし」


 そっか。そうだったんだ。小出さんってオシャレなお店だとかってやっぱり緊張しちゃったりするんだ。そういう意味では、僕が当初考えてた通りのお店だったりじゃなくて逆に正解だったんだ。


 良かった。小出さんが自分からここのお店を選んでくれて。


「どうしたの園川くん? なんか嬉しそう」


「ううん、なんでもないよ。あ、そういえば言ってたよね。いつもは家族でクリスマスパーティーをしてたんだって」


「うん、そうなの。毎年、結構盛大にやってたの。お父さんがそういうの好きだから」


「ふーん、そうなんだ」


 そういえば。 小出さんの家族構成って全く知らないなあ。ちょうどいいから訊いてみようかな。なんとなーくの興味本位だけどね。


 それに、前にも小出さんってお嬢様なんじゃないかなって思ったこともあったし。うん、知りたい。


「ねえ、小出さんって一人っ子だったりするの?」


「うん、そうだけど? なんで?」


「あ、ううん。もしかしたら小出さんってお嬢様だったりするのかと思っててさ。ほら、映画の前売券もそうだけど、本とかDVDとかたくさん持ってるから。だからたくさんお小遣いをもらったりしてるんじゃないかなって」


「お、お嬢様!? ぜ、全然違うよ! お父さんは普通の公務員だから手取りで三十万円ちょっとだし。家のローンもまだ十年は残ってるし。お母さんは専業主婦だし。だから、普通の家庭!」


 小出さん、全力で否定。というか、お父さんの月給まで言う必要なかったんじゃないかな……? しかも、家のローンのことまで。小出さんのお父さんも、まさかこんなところで自分のお給料について話題にされてるとは思ってもみなかっただろうなあ。


 小出さんのお父さん。これからも家のローンの返済頑張ってください。


 だけど不思議だなあ。じゃあなんであんなにもそこそこな値段がする物を買ったりできるんだろう? という僕の疑問、この後すぐに解決。


「た、ただ……」


「ただ?」


「う、うん。えーっと……お父さん、すごく優しくて。そ、それで……欲しい物があったらすぐに買ってくれるの」


 モジモジとしながらそう教えてくれた小出さんである。なるほど。一人っ子で、しかも、こんなに可愛い娘さんに頼まれたら嬉々として買ってあげたくなっちゃうんだろうなあ。失礼だから言葉にはしないけど、いわゆる親バカってやつ?


 でもその気持ち、すっごい分かる。仮に僕が父親になったとして、こんなにも可愛らしい一人娘がいたら甘やかしまくる自信あるもん。マンションが欲しいとかお願いされたら、買う。絶対に買う。借金こしらえてでも!


 ……将来の僕にそんな甲斐性あるのかな。


 という僕の思考を中断させるように、小出さんが再びモジモジとしながら言葉を発した。


「あ、あの、園川くん……」


「ん? どうしたの? 」


「そ、その……そろそろ、ち、チキン……食べてもいい、かな? もう、お腹が空きすぎちゃって」


「あ……」


 テーブルの上で、誰かに早く食べて欲しそうにチキンの山がポツーン。


 そして、限界を知らせるように『ぐぅー』とお腹を鳴らす小出さんだった。


 や、やってしまった……。話にすっかり夢中になりすぎてすっかり忘れてました。


 チキンさん。それに小出さん。本っっ当にごめんなさい!!

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