34話 命名式
教団の集会が終わり、それぞれの思いを胸に抱いた少女たちは夜の闇へと散っていった。
ユリはその場を離れ、静かな住宅街を歩いていた。家の明かりがぽつりぽつりと灯る中、彼女の心は複雑に揺れていた。
「私には、この力がある。でも、それは祝福なのか呪いなのか…」
ふと、ポケットの中に忍ばせた小さな黒百合のペンダントに手を触れる。これは祖母から譲り受けたもので、封印の一族の証でもあった。
そのとき、背後から微かな気配が近づいてきた。
「ユリ……君の力は、ただの呪いじゃない。希望なんだよ。」
振り返ると、スイレンがそこに立っていた。彼女の瞳はいつも通り焦りに満ちているが、その声はどこか優しかった。
「未来が見えるけど、変えられない…だけど君は違う。君なら、私たちの呪いを終わらせられる。」
ユリは一瞬戸惑ったが、すぐに深く頷いた。
「私は…覚悟する。怖いけど、逃げない。」
二人の間に静かな絆が生まれ、やがて夜風が吹き抜けた。
遠くで、エンド・フラワーの影が揺らめく。
物語の幕が、今、開く
ユリが自宅の玄関に差し掛かったとき、闇の中からふと足音が聞こえた。振り返ると、薄暗い路地の奥から、一人の少女が姿を現した。
それはローズだった。
彼女の瞳は燃えるように赤く、拳にはわずかに煙のような黒い霧がまとわりついている。
「ユリ……あんた、本当に覚悟決めたの?」
ローズの声には嘲笑が混じっていたが、その奥底には複雑な感情が潜んでいた。
「私は……壊すことでしか救えないと思ってる。世界を根底から変えるために。」
ユリは静かに首を振った。
「壊すことだけが救いじゃない。私は…浄化する。」
二人の間に張り詰めた空気が漂った。
その時、不意に背後から鋭い声が響いた。
「おい、何してる?遅くなるぞ、みんな待ってるんだ。」
振り返ると、シャクヤクが冷たい表情でこちらを見ていた。彼女の目は怒りで燃えていたが、その瞳の奥にある悲しみも垣間見えた。
「また喧嘩か…仕方ないわね、皆それぞれの傷を背負ってる。」
三人は言葉少なに、しかし確かな連帯感を抱いて、その場を後にした。
夜空には星が瞬き、静かに東京の街を包んでいた。
だが、その静寂は決して永遠ではなかった。
何かが、確かに動き始めているのだ——
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