「2020ブラックボックス=介護施設における新型コロナウイルスのリアル=」

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第1話 新型コロナウイルス発生

2020年、新型コロナウイルスが中国から発生し、その猛威が連日TVのニュースでその脅威が報じられていた。

県内にも、ちらほらと感染の影がじわじわと忍び寄っていた。


国や自治体からは毎日のようにFAXやメールが施設に届く。

その度に、私たちは新たな対策や指示に追われていた。

介護施設では自治体の指示により、毎週2回、唾液によるPCR検査を義務付けられていた。

検体は外部に郵送し、数日後にメールで結果が届く仕様であった。

そんな日常が続いていた。


幸いにも、当施設ではまだ陽性者は出ていなかった。

私たちはその事実に、かすかな安堵を抱いていた。


今日も、いつもと変わらない一日が終わろうとしていた。

夕食を待つ、静かなひととき。

私は、利用者様の傍らに座り、何気なく手を触れた瞬間、体熱感の違和感を感じた。


「あれ?なにか熱い。熱があるじゃない?」


首の後ろ、胸のあたりに手を当てると、やはり熱感がある。嫌な予感が胸をよぎった。


「体温計で測ってみましょう。念のために、熱があるかもしれないから。」

検温実施。


KT39.0℃―発熱。


すぐに看護師へ報告し、利用者を居室へと誘導した。

大柄で認知症のある方だった為、数人がかりでパジャマに着替えさせ、オムツを装着する。

その間、看護師は新型コロナウイルスのPCR検査の準備をしていた。

咳き込みながら暴れる利用者を、私たちは必至に押さえた。

検査キットを使用してPCR検査を実施する。

5分も経たない内に、結果がすぐに出た。


17:00 陽性―。


施設で初となる、新型コロナウイルス感染者発生の瞬間だった。


17:30―看護師長から次の指示が下された。

感染した利用者に関わった職員、咳を浴びた可能性のある職員のリストを作成の依頼だった。


感染した利用者は、面会を数日前に行っていたと判明したが、家族からの感染についての連絡は一切なかった。

どこから感染したのかは不明であった。


私は、介護職員たちから聞き取りを行った。

対象者は6名。


私自身は第一発見者だったが、マスクを着用しており、利用者の真後ろから介助に入っていたため、リストから除外された。


6名の職員は、濃厚接触者とされ、翌日から2週間の出勤停止となった。


私は残った介護職員たち退勤させ、情報収集と情報発信に奔走した。

明日からの業務体制についても、看護師長らと綿密な打ち合わせを行った。


初めての感染者発生に、現場は混乱の渦に巻き込まれていた。

看護師たちは施設内の感染症対策物品をかき集め、ホワイトボードを出して情報を整理し始めた。

私は施設へ出入りしている外部の業者にも連絡を入れる必要があった。


夜中の1時過ぎまで、話し合いや準備が続いた。

長い夜の始まりだった。

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