第13話 恋人みたいな日曜日、秘密みたいな逃避行
週末の午後。
学園から少し離れた街のショッピングモールは、人の波とざわめきに包まれていた。
「うわあ……すごい人混み……」
日傘を片手に、静流が小さくため息をこぼす。
そんな彼女に手を引かれながら歩く“少女”――それが私、悠花だ。
(な、なななな……なんで、こんな完全デートコースになってるのぉぉ!?)
数日前、静流の何気ない一言がすべての始まりだった。
『今週末、お紅茶でもいかが? 可愛らしいスイーツのお店を見つけまして』
断る理由を探す間もなく、流れるように承諾してしまった私。
そして今――ヒール高めの靴に、ふわふわのブラウスという、完全に“お出かけ仕様”で人混みを歩く羽目に。
(足は痛いし、スカートは落ち着かないし……視線まで痛い!)
「……こうして手をつないでいると――まるで恋人みたいですわね」
「っ~~~~~!?!?」
不意打ちの爆弾発言に、心臓がドラムソロ状態。
「こ、恋人って……っ!!」
「ふふっ、冗談ですわよ? ……半分くらいは」
微笑む静流の指が、さらにしっかり絡む。
(やばい……この人、完全に“本気モード”だ……!)
その時だった。
◆
「ねぇ、あんた……男でしょ?」
「……っ!?」
声をかけてきたのは、派手な服装の女子高生グループ。
「声が低いし、歩き方も変」
(完 全 に 目 を つ け ら れ た……!?)
「失礼ですわね。悠花さんが男だなんて――」
静流がかばおうとした瞬間、
「じゃあ証拠見せてよ。“女の子なら”トイレ行けるよね?」
空気が一気に張り詰めた。
通行人の視線がざわつき、逃げ場が消える。
(……詰んだ)
その時。
「きゃああっ!? 人が倒れてますっ!!」
別の方向から上がった声に、人々の視線がそちらへ向く。
「今ですわ。行きましょう」
静流が迷いなく私の手を引いた。
「えっ……でも……!」
「大丈夫。あなたは――わたくしが守りますから」
その声は、凛としていて、それでいて優しい。
(……かっこよすぎて……惚れるかと思った)
人混みを抜け、遠く離れた路地で足を止める。
まだ息は速く、心臓も落ち着かない。
けれど胸の奥は、不思議と温かかった。
――この外出は、一生忘れられないものになると思った。
…
…
…
(Side Story:神代 天音)
――日曜の夕方。
商店街のカフェ前で、私は足を止めた。
そこにいたのは、悠花と静流さん。
手をつないで、笑い合って……まるで、本物の恋人みたいで。
(……先、越された)
胸の奥が、じくじくと熱くなる。
自分でも驚くくらい、視線をそらせなかった。
あんたは、何も知らない顔で笑ってる。
その隣で、静流さんは当然のようにその手を握ってる。
(……悔しい)
私は、あんたの素顔も、弱いところも本当は気づいてる。
必死に笑ってごまかす癖も、夜中に少しだけ眠れなくなることも。
――だから、あなたを守れるのは私だけだと思ってたのに。
「……もう、迷ってなんかいられない」
人混みに消えていく二人の背中を、私は睨みつける。
次は絶対、私がその隣に立つ。
誰にも、譲らない。
そう心に決めた、その翌日――
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