揺れる心とそれぞれの思い
第11話 独占欲、芽生えました。
「ふぅ……なんとか“全員仲良し”ってことで逃げ切ったけど……」
姉妹契約の面談という修羅場から一夜明けた、日曜日の昼下がり。
悠は中庭のベンチで、そよ風に身をあずけていた。
ふわりと揺れるスカート、ちょっと背伸びして入れてみた紅茶の香り。
――ようやく訪れた、静寂の時間。
「お兄ちゃんって、やっぱズルいよね」
「……み、美月っ!?」
いつの間にか隣に座っていたのは、妹の美月。
指先でスカートの裾をくるくるとしながら、唇をとがらせる。
「みんなに優しくしてさ、誰のことも選ばない。そうやって、ずっと逃げるつもり?」
「に、逃げてるわけじゃないよ……っ。バレたら終わりだし、そんな簡単に――」
「ふーん」
ふてくされた表情の奥に、ほんの少し寂しさが滲む。
「でもさ……誰かと仲良くしてるお兄ちゃんを見ると、ちょっとだけ――ムカつくんだよね」
「え……?」
「だって、わたしだけは知ってるんだよ? お兄ちゃんの正体も、素顔も、性格も。
誰よりも、最初からずっと」
くるりと体を向けて、真っ直ぐに射抜くような視線。
「だからさ、私でいいじゃん。ちょっとだけでいいから――お兄ちゃんの近くに居させてよ」
(や、やばい……この子はこの子で完全に“妹”の関係を飛び越えてる……!)
――その瞬間。
「やっぱり、ここにいらっしゃいましたね、悠花さん」
銀髪を陽光にきらめかせて現れた、静流。
さらに反対側には、天音も歩いてきていた。
「なによ、どうしてこんな時に美月とふたりきりでいるのよっ!」
「あ、あのっ、これはただの偶然で――(聞かれてないよね……美月の“お兄ちゃん”って言葉)」
「わたくしも、ただお茶をご一緒しようと思っただけですの」
「私はお姉ちゃんが部屋にいなかったから、探しに来ただけだよ」
三方向から迫る熱視線。
その矛先は悠を巡って、互いにも火花を散らしていた。
(え……これって、まさか――)
――女の子たちが、わたしをめぐって嫉妬してる……?
胸の奥がふっと熱くなる。
バレる不安でも、逃げたい焦りでもない――
(……なんか、ちょっとだけ……嬉しい、かも)
しかし、油断は命取り。
「悠花さんって本当に魅力的ですわ。わたくし……ますます“独占欲”が湧いてまいりましたの♡」
「ちょっ、静流さんっ!? わ、近――」
「だからぁっ!! わたしの目の前でイチャつくなってばーーっ!!」
がしゃーん!
三人の言い合いに巻き込まれ、悠はベンチから派手に転げ落ちた。
(……やっぱり、命がいくつあっても足りない……)
地面に転がったまま、悠はしみじみそう思うのだった。
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