番外編:雫の回想

 カフェの窓から、行き交う人々を眺めながら、私は、ホットミルクティーを一口飲んだ。社会人になって数年。私は、今も、静かで穏やかな生活を大切にしている。


 だが、私の心の中は、学生時代とは全く違うものになっていた。


 高校三年生。私は、いつも本を読んでいて、あまり人と話さない、内気な性格だった。自分の内面世界を大切にし、現実から一歩引いたところで物事を見つめていた。


 そんな私に、一人の男子生徒が声をかけてきた。

 日高陽介。彼は、私の内面世界を大切にし、その世界から、私が抜け出したいと思っていることも、すべて知ってくれた。


 彼との初めての性的体験。それは、私にとって、羞恥心と、そして、現実離れした快楽の葛藤だった。

 彼は、そんな私の願望を、すべて受け入れてくれた。

 彼に、だらしない自分を晒け出し、快楽に溺れる自分を、私は、彼にだけ見せた。


 彼は、そんな私を、何も言わずに、ただ、受け入れてくれた。

 彼の優しさが、私の心を温かく満たしてくれた。


 だが、彼は、私を選ばなかった。

 卒業式。彼は、私ではなく、私の幼馴染である、華蓮を選んだ。


 彼の選択に、私は、何も言えなかった。

 彼の決意は、彼女たちを幸せにすること。そして、彼が選んだのは、華蓮だった。


 私は、彼の選択を、受け入れた。

 彼と華蓮の、幸福な未来を、心から祝福した。


 今、私は、内面世界から抜け出し、自分の本当の気持ちに従い、仕事に打ち込んでいる。

 私の周りには、たくさんの人がいる。だが、私の心の中には、今も、彼の存在が、静かに、そして、温かく残っている。


 グラスを傾け、ホットミルクティーを飲み干す。

 窓に映る自分の顔は、あの頃よりも、少しだけ、穏やかなものになっていた。

 それは、まるで、あの冬の夜、彼と私が出会った日の、夜空のようだ。


 私は、あの日のことを、忘れることはないだろう。

 彼と出会って、本当の自分を見つけることができた。

 それが、私にとって、最高の思い出だった。

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