第17話
夏休みが明け、二学期が始まった。俺と華蓮、そして美咲の関係は、夏休み前とは全く違うものになっていた。華蓮とは、幼馴染という枠を超え、より深い、特別な関係へと変化した。美咲とは、完璧な優等生とクラスメイトという枠を超え、互いの内面をさらけ出し、秘密を共有する関係へと変化した。
俺の心の中は、二人の存在でいっぱいだった。華蓮の純粋な愛と、美咲の情熱。どちらも俺にとって、かけがえのないものになっていた。
だが、そんな俺の幸せな日々は、すぐに終わりを告げた。
夏休み明けの最初の放課後、俺は華蓮と二人きりで話す機会を得た。教室には、俺と華蓮しかいなかった。窓から差し込む夕日が、二人の間を照らしている、静かな空間だった。
「陽介……あのね」
華蓮の声が、いつもより少し小さく、どこか緊張しているようにも聞こえた。
「どうしたんだ、華蓮」
俺がそう尋ねると、華蓮は、俺の瞳をまっすぐに見つめた。その瞳には、不安と、そして、どこか悲しみが入り混じっている。
「……陽介と美咲ちゃんって、夏休み、どこかに行ったの?」
華蓮の言葉に、俺は一瞬、息をのんだ。美咲と俺が、二人きりで会っていたことを、華蓮は知っているのだろうか。
「……どうして、そう思うんだ?」
俺がそう尋ねると、華蓮は、俺の瞳から、そっと視線を外した。
「だって……美咲ちゃん、夏休み明けから、なんだか、陽介のこと、すごく意識してるみたいだから」
華蓮の声が、震えている。彼女の言葉の裏に隠された、俺への独占欲と、美咲への嫉妬が、痛いほど伝わってくる。
その日の帰り道、俺は、偶然、美咲と二人きりになった。他の生徒たちがそれぞれの友人たちと帰っていく中、美咲は一人、静かに昇降口で靴を履き替えていた。艶やかな黒髪が、夕焼けの光を浴びて、どこか寂しげに見える。
「橘さん。夏休み、俺と会っていたことを、華蓮に話したのか?」
俺がそう尋ねると、美咲は、ゆっくりと顔を上げた。その顔には、いつも完璧な笑顔を張り付けているが、今は、その笑顔はどこにもなかった。そこにあったのは、一人の女の子の、純粋で、無防備な、ありのままの表情だけだった。
「……ええ。話したわよ。だって、陽介が、私と会っていたことを、隠す必要なんてないでしょう?」
美咲の声は、どこか冷たい。だが、その声の裏に隠された、彼女の嫉妬と、陽介への独占欲が、俺の心を突き刺す。
「橘さん。俺は、二人とも大切だ」
俺がそう答えると、美咲は、フッと冷たく微笑んだ。
「そう。ならいいわ。……でも、一つ忠告しておくわ。華蓮さんは、私とは違う。華蓮さんは、あなたに、特別な感情を抱いている。……だから、あまり、傷つけないであげて」
美咲の言葉に、俺は何も言えなくなった。
美咲は、俺に背を向け、昇降口を出て行った。その背中が、どこか寂しげに見える。
俺は、華蓮と美咲の間で、どう立ち振る舞えばいいのか分からなくなった。
華蓮の純粋な想い。美咲の孤独と、情熱。
二人の心が、俺を巡って、複雑に絡み合い始めている。
俺の決意は、彼女たちを幸せにすること。
だが、その決意が、彼女たちを、互いに傷つけ合うことにつながるのではないか。
俺の心は、激しく揺れ動いていた。
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