12、ごはんを食べよう・下

 ナツメくんのぶっきらぼうな言葉に、アマナはわざとらしく大きなため息をつき、上を向いた。


「学校では、校長先生って言いなさいよ」


 彼女の声には、怒りよりも深く、疲れがにじんでいるように聞こえた。

 わたしは、目の前に並んだふたりを比べて見る。さっきからのやり取りを聞いても、それぞれの表情を見ても、おせじにも仲がいいとはいえない。せめてアマナと仲良くなってくれたら、ナツメくんにとって、しらさぎのまちはもう少し居心地のいい場所になるんじゃないだろうか。でも、どうすればいいのか、わたしにはさっぱりわからない。


「はあ……」


 思わず、わたしもため息をついてしまった。校長先生にお願いされた「ナツメくんと仲良くする」っていうことは、わたしが思っていたよりも、ずっとずっと難しいことなのかもしれない。ひとりで頭を抱えていると、不意に、ナツメくんがわたしに声をかけてきた。


「で、お前はどうしたいわけ?」


 彼の朱色の目が、まっすぐにわたしを射抜く。声色には、いつものような冷たさだけじゃなく、何かを試すような響きがあった。


「どうしたいって……えっと……」


 考えなんてまとまっていない。でも、彼の問いに、わたしの口は勝手に動いていた。


「ナツメくんに、クラスのみんなと、もっと話せるようになってほしい!」


 言ってから、しまった、と思った。わたしの言葉を聞いたナツメくんは、心底あきれたという顔で眉をひそめ、アマナは「やっぱり言うと思った」とでも言いたげに、もう一度深く息をはきだす。


「おれは別に、あいつらと仲良くしたいなんて思ってねえよ」

「そうだよ、ミカン。さっきのセトカの反応、見たでしょ。クラスのほとんどの人は、ナツメのこと怖がって、遠巻きにしてる。ナツメにだってその気がないんだから、意味がないよ」


 ふたりから正論を突きつけられて、わたしはぐっと言葉に詰まる。でも、このまま引き下がるわけにはいかない。


「それは……そうだけど! でも、みんながナツメくんのことを怖がってるのは、ナツメくんのことを何も知らないからだ! ナツメくんが、まちのたった一人の『守り手』だってことを話せば、きっとみんな、見る目が変わるはずだよ!」


 そうだ。みんな、知らないだけなんだ。ナツメくんが、わたしたちが当たり前だと思っている平和な毎日を、たったひとりで守ってくれていることを。知れば、きっと……。


「そんな簡単な話じゃないでしょ」


 わたしの熱弁を、アマナはいつもの落ち着いた声で切り捨てた。


「いきなり『こいつはまちの守り手です』なんて言われて、クラスのみんなが『へえ、そうなんだ!』って信じると思う? だいたい、『守り手』だっていう話も、ウチらは校長先生から聞いただけだ。ミカンもウチも、本当にこの目で見たわけじゃない」


 アマナの言う通りだった。わたしは、壁の上から「恐竜もどき」を見ただけだ。ナツメくんが実際にそれをやっつけているところは見ていない。校長先生の話と、ナツメくんの話しぶりから、信じているだけ。


「……じゃあ、見に行こうよ!」


わたしは、強くにぎった二つのこぶしをテーブルの上に置いて、ふたりに提案した。


「次の荷物が届く日の放課後、壁の上まで、いっしょに行こう! そこで、ナツメくんが本当に『守り手』の仕事をしているのか、わたしたちで確かめるの!」


 わたしの提案が突然すぎると思ったのか、アマナは呆れて口を開けている。


「はあ? なんでウチが、そんな面倒なことに付き合わなきゃ……」


 アマナが文句を言いかけた、その時だった。今まで黙ってわたしたちのやり取りを聞いていたナツメくんが、すっ、と立ち上がった。そして、いつも腰につけているポーチから、ごついゴーグルをひとつ取り出して、アマナの前にことりと置く。


「……なに、これ」

「壁の上からじゃ、下にいる人間なんて米粒くらいにしか見えねえよ。行くならつけとけ」


 ナツメくんはそれだけ言うと、飲み終えたゼリー飲料のパウチを素早くポーチにしまって歩き出してしまった。残されたのは、机の上に置かれたひとつのゴーグルと、顔を見合わせるわたしとアマナだけ。アマナは、しばらくゴーグルをにらみつけていたけれど、やがてあきらめためたように手に取った。


「……わかったよ。行けばいいんでしょ、行けば」


 彼女の返事を聞いて、わたしは心の中で、小さくガッツポーズをした。ナツメくんと校長先生がウソをついているとは思っていないけれど、ナツメくんが「守り手」として働いている姿は見てみたかったから、アマナといっしょに行けるのはラッキーだ。

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