承認欲求エグすぎて早く正体バレしたい魔法少女メルティ・ポワール

アーブ・ナイガン(訳 能見杉太)

01.第二話『さっそく大ピンチ!?幼なじみにバレちゃった!』

☆前回までのあらすじ☆


 おはポムー! 僕はポメラニアンとリンゴの妖精『ポメりん』だポム! もっふもふのモッチモチ! こんなに可愛い声だけど、元はイケメン高校生だったんだポム! 夢エネルギーの結晶――ジェ夢じぇむを、人間界の女の子に渡す仕事をしているポム! 魔法少女になってもらって、悪い魔人を倒すためポム!

 そんな僕がスカウトしたかったのが、中学二年生の高梨たかなし夢芽むめちゃん! ……だった、はずなんだけど……。

 双子のお姉さんの夢実むみちゃんと間違えちゃったポムーっ! てへっ、ポム!

 夢実ちゃんは、巻きツインテールがよく似合う女の子! しっかり者の夢芽ちゃんと違ってドジでおっちょこちょいみたいだから心配してたんだけど……なんと見事に魔法少女メルティ・ポワールに変身成功!

 そんなときに現れたのが、ねずみの魔人、ラットン中尉とその部下たち! 町の桜を枯らそうとしていたんだポム!

 最初は怖がっていたメルティ・ポワールも、「みんなの夢を彩る桜を台無しにするなんて許せないですっ」と立ち上がる! 魔法の注射器メルティ・リグで反撃開始ポム! 一瞬でラットン中尉率いる一個小隊五十三人を焼き殺しちゃったポム! 桜もちょっと焼けたポム。僕のモフモフも先っちょがチリチリしてるポム! 焼きリンゴになっちゃうポムーっ! 震えが止まらないポム!

 ポ、ポムムぅ~っ!


      *

オープニングテーマ『Go! 魔法少女☆メルティガールズ!!』

      * 


「ポ、ポムムぅ~っ……」

「あなたのハートにオーバードーズ♪☆! 絶望なんて、用無しですっ!」


 決めゼリフがダジャレポムぅ~……。


 いや、ポムポム言ってる場合じゃなかった。

 足下の小型犬(ってか妖精)(ってか僕)を放って、顎ピースを決める小柄な魔法少女。一個小隊殲滅しておいて、小顔効果を気にしている。震えが止まらない。


 ――メルティ・ポワールの姿は、妖精養成研修で見せられた他のメルティガールズとは少し趣が違っていた。


 全体の印象は「ゆめかわ」とか「病みロリ」とか、そういうタグで埋め尽くされそうな地雷ガーリー全開。変身前の姿を反映しているのだろう。


 まずはメルティドレス。開いた胸下からキュッと入って、スカートが一気に「ぽわっ」と膨らむシルエットは、地雷系ワンピのロリータラインそのまんま。ただ、ウエストを締め付けている黒い特大リボンに、魔法少女要素が見て取れる。色合いも、変身前のワンピは黒七割・ピンク三割だったが、今は黒三割に洋なしの黄緑色が七割だ。

 黒のチョーカーからは洋なし型のジェ夢ブローチがぶら下がっていたり、洋なし風のネイルが施されていたり、黒タイツに洋なしチャーム付きの厚底リボンヒールを履いていたり……と、ポワール要素を地雷系ファッションに調和させている。


 決定的に他のメルティガールズと異なるのは、仮面の種類だった。普通は、鼻から下をメルティマスクで覆って正体を隠す。しかし彼女の場合は、目元だけを覆う、いわゆるドミノマスクだった。蝶の形をベースにしながらも、両端の尖りは色も相まって洋なしのように見える。逆に鼻から下は素顔のまんま。

 ただ、これは理にかなっている。普段の高梨夢実が、黒いマスクで鼻から下を隠しているからだ。彼女の正体を隠すためにはこれが一番だろう。むしろフルフェイス以上に効果があるかも……というのは言い過ぎか。髪型は変身前と同じウェーブツインテールだし。


 左肩で担いでいるドデカい注射器が彼女の武器。普段はリップクリーム風だけど、胸元のジェ夢に差すとトロッ……と魔力が流れて、メルティ・リグに変身するんだポム。この点が最も異質ポム。魔法少女の武器が注射器ってなにポム。リグってたぶん良くないスラングだポム。火炎放射器になってるだなんて聞いてないポム。黄緑の炎、不気味すぎたポム。


 いや、そうだ、ポムポム言ってる場合じゃなかった。たった今、深夜の中学校校庭で、五十三人の獣人を焼き尽くしたところだったんだ。


「ポ、ポワール……早く逃げるポム」

「え。何でですか?」

「えっ」


 なぜかお目々を丸くするメルティ・ポワール。注射器をリップに戻し、空いた両手で僕を掲げ、


「何で逃げる必要があるんですか?」

「何でって……警察や野次馬が来ちゃうポム。メルティ・ポワールの姿を見られてしまうポム」


 幸いにも火の気配はもうない。さすがは魔法、都合が良い。そして死んだ獣人は、ダークコアさえ破壊されれば、人間界に残滓すら残さない。さすがは悪の魔人、都合が良い。

 だが、数秒とはいえ眩しく巨大な炎が上がったし、五十三人の絶叫も響いた。僕の目と耳にも確かに焼き付いている。鼻にも焼き肉と硫黄と鉄の臭いが残っている。震え止まらないポム。


 だというのに、ツインテールの少女はコテンとあざとく首を傾げ、


「見られていいじゃないですか。夢実は悪いねずみさんたちを倒したんですから。少し照れくさいですけれど、お巡りさんに褒められちゃいますねっ。表彰もされて、テレビに出ちゃうかもでしょうか……? 夢実、そういうの苦手なんですけれど……困っちゃいますっ」

「え、ええー……ポム……」


 何を言ってるんだマジでこの地雷ツインテール。


「あ、あのね、ポワール。言ったポムよね? メルティガールズは正体を誰かに知られる度に、魔力を減退させてしまうポム。魔力が50を下回れば変身すらできなくなるポム」

「そういえばそんなことも言っていましたね」


 魔力は「夢エネルギー×夢誘因子むゆういんし」で決まる。

 日本国内の夢の力から発生する夢エネルギーは、光の国の動力源の四割を担っている。その一部を結晶化させ、宝石状にしたものがジェ夢だ。対して、夢誘因子とは人間の少女が生まれ持った資質。言うならば、「見る者に夢を抱かせる存在感・象徴性」のことだ。

 つまり、夢誘因子を持った少女が、夢エネルギーを含んだジェ夢と共鳴することで(その積が50を超えれば)、魔法少女に変身できるというわけである。


 そして当然、魔力が大きいほど、魔法少女は強い。が、人々に夢を与える魔法少女の正体がバレることによって、少女が持っていた夢誘因子は減衰してしまう。夢を壊してしまうからだ。そして夢誘因子が減れば、それによって導き出される魔力も減る。


 ジェ夢に含まれる夢エネルギーにも個体差があるし、少女の夢誘因子には個々人に大きな差がある。少女の経歴や人柄、雰囲気からある程度予想できるとはいえ、正確に測る術はない。ただし、無事、魔法少女に変身できれば魔力は計測可能だ。


 僕のこの、マジカルカウンターでな!


 いや、そうだった。マジカルカウンターだった。忘れてた。


 首輪についたリンゴ型のチャームを手に取る。もちろん、夢実ちゃん変身直後に計測開始したわけだが、なぜかずっと計測中になっていたのだ。本来なら数秒で終わるはずなのに……故障かと思っていたが、もしかして……魔力が高すぎて、時間がかかっていたということなのか?


 魔法少女の魔力に、闇の帝国軍人を瞬殺できるほどの攻撃力などないはずなのだ。もっと魔法少女らしいファンシーなものだ。にもかかわらず、あの破壊力……この少女が異次元の魔力を持っていることは間違いない。


 まず変身できてる時点で50超えは確実。優秀ラインとされている100超えも余裕だろう。計測開始以降の最高記録は199。200の壁を破るのは不可能と言われているはずだが、もしかして、この子は……


「ポム!」


 マジカルカウンターがピーッという音を放つ。ようやく計測が完了したのだ。

 期待と恐怖で動悸を速めながら、僕はチャームに視線を落とし――


「――2……っ」

「ん? どうしました、ポメりんさん。プルプルしちゃって可愛いですっ! おしっこですか? でも処理グッズがないので、お家まで我慢してくださいっ! ペット系インフルエンサーは細かいところツッコまれて炎上しがちですし。夢実、炎上が大っ嫌いなのでっ!」

「2、万……っ……二万、三千、八百、六十……23860……!?」


 五桁、だと……? チビっちゃったポム。どういうことポム。


「だから、そうですね。今日のところは帰りましょう! 夢実も変身できなくなっちゃうのは困りますし、目立つのも苦手ですし……インスタ用の写真だけ撮っていいですか?」

「だからダメポム! なに拡散しようとしてるポム! そんなことしたら一気に魔力が……」


 でも二万三千もあるなら余裕で残りそう……いや、いやいや! ダメだダメだ! SNSの拡散力を舐めちゃいけない!

 昔の魔法少女とは訳が違うんだ。この時代はたった一人にバレただけで、ゲームオーバーになりかねない。って、研修で習った。200超えがあり得ないって言ってたのに860が端数になるってなにポム。


「と、とにかくまずは人目がない場所まで飛ぶポム!」

「えっ、飛べるんですかっ」

「さっきも飛んでたじゃないかポム! とにかく誰の目も届かない所で変身を解いてから家に帰るんだポム!」

「それはわかりましたけれど……」


 ポワールはなぜか不満そうに唇を尖らせ、


「褒めてくれないんですか?」

「えっ」


 ドミノマスクから覗く、据わったお目々。僕のクリクリお目々を真っ直ぐ捉えてくる。震え止まらんポム。


「夢実、頑張って悪いねずみさんたちを倒したのに。怖いのに勇気を振り絞って立ち上がったんですよ……?」


 嘘ポム。口では怖い怖い言いながらずっとノリノリウッキウキのギンッギンだったポム。


「そ、そうポムね! すごかったポム! いやマジでポム! メルティ・ポワール、強すぎるポム! 僕の目に狂いはなかったポム!」


 ホントは妹さんと間違えただけだけど、結果的には僥倖だった。強すぎていろいろ問題もありそうだが、そんなのはこのチャンスを逃す理由にはならない。

 契約少女が戦果を上げることで光の国から与えられる報奨――人間に戻してもらう――を得るためにも、この子のやる気を削ぐわけにはいかない!


「夢実はポメりんさんのこと可愛いって言ってあげたんですけれど」

「えっ」


 何か僕を持つ両手に力が入ってきたポム! 返答、間違えたっぽいポム!


「違うポム! 可愛いは当たり前というか、変身前から可愛いかったからポム! さんざん言われてきて、聞き飽きてると思ったんだポム!」

「つまり?」

「可愛いだけじゃなくて、強いんだポム! 唯一無二! 一番! 宇宙一! 唯一無二の強さで唯一無二の存在! それがメルティ・ポワールだポム! 震え止まらんポム!」

「――……っ……唯一、無二……? 夢実が……?」


 ぷっくり涙袋に支えられた両目――ドミノマスクから覗くそれが、さらに大きく見開かれる。なんか響いたっぽい。このまま押し切るポム!


「そうポム! メルティ・ポワールほどの魔法少女は宇宙にいないポム! だからその強さを保つためにも、早くここから立ち去るんだポム!」

「わかりましたっ! 夢実、頑張って帰りますっ!」


 パァっと顔を輝かせるメルティ・ポワール。よかった、地雷は回避できたみたいだ。


「今さらだけど変身中は一人称を変えるポムぅ!」


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