第12章:門の向こうにある日常
五国連合の調停者として、俺――白石悠斗と、俺の率いる星詠商会は、異世界における絶対的な地位を確立した。
俺は約束通り、各国の代表者や技術者を集め、現代日本の知識や技術を少しずつ提供していった。ジャガイモの効率的な栽培法、基本的な衛生観念、そして簡単な土木技術。それだけでも、各国の食糧事情や公衆衛生は劇的に改善された。
もちろん、全ての技術を無償で渡したわけではない。あくまで「取引」として、各国からは希少な鉱物や、こちらの世界にはない魔法技術のデータを提供してもらった。
これらの成果を、俺は日本の黒田さんたちに報告した。
「……君は、我々の想像を遥かに超えていたようだ」
黒田さんは、俺が持ち帰った異世界の鉱物サンプルと、俺が成し遂げた国際調停の報告書を前に、感嘆とも呆れともつかない溜息を漏らした。
「君の言う通り、このゲートは二つの世界にとって計り知れない価値を持つ可能性がある。政府としても、君の活動を全面的にバックアップすることを決定した」
こうして、俺の【往還の門】は「制限付き」という条件で、日本政府からも公式に認められることになった。制限とは、ゲートの開閉データや物質の転送記録を政府に提出すること、そして現代社会の秩序を乱すような危険物――例えば、魔物や強力な魔法技術――を持ち込まないことなどだ。俺にとっては、当然受け入れられる条件だった。
星詠商会は、日本側では政府管轄の「異世界交流公社」と提携し、異世界側では五国連合公認の「国際交易機関」として、名実ともに二つの世界を繋ぐ唯一無二の架け橋となった。
俺はもう、一介の商人ではない。だが、やることは今までと変わらない。
現代の便利な商品を、異世界の人々に届ける。
異世界の素晴らしい産物を、現代の人々に紹介する。
その仲立ちをすることで、両方の世界が少しずつ豊かになっていく。
エレナは、異世界の魔術と日本の科学を融合させた新技術開発の責任者として、生き生きと働いている。彼女の研究室からは、日々新しい発明が生まれていた。
ガストンは、国際的な警備部門のトップとして、世界中を飛び回っている。
マルクは、巨大になった商会の財政を完璧に管理する、最高の金庫番だ。
俺のチートスキルは、ただ俺個人を強くする力ではなかった。それは、人と人、文化と文化を繋ぎ、関わる全ての人を豊かにする力だったのだ。
俺は、自分がこの世界に転移してきた意味を、ようやく理解できたような気がした。
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