第6話 【メール記録】「久坂部誠⇔相沢恵」

【以下の記録は、主人公・久坂部誠と、彼の大学時代の友人である相沢恵との間で交わされた電子メールである。】


件名:赤坂田市の調査、ちょっと進展(と愚痴)

差出人: 久坂部 誠 (makoto.kusakabe@xxxx.ac.jp)

宛先: 相沢 恵 (megumi.aizawa@yyyy.lib.jp)

日時: 2025年8月23日 22:48


恵、元気? 久坂部です。


急にメールしてごめん。調査のことで、ちょっと話を聞いてほしくて。


例の赤坂田市の件、ブログにも書いたけど、少しずつだけど進んでるよ。


この前、再開発地区に昔から住んでたっていう、すごく元気なおばあさんに話を聞けたんだ。そしたら、「オイカガミ様」っていう、これまで全く知られてなかった神様の名前が出てきて。もう、正直、研究者として鳥肌が立ったよ。文献に残ってない、土地の人だけが知る土着の信仰。これこそ、俺がずっと追い求めてたものだから。


で、意気揚々と、今度はその道の大家だっていう郷土史家の先生に話を聞きに行ったわけ。市の歴史書も編纂したっていう、すごい人でさ。


そしたら、もう最悪。


「オイカガミ様」の話をした途端、「そんなものは記録にない。ただの迷信だ」の一点張り。こっちの話をまともに聞こうともしないんだ。まるで、記録にないものは存在しない、って言わんばかりの態度でさ。ああいう頭の固い「権威」って、本当に苦手だよ…。


まあ、そのおかげで逆に火がついたんだけどね。


公式な歴史から消された(あるいは、最初から書かれなかった)記憶が、この街には絶対に眠ってる。俺がそれを掘り起こしてやる、って。


…と、つい熱くなって長文ごめん。


恵のほうは変わりない? 図書館の仕事、忙しい?


また連絡します。



---


件名:Re: 赤坂田市の調査、ちょっと進展(と愚痴)

差出人: 相沢 恵 (megumi.aizawa@yyyy.lib.jp)

宛先: 久坂部 誠 (makoto.kusakabe@xxxx.ac.jp)

日時: 2025年8月24日 10:16


誠、メールありがとう!


私は元気だよ。こっちは夏休み期間で、子供向けのイベントが多くてちょっと忙しいかな。


調査、進んでるみたいだね! ブログも読んだよ。


「オイカガミ様」、すごい名前だね…。なんか、名前の響き自体に曰くがありそう。誠が好きそうな、まさに「忘れられた日本の足跡」って感じのテーマだね。


郷土史家の先生の話、お疲れ様…。


いるよね〜、そういう「先生」。自分の知識の外にあるものを、最初から認めようとしない人。でも、誠が言う通り、そういう人が隠したがるものにこそ、面白いものが埋まってたりするのかもね。


それにしても、メールの文面から、誠がものすごく熱中してるのが伝わってくるよ。


本当に面白そうだけど、あんまり根を詰めすぎないようにね。また研究室に泊まり込み、なんてことになってない? ちゃんとご飯食べてる?


私の方で、何か調べ物で手伝えることがあったら、いつでも言ってね。データベースを検索したり、参考文献を探したりするくらいならできるから。


それでは、調査の続報、楽しみにしてるね。



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