リナ

ponzi

第1話小貫莉奈

茨城県の小さな街、夏空の下に広がる田んぼの緑が目にまぶしいその場所で、小貫莉奈は高校生活最後の夏を迎えていた。彼女は、ただの女子高生ではなかった。学校中の生徒が、そして街の人々でさえも、彼女の名を知っていた。学業成績は常にトップクラスで、運動会ではトラックを颯爽と走り抜け、バスケットボール部のエースとして県大会を制覇する。その上、誰もが息をのむほどの美貌の持ち主だった。透明感のある白い肌、吸い込まれそうなほど大きな瞳、そしてすらりと伸びた手足。まさに、神が二物も三物も与えたような存在。しかし、彼女自身は、そんな周囲の羨望や称賛の声に、どこか居心地の悪さを感じていた。

「すごいね、リナちゃん。またテスト一位だったんだって?」

「バスケットボールの試合、見たよ。かっこよかった!」

休み時間や放課後、彼女の周りにはいつも人だかりができていた。皆、純粋な憧れや好意を向けてくる。だが、莉奈の心の中には、漠然とした焦燥感が渦巻いていた。「このまま、この街で、ただの優秀で美しい女子高生として終わってしまうのだろうか?」そんな問いが、彼女の心を何度もよぎった。

ある日の放課後、バスケットボール部の練習を終え、汗を拭いながら部室に向かっていると、窓の外から夕焼けのグラデーションが目に飛び込んできた。茜色に染まる空を見上げながら、彼女はふと思った。「私には、もっと大きな世界があるはずだ」。その瞬間、心の奥底で眠っていた何かが、音を立てて目覚めた。

それは、自分自身の可能性を試してみたいという、抑えきれない衝動だった。

スマホを開き、検索窓に「コンテスト」「モデル」といった言葉を打ち込んでいく。そして、彼女の目に留まったのが「超10代美少女コンテスト」だった。それは、全国から次世代を担うスターの原石を発掘する、国内最大級のコンテスト。応募資格は10代の女性のみ。グランプリを獲得すれば、大手芸能事務所との契約、有名ファッション雑誌の専属モデル、さらにはテレビ出演など、華々しい未来が約束されていた。

莉奈は迷わなかった。迷っている暇などなかった。彼女は、これまでの人生で培ってきたすべての才能と、生まれ持った美貌を武器に、このコンテストに挑むことを決意する。

両親は最初、少し驚いたものの、常に目標に向かって努力を惜しまない娘の姿を見てきたからだろう、すぐに背中を押してくれた。友人たちも、彼女の決意を応援してくれた。

コンテスト当日、東京の大きな会場には、全国から集まった何千人もの美少女たちがひしめき合っていた。皆、それぞれの個性を光らせ、夢に向かって輝いている。莉奈は、その中にいても、ひときわ目を引く存在だった。緊張と高揚感が入り混じった空気の中、彼女は自分自身を信じ、ステージに上がった。

そして、最終審査。ライトを浴びた莉奈は、茨城の小さな街にいた時とはまるで違う、堂々とした表情でランウェイを歩いた。その自信に満ちた姿は、審査員たちの心を強く惹きつけた。

「グランプリは、エントリーNo.137、小貫莉奈さん!」

その声が会場に響き渡った瞬間、彼女の人生は大きく動き出した。

グランプリ受賞後、莉奈の生活は一変した。数々の雑誌の取材や撮影が舞い込み、彼女はあっという間にグラビア雑誌の表紙を飾る人気者となった。そして、次なる舞台は、多くの女性が憧れるファッションショー、**TGC(東京ガールズコレクション)**のランウェイだった。

初めてのTGCのステージ。何万人もの観客の熱気が渦巻く会場で、莉奈はただ一人、まっすぐ前を見つめていた。まるで、自分の中にあるすべての光を放つかのように、彼女は堂々と、そして優雅に歩いた。その姿は、もうただの高校生ではなかった。そこには、新しい世界へと羽ばたき始めた、一人のプロフェッショナルなモデルがいた。

高校卒業までの残り数ヶ月、莉奈は茨城と東京を行き来する生活を送るようになる。それでも、彼女の心は常に未来を見据えていた。これは、まだ序章に過ぎない。自分は何者かになるために、この道を選んだのだから。

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