サッカーの試合編

第11話 シリとアレクサ

 ―――― 「なぁ、安藤」


 数日前の文化祭の昼休み。


 屋上で昼食を食べ終わり、トーコのクラスの劇を見に行くため、体育館に移動しようと立ち上がる私を、携帯電話を持ったヒイロが呼び止めた。


「来週の日曜日、サッカー部の県大会の試合があるんだ。俺と、メイドカフェのメンバーも試合に出るんだけど、もしよかったら、見にきてくれないか?」


 そう言って、ヒイロは、私に通信アプリのIDを差し出した。


 彼とは、以前にIDを交換していたのだが、芽衣子に携帯を壊されて、やりとりができなくなっていた。


 それから、なんだか、言い出しづらくなって、そのままになっていたのだった。


「携帯変えたんだな。今度から、アカウントが飛んだら教えて欲しい。ずっと返信がなかったから、嫌われてんのかと思ってた」


 私が、QRコードを読み取っていると、ヒイロはそんなことを言ってきた。


 そんなこんなで、彼とは再び、通信アプリをつなげる事が出来たんだけど・・・


(シリウスのバーカ)


(アレクサンダーのあーほ)


(なんで大魔王が、この世界に転生してるんだよ? バカチン)


(知らぬわ!貴様の方こそ何故だ? アホタン)


(教えてやるもんか! このバカ魔王!)


(なんだと? このウスノロ勇者め!)


(シリウスのあんぽんたん)


(アレクサンダーのおたんこなす)


(ボケ魔王)


(ドジ勇者)


(マヌケシリウス)


(アホクサンダー)


 ・・・


 何故だか、そのトークログは、の罵詈雑言のオンパレードになっている・・・


「もう! あんたら、人の通信アプリで遊ぶな!」


「向こうから、突っかかってきてるのだぞ! 降りかかる火の粉は何とやらだ! 我輩の沽券こけんに関わる!」


「なーにが沽券だ! 小学生か!」


 こんな低レベルな言い争い、今時、小学生でもやらないぞ。


 ため息をついて、携帯を閉じようとしたら、ピコンと、またメッセージが送られてきた。


(悪い💦 アレクサが悪戯イタズラでそっちにメッセージ飛ばしてたっぽい😞 言い含めておくから、許してくれ🙏)


 また、勇者から何か送られてきたのかと思いきや、どうやらヒイロ本人からのもののようだ。


(ううん大丈夫😅 こっちこそごめんね🙏 私からもシリに言っとく😉)


 子供の喧嘩の仲裁みたいだ。

 うちのシリがご迷惑をおかけして申し訳ない。


(日曜日の試合の話だけど、来れそう❓)


(うん😌 トーコ誘って行くつもり😊)


(ありがとう❗️ 試合開始十時な❗️ 絶対勝つから😉)


 私は、小さくてかわいいキャラクターの『がんばれ!』と書いたスタンプを送信した。


 ◆


「それでぇ? 東条くんと、どこまでいったの?」


 ぶっ・・・ゲホゲホ。


「こらリン、汚い! かかったではないか!」


 市民競技場の観客席。 

 水筒のお茶にむせた私に、手に持っていたシリが怒り出した。

 最前列でよかった。人にかかってたら大惨事だ。


「別に、そんなあれじゃないし・・・ゲホッ」


 トーコがいきなりそんなこと言うから、お茶が変なところに入ってしまった。

 急いでハンカチを取り出して、私と携帯シリを拭く。

 

「そうなの?」


 すっとぼけた顔で、トーコは首を傾げた。

 おかしいと思ってたんだ。文化祭での出来事は、全部こいつの仕業だったのか。

 

「でも、通信アプリぐらいは交換できたんでしょ? 東条くんから、リンに嫌われてるかもしれないって相談受けた時は、爆笑こらえるのに必死だったんだから」


 なんか、行動の端々に悪意を感じるぞ、それ。

 

「我輩は勇者もどきは好かん! 勇者アレクサンダーはもっと好かん!」


 ヒイロの話になると、最近シリはずっとこの調子だ。


「色々大変だなぁ、リンも」


 セリフと裏腹に、いたずらっぽく笑うトーコ。


「・・・あれ? トーコ?」


 そんな彼女に、後ろの方から女性の声がかかった。

 

「ん?」

 

 トーコにつられて、思わず、私も振り返ると、そこには、男性のような格好をした、背の高い女性が立っていた。

 

 ショートカットに、少し太めの眉毛。白い肌をした、中性的な凛々りりしい顔立ち。

 よく見れば、体のラインは女の人のそれだけど、声を聞かなければ、間違いなく、男性と見間違えてしまうだろう。

 

(むむっ、我輩は、この男女おとこおんなには見覚えがあるぞ・・・トーコ嬢と劇をしていた・・・確か名前は・・・)

 

 私は、思わず、シリをカバンの中にしまいこんだ。


 川島ヒカル。彼女は、トーコと同じクラスの人物で、バレーボール部のエースだという。

 部活が同じであるため、うちのクラスの伊知いじ芽衣子めいことも面識がある人物だ。


「ヒカルじゃん! なんでまた、ここにいるの?」


「そりゃこっちのセリフだよ。トーコはどうしたん?」


「私はただの付き添い。東条くんの試合見にきた」


「あぁ、そう言うことか」


 彼女が、私の方を見て会釈をしてきたので、私も会釈を返す。


「ヒカルは?」


「お兄ちゃんの試合見に来た」


 彼女の話によれば、うちの高校のサッカーチームのゴールキーパー、三年生の川島栄治は、彼女の兄であるらしい。


 そう言って、彼女は、トーコの隣の席に座った。

 

 ピッ

 

 そこで、フィールド練習終了のホイッスルが鳴った。そろそろ、試合開始だ。


 ◆


 ホイッスルの音と同時に、ヒイロが後ろにボールを蹴り出し、先輩選手がそれを受けたところで、試合は始まった。


 青いユニフォームを身にまとった、私たちの高校、通称、一高いちこうこと、洲的すまと第一高校のスターティングメンバーには、私の見知った1年生がヒイロを含めて三人いる。


 後ろの方で守りを担当する、ディフェンダーの友永悠人くんと、真ん中の向かって右側に位置している、ミッドフィールダーの田中葵くんだ。


 メイド服姿の田中くんは、本当に女の子にしか見えなかったけど、こうしてみると、ちゃんと男子なんだと妙に納得してしまった。


「ヘイヘイ!」


「オイオイオイオイ!」


 クラブの応援団の応援に混じって、選手たちの声が聞こえてくる。

 

 白いボールは、相手の出方を伺いながら、選手から選手にゆっくりと回される。

 

「なかなか熱い視線だねぇ」


 意地の悪い笑みを浮かべながら、トーコはそう言った。


「サッカー、お母さんが好きだからね。ワールドカップよく見てるし」


 残念でした。ヒイロばっか見てるわけじゃないもん。

 日本にいた頃は、お母さんはワールドカップ開催の時は、よくよく深夜にテレビを付けて観戦していた。


「へぇ・・・でも、リンの家ってサッカーの試合の時、喧嘩にならないの? イギリス対日本の時とか」


 トーコはそう言って、首を傾げた。


対日本ね」


 トーコよ。日本人が言うところの『イギリス対日本』でサッカーの試合が行われることはないのだよ。

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