死神ストーカー

雨曇空

第1話『ホレルナキケン』

──春。


この季節が来るたびに、人は変わろうとする。


進学、進級、新しい制服、新しい友達、新しい自分。


でも僕は、ちょっとだけみんなとは違う意味で「変わろう」と決めた。


絶対に、惚れられてはならない。


中学時代、僕はモテなかったわけじゃない。むしろ“変な意味で”人気はあった。

けれど、付き合いかけた女の子は、ことごとく奇怪な事故に巻き込まれ、気がつけば僕のそばには誰もいなくなった。


そんな僕のアダ名は──エクソシスト。


中一の春。バレンタイン、A子さんが僕に手作りのチョコをくれた帰り道。

彼女は田んぼの裏道で転倒し、肥溜めにダイブ。

チョコもろとも服が台無しになり、匂いは1週間以上消えず、「肥溜めチョコ」という不名誉な称号を得て転校していった。


中二の秋。生徒会役員の真面目なB子さんが、放課後の教室で僕に「ずっと見てました」と告白してきた数日後。

彼女は校舎裏で掃除中、突如落ちてきたゴミ袋に直撃。幸い軽傷で済んだけど、以降も身の回りで不審なゴミ袋の落下が続き、急速に人間関係が悪化。やがて不登校に。


中三の冬。クリスマスイブに告白してきたC子さんは、自宅の周囲だけ異様に雪が積もるようになり、なんとか登校しても身の回りだけ雪だらけになる謎現象が頻発、「降雪地帯」として都市伝説扱いされる羽目になった。


──偶然だと思いたい。


でも、卒業式に女子と撮った写真の中。僕の肩には、顔の様に見える黒い何かが──。


「お前、最近マジで憑かれてね?」


そう言って親友が肩を叩いてきた瞬間、僕の中で何かが完全に壊れた。


もういい。僕は、誰にも好かれたくない。


高校では、絶対に恋なんかしない。


絶対に、フラグなんか立たせない。


無口、無臭、無存在感。廊下で女子とぶつかっても目を合わせない、返事もしない。


制服はわざとヨレヨレ、髪はボサボサ、目元に隈。

仕上げに腐った牛乳の香水を一吹き。


「……完璧だ」


これで、誰も僕に近づいてこない。


それが、僕の選んだ“平和な青春”。


──だけど。


その日、僕の人生はまた、終わりのカウントダウンを始めた。

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