第13話 ポスター



私はずっと優等生だった。

ただ、兄と姉は私よりもずっと勉強が出来た。

兄も姉も日本でトップクラスの大学に現役合格しており、姉にいたっては現役大学生起業家としてかなりの知名度を持っている。

当然私も後に続くつもりだったが、高校受験で挫折し、数ヶ月受験勉強から逃げた。

結局、偏差値中の上の高校に入学し、推薦で良い大学を狙うつもりだった。

学級委員長、部活の部長になり、成績も常にトップクラス。

品行方正、謹厳実直、公明正大。

「正に委員長の中の委員長」

と晴に言わしめるほど、真面目に学校生活を送っていた。

まぁ、元ネタは羽川さんだけど。

 

問題が起きたのは、高校2年の秋。

私はギターボーカルでポップロックをカバーするバンドのリーダーだった。

文化祭に向け練習中、ベースの1個下の男の子が歌の上手な女子がこのバンドに入りたがっている。聞いてみてくれないか?と頼んできた。

正直私は歌に拘りはない。

ギターコーラスの方が良いと思っていた。

 文化祭では部活の顧問が指定した曲を1曲演奏しなければならないのだが、その曲の難易度が高く、ギターに専念したかったのだ。


1度練習に来てもらい、歌ってもらった。

可愛らしい女の子でアニメ声と大きな胸を持っていた。

初めてバンドで歌うので正直上手いという程では無かったけど、このバンドに入りたい女の子を邪険にするのもな。と思い、参加を許可した。

ドラムの凛は必要ないと言って少し不貞腐れていたが。

本気で拒否するほどではなかった。

 

失敗だった。

その新ボーカルの女の子は課題曲を覚えて来なかった。

私たち楽器は結構な時間をかけて曲を弾けるようにするのに、だ。

 特に課題曲はMr,BigのGreen-tinted sixties mind。

イントロからとても難しい曲で、晴のお父さんに弾き方を教えてもらってなんとか弾けるようになった。

なのに歌詞どころかメロディすら覚えてこない。

何度も何度も。

今思えば正直私も良くなかった。上手く乗せてあげれば良かったのだ。

 だけど当時私には余裕が無かった。

家庭内も今ほど上手くいってなかったし、付き合って1年の彼氏に振られた直後だった。

しかもその元カレは可愛らしい胸の大きな女の子と浮気をしていたのだ。

晴は別のクラスで別のバンドだ。とても忙しく中々会うことは出来て居なかった。

私は成績もジワリジワリと下がっていて、私は何処にも自分の居場所を感じられずにいた。

本当に何をやっても上手くいかない。数ヶ月間ずっと、そう感じられる時期だったのだ。

 

「だってぇー私英語とか歌えないしぃ。別に文化祭とかどーでもいい。」

文化祭の1か月前、新ボーカルの女の子がそう言った瞬間私のなかで何かが終わった。

私はギタースタンドに立てていたギターを背負い投げした。

誰もいない壁に向かって。

縦回転した私のギターのネックが教室の壁に刺さって、数秒後床にゴトンと大きな音を立てて落ちた。

私はそのまま手ぶらで帰宅した。

 

自室のベットでゴロンと横になってから自分のしでかした事を思い返す。

停学かなぁ…器物破損。

もしかしたら退学もあるかもしれない。

まぁ、いいか。

なるようになれだ。

 きっと数時間後には誰かからスマホに着信が来るだろう。もしかしたら学校から自宅に電話が入るかもしれない。

その電話がかかってきたら、きっと私の人生は転落してく。

 もういい。どうせ私なんて。

 

だけど、結局その日電話は来なかった。

その日は金曜日だったが、土日も特に何も起こらない。

 私は塾をサボりひたすらアニメを見て過ごした。

日曜日の夕方、凛からLINEが来た。

「なんとか晴が誤魔化したから大丈夫。普通に学校来な。」

1枚の写真が添付されていた。

私が開けた穴には大きな消防車のポスターが貼られていた。

  

 

 


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