第22話 出発
「____さて、まずは集まってくれてありがとう。今回、護衛依頼を出させてもらったセルエナだ。よろしく頼む」
2人組の女剣士さんの方……セルエナさんは、そう言って俺達を一瞥した。セルエナさんの前には俺以外の五人が立っていて、今から依頼内容の説明などを行うようだ。
それは兎も角として………
「…………あの、すみません。どうして俺だけこっち側の席に?」
「む?お前は来ることが決まっているのだ、別に構わんだろう。それとも何か、我々の隣に座るのは不服か?」
「いえ、そんなことは、ないんですけど………」
心なしか、相向かいに座る五人組の視線が痛い。胸中に『なんでコイツだけ』って考えてるのが良く分かる。
それに、なんというか……スフルさんだけ、異様に距離が近い。俺なんかしたっけ?逆に嫌われるようなことしかしてない気がするんだけど……態度に対して注意とかしちゃったし。それに、スフルさん人見知りっぽかったんだけどなぁ……。
「それでは、貴公らの話を伺おう。護衛依頼に同行させるかどうかはそれから判断する」
そうして、五人組の面接が始まった。
「俺達は『レッドグリズリー』って名前のBランクパーティーだ。俺含めた五人は全員このパーティーメンバーになる」
そう前置きを入れてから、彼らはそれぞれ自身の名前・特技・役割などを口にしていく。結構集中して聞いていた筈なのだが、俺は前世のころから名前を覚えるのが大の苦手だったので、リーダーのモンガさん以外の名前は吹っ飛んだ。
…………あれ、俺って名前覚えるの苦手だったのか。偶に、前世の記憶がよみがえるときがあるんだよな……。この謎も、追々していかなくてはならないのだろうか。
『レッドグリズリー』の面々は全員が男で、もれなくガタイのいい大男だった。確かに、見た目から熊を彷彿とさせてくる。加えて、それぞれの持つ武器はそれぞれ巨大で、大剣に大楯に弓に大槌と来ている。もう一人はどうやら拳で戦うようだ。
確か、パーティーのランクは全員で力を合わせたときに戦えるモンスターの脅威……だっけ。勿論彼らの強さは連携なども含めてのものなのだろうが、ランクだけで言うなら俺と同じCランクだと思われる。
ソロでBランクって、ここら辺にいるんだろうか?まだ三日しかいないせいでよくわかっていないが、今のところはCランク以上の冒険者は見かけていない。………凡人の限界がCって感じかな?
俺があれこれと思考を巡らせている間に話し合いは終わったようで、最終的に「お前たちの動向を認めよう」とセルエナさんが口にして面接は終わった。
そして、メンバーの確認が終わったのなら次にすることは依頼内容の確認だ。
「まず、今回の護衛依頼はここから東へ進んだ先にあるイーストまでだ。道中の食事・水は此方で用意する。勿論、自分たちで採ってきても構わない。日程は十四日から多く見積もって二十日程度、怪我を負った場合などは自己責任………で、いいか?」
「はい」「「「「「おう」」」」」
俺達の快い返事に満足したのか、セルエナさんは「よし!」と満足げに頷いて、「こちらで用意した馬車がある。警戒は二人か三人程度にして、残りは馬車へ乗り込んでいいぞ」と言って、右腕の腕輪を左手で触った。
すると、虚空に真っ黒な穴が開き、セルエナさんはそれに手を突っ込んだ。
「なるほど、特に荷物を持っていないからもしやと思ってはいたが、セルエナ殿にはそれほどの代物が……」
唯一名前が分かるモンガさんの呟きに頭の中に「?」を大量に浮かべつつ、セルエナさんの方を見ると……気付けば、彼女は一枚の地図を持っていた。
「収納袋だ。旅に必要な物も全てこの中に入っている」
自信満々なセルエナさんの顔は、その美貌も相まって実に絵になっていた。………『レッドグリズリー』の面々も、思わず見とれてしまっている。
俺も、幼馴染のあの美少女二人が居なかったらヤバかったかもなぁ……。それはもう耐性が嫌というほど付きましたというものである。
「さて、それでは出発だ」
俺は内心「あれ、スフルさんは自己紹介とかしないんだ」と思いながらも、荷物を背負って歩き出したのだった。
☆
『レッドグリズリー』の五人は、俺が思っているよりも強かった。
「そっちに一匹行ったぞ!」
「おう!」
巨大な武器による大振りの一閃は、纏めて何体もの敵を吹き飛ばしていく。武器の重量もさることながら、それを扱う彼らの筋力・技量も卓越したものなのだろう。
「俺も一緒に戦いたかったなぁ……」
「馬鹿言え!テメェ、木剣で護衛依頼受けるたぁどんな神経してやがるんだ!?俺達をテメェの自殺に巻き込むんじゃねぇよ!依頼主がどうしてもって言うから面倒見てやってるが、本当は今すぐこの依頼を降りてほしいぐらいなんだからな!ああん!?」
「す、すみません………」
最初に警戒組・休憩組に分けようとした時の話だ。俺は自身の修行もかねて、「俺が警戒組をやりたい。というか、この旅の間ずっとさせてほしい」とまで言った。
最初は面倒をしてくれる俺に「言うじゃねえかあんちゃん!」とバシバシ俺の背中を叩いてきた彼らも、俺が襲い掛かってきた魔物に木剣を取り出した瞬間、「ぶち殺すぞおまえぇぇぇぇ!!」と言いながら魔物に体当たりしてそのまま俺に突っ込んできた。
そこから「俺は戦えるんです!」と何度も相談したが、取り合ってもらえず。『レッドグリズリー』とセルエナさんが同時に「こんな奴捨ててしまおう」と言ったところで割り込んできたのがスフルさんだった。
正に鶴の一声、「ひ、一人くらい賄う食料はありますよね!?なら、どうか置いてください!」と、なんと土下座までしてくれた。
ほんっとうにありがたいし本当に助かっているのだが、なんでそんなことをしたのかの理由が一切わからないのと、その他メンバーが俺に向かってこれ以上ない程の敵意と殺意を持って見つめてくること、俺の評価が「初対面の奴に土下座までさせて養ってもらおうとしたクズ」というものになっているのがキツイ。いや、俺の責任なんだけどね?
どうやらこの旅、一筋縄ではいかない案件のようだ……。
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