EP.20 キッカー対アルテミス・クエルAD部隊

 ハンソン・ドロイド社地下では作戦司令室が存在する。地球政府のお偉方が現在の戦況を見ていた。

「ええい!増援は出せんのか!」

「現在四方を固められており増援は出せません。」

「例の作戦はどうした?!」

「成功はしましたが、AD.E-5が暴走を……。」

「暴走だと?!」

 ガイア・コネクト社の人間が口を挟む。

「失礼ながら、あのニューラル・インターフェイス・システムは第四世代型強化人間用に調整されたものです。パイロットは恐らくキッカー・エル……第三世代型強化人間とはいえ制御はできないでしょう……。」

「アルテミス・クエルのAD部隊は何をしている?!」

「現在、エイジ・スガワラ率いる四機は暴走したキッカーと傭兵一人に手こずってるようです。」

「何?!たかが二機だ!モタモタするなと伝えろ!」

「は!」


 ——エイジ達はキッカーとエルノアの攻撃に悪戦苦闘を強いられていた。キッカーはエルノアがいるのにも関わらず、目に入ったADは破壊しようと攻撃する。対してエルノアは落ち着いた操縦をし暴走したキッカーを利用していた。

『エイジ!あの傭兵かなりやばい!私が先行する!』

 リンダが先行しエルノアを引きつけエイジ達から離れていく。

『良いか!ぜってー追ってくんなよ!お前らは新型とやり合ってろ!』

 リンダと敵傭兵が少しずつ遠くへ行ってしまう。

「三機でやるぞ!」

『『了解!』』

『メッセージを受信。』

「こんな時に何だ!」

『早くしろ!これ以上の消耗戦は危険だ!バルトン・シミラスが敵を排除して回っている!このままでは六割以上の兵器を失う!』

「彼はどこに?」

『中央Dブロックだ!地下に入られては大損害だ!急げ!』

「了解した……。」

 時間を見ると19時に差し掛かっている、彼は本当に俺との約束を守る気だ。決闘場は私が作ると言った……横槍を入れないように配慮しているつもりか……。

 五号機の右手が変化する、例のサージか……あれに触れれば1発で終わりだ。

『死ねえええ!エイジ・スガワラ!』

 右手がコクピットへ触れそうになると横からマヤの刀が遮る。

 ギリギリで腕を引っ込めたようで目標がマヤに移る。

『邪魔だ!二号機!』

 左手レールガンを構えて直ぐに射った、マヤは反射的に避けて近づく。

『右腕を落とす!』

 マヤが刀を振り下ろす直前、五号機の右腕が稲妻を発する。その稲妻はマヤの機体に直撃した。

『ふざけんなよおおお!』

 口悪く抵抗するが機体がオーバーヒートを起こす、しばらくは動けない。

『これで終いだ!』

 二号機の首の間にレールガンを突っ込む。

「アリエスタル、準備は良いな!」

『いつでも!』

 エイジの機体はキッカーに蹴りを入れるとよろめくが、レールガンは持ったままだ。

『邪魔をするなと言っている!』

 キッカーは再び右手のサージを使いエイジのコクピットに押し付けるがバッテリー残量が足りないのと放熱しており装甲解放状態だった。

「食らえ!」

 エイジの装備している武器は速射砲と帯電ナイフと簡素であるがもう一つ作戦時を予想して持たされた武器がある、それは『マグネット式電圧二連装弾』でワイヤーマグネットが機体に引っ付き電圧を流す、機体は強制的にオーバーヒートを起こす。

 マグネットを放つとキッカー自身避けはするが肩に引っ付き電圧が流れる。

『おおおおおおおおお!!』

 キッカーは感電しながらも距離を取りワイヤーマグネットの線をちぎる。

『私を馬鹿にするなああああああ!』

 頭に血が上ったキッカーの足元に何かが刺さる、遠くからの狙撃。アリエスタルの装備する『AD用120mm広域電磁界弾』刺さった地面からホール状に電磁界が広がりADとパイロットに支障を来たす。

 エイジは急いでマヤの機体を掴みその場から一気に距離を置くと電磁界が発生しAD.E-5はオーバーヒートとはいかなくとも立ち膝になり機能を停止した。

「こちら、アルテミス・クエルAD部隊……五号機の停止を確認。」

『こちら第五中央管制塔、停止を確認した。増援は送れないため、そちらで対処をお願いしたい。地下Bブロックに移送……待て……!』

 管制室が何か異常を検知した。

『アルテミス・クエルAD部隊!そこから離れろ!』

 再び五号機に目をやると徐々に立つ、同時にレールガンがエイジの機体に向いていく。

『撃たせない!』

 アリエスタルは再び電磁界弾を撃つと高く飛び上がりレールガンの弾がエイジの足に当たる。場所は右膝、当然倒れてしまう。

「そんな……機能は。」

『頭がガンガンする……』

 キッカーはAD.E-5の頭を引っ張り始めるとバチバチと中の配線が露わになる。

『このシステムを作った奴らは悪魔そのものだな……こんなにも私を苦しめるとは……。』

 恐らくキッカーはニューラル・インターフェイス・システムの機能が外れている、正常に戻ったか……。

 五号機の目の光が消えると頭との接続が完全に絶たれた事が分かる。

『この機体はハズレだが……まぁ良い。』

『こちら第三南管制塔!敵戦艦が近づいている!現在、対空攻撃兵器は八割破壊されている、AD部隊で撃沈を試みてくれ!』

『迎えが来たかな……』

 キッカーは左手のレールガンをアリエスタルに向け右手のサージをチャージし始める。マヤの機体はまだ動かない……。

『お前らの位置は記憶している、メインカメラがなくともボディについたサブカメラだけであらかた予想は出来る。』

 その時、貫通砲の弾が五号機に飛んでくるがそれを避ける。

『無事ですか?エイジさん……』

「操作してるのはローラか……?」

 今までの事を振り返れば不可能ではないだろうが、驚きはする。ガイア・システムに自動で制御させる事は可能だが、システムが統一されている以上ハッキングされかねない、なので動かせても短時間しか制御できないのだ。MTDの技術もあるが整備の際効率が悪すぎるためそのシステムは入れていない。

『やはり、確定か……その機体は意思を持っている。己の辿る道をも知らずに……これだから政府は……。』

 キッカーの意味深なセリフが気になるが、潮時だ……五号機のバッテリーはもう残り少ないはず。そして、敵戦艦も近くに来ている。

『また会おう。今日は私の勝ちだ……トラブルはあったがね……』

 敵戦艦から月政府のADが続々と出てくる。

 キッカーは戦艦へ向かって行くと月政府ADがこちらに威嚇射撃を始める。

「ローラ!マヤの機体を安全な所へ、アリエスタルは隠れながら射撃を!」

 指示を出し、マヤ機体の安全が確保された後AD.E-MPから初号機に乗り換えた。

「それで、内部の敵は?」

『それが……一切の情報が分かりません。エイジさんの危険もありましたし、申し訳ありません……。』

「いや、でもこれで確定はしたさ。内部の敵はだいぶ絞り込めたはずだ。」

 そう……初号機が格納されていた場所の整備兵が怪しい。担当者が複数いるはずだ、しらみ潰しに行けばきっと見つかる。

 

『外部通信です!』

『エイジ・スガワラ。バルトン・シミラスだ……決闘場の位置情報を送る。』

 ゴーグル内右上にポイントが表示される。

『15分後を楽しみにしている。私が勝てばその機体はもらい受ける、私が負ければ全てを話そう。ルナティック・ブラックナイツの目的を……』

 15分後……やはり20時だ。彼は本当に決闘を望んでいると確信した。

『私達……いや、私は正義のために戦っていると信じている。死んでいった最初の仲間に捧げる……私の信じた正義そして耀き星の時代になるための証拠を貴様に託すため!』

「何を言って……。」

 何を言いてるのかさっぱり分からない……カッコつけてるつもりか。

『まだ何も分からなくて良いさ。私が見込んだ男であれば勝ち取ってみせるが良い!』

 通信は途切れ情報を整理しようとするが決闘以外の事が分からない。

『エイジさん、今は送られたポイントに……。』

「ローラお願いがあるんだけど。」

 今は戦争中、手段は選ばないのが最善だが……俺は……。

「決闘が始まったらローラの補助は一切受けない。サポートは不要だ。」

『何故です?旧機体とは言え相手はバルトン・シミラス。強敵ですよ?』

「知ってるよ……だからだよ。」

 一対一の勝負、俺だけの力で戦う。理由なんてない、ただ単に一方的な約束をあっちからしてきただけだが……何故か彼の期待を裏切りたくなかった。握手を交わしたあの日、彼の信念を目の当たりにした。冷たい義手だったが気持ちが伝わる、戦っている時の彼は楽しそうにしているはずだ、あの時に握手した悲しい顔を二度とさせない。


 そんな理由じゃダメか?


 EP.21へ続く……。

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