第27話 ルーツの話

 九月上旬にミス上海シャンハイのイラストと四コマ漫画をXとインスタグラムに投稿した。

 漫画というものに初めて挑戦してみた。四コマ漫画は基本中の基本だ。ウェイトレスである上野海美うえのうみことミス上海シャンハイが客から注文を受ける。ミス上海はないアルヨと答える。客は無いのか有るのか分からなくて困るというストーリーだ。

 我ながらなんだそれはというストーリーだが、思いのほかこれが受けた。

 それはもう理央をモデルとしたミス上海が可愛らしく描けたことに所以すると思われる。

 ミス上海のチャイナドレスは極ミニのスカートで袖はノースリーブにした。ぴったりとしたデザインで胸の先端もほんの少しだが突き出る形にした。

 このミス上海のイラストが初めての一万いいねを達成した。それはもう通知がうるさくて困るほどだ。

 さっそく水樹夏彦からコメントが届いた。

 このミス上海という女の子良きですね〜。というものだった。続いてのっぺらぼう麻里先生からも良き良きとコメントがよせられた。

 またプロに認められて、僕は思わず一人でにやりとしてしまう。

 やはりというかまたというかリプライの中には女性蔑視だの性的搾取だのというコメントが書かれていたが黙って無視アンドブロックをした。

 理央も無視が一番と言っていたしね。しかしこれらのリプライはブロックしてもブロックしてもわいてくるな。

 それにしてもツイフェミと転売屋とカスハラクレーマーは三大この世にいらないものだな。

 とくにカスハラクレーマーは僕の大事な妹である美琴をうつ病まで追い込んだので心の底から憎んでいる。前に見た深夜アニメのように執行官に撃たれたらいいのにと思う。


 ミス上海のイラストがめでたく万バズを達成した日の夜、理央が僕の好きなカレーを作ってくれた。彼女の作るカレーは市販のルーを使っているだけなのになぜか特別美味しい。

 この日の夕食はチキンカレーにトマトとレタスのサラダ、付け合わせはゆで卵と福神漬けであった。

 理央は最近はまっている青島ビールを美味そうに飲んでいた。

 最近の家の冷蔵庫には食材の他に缶ビールに缶チューハイがびっしりと詰められている。大きめの冷蔵庫に買い替えようかなと悩んでいる。

 冷蔵庫も理央に侵略されている。


「まずはミス上海の万バズおめでとう」

 理央は青島ビールの入ったグラスを掲げる。

 僕はそのグラスにグラスをカチンと当てる。

 僕のグラスにはジャスミン茶が入れられている。理央が青島ビールにはまっているように僕はジャスミン茶にはまっている。

「ありがとう理央」

 理央に褒められると素直にうれしい。他の誰よりもだ。

「冬のコミックカーニバルに出す本なんだけどアサシンバニーガールとミス上海の二本柱でいこうと思うんだ」

 僕はコミックカーニバルに出す本の概要を理央に説明した。今あるイラストのストックに何枚か追加して二十枚ほどの本にする予定だ。

 印刷所は理央の知り合いに頼むことにしてある。

「うん、良いと思うよ。正直アサシンバニーガールだけじゃあ寂しいと思ってたのよね。ミス上海も万バズいったわけだしね」

 理央はゆで卵にカレーをかけて食べている。理央はゆで卵が好物だ。忙しいときの朝ご飯はゆで卵で済ませるらしい。

「もう一つリオネルのロム写真集も出したいんだけど」

 僕は前々から考えたいた提案をしてみた。すでに理央の画像は三千枚近くパソコンに保存されている。

 ロム写真集を出すには十分なストックだ。

「うーん」

 理央は形のいい顎に人差し指を当てて唸る。

「コスプレは好きなんだけどね」

 またうーんうーんと唸る。どうやら逡巡しているようだ。

「ごめんなさい。私ってやっぱり裏方でいたいみたい。コスプレで売り子するのは良いんだけどそれ以上表舞台に出るのはね」

 結果的にリオネル写真集はお蔵入りとなった。

 残念だが無理強いは仕方がない。でも僕のイラスト集だけでは寂しいし、バンチにかけるな。

「もう一つ何か欲しいだけどね」

 僕はカレーを一口食べる。チキンの肉がほろほろと口の中で崩れる。理央のカレーは本当に美味しい。すっかり胃袋をつかまれている。

「アサシンバニーガールとミス上海のグラビアは悪くないと思うわ。モデルを私じゃなくて別の人に頼んでみましょうか」

 理央は妥協案を提案する。たしかに別のモデルを用意するのもありだ。

 さてそれを誰にするかだ。

 ふと白石澪の顔が頭をよぎる。

 白石澪の巨乳ならきっと受ける。しかし同僚にコスプレ写真集のモデルを頼むのは気がひける。

「そうだ、美琴ちゃんなんてどうかしら?」

 理央はぽんとグーにした右手で左の手のひらをたたく。ひらめいたのポーズだ。

「美琴か」

 美琴は身内のひいき目を抜きにしても美人だ。

 かつて満州と呼ばれた地で女優をしていたひいお祖母さんさんに似て美人だ。

 僕のひいお祖母さんは李木蘭リームーランという名で女優をしていた。李木蘭リームーランという名は芸名で本名は田沢涼子というれっきとした日本人であった。

 いわゆる戦意高揚のためのプロパガンダ映画に多数出演していた。人気はかなりあり、慰問に行くといつもよろこばれたという。

 しかし終戦後、田沢涼子こと李木蘭リームーランは中国政府からスパイ容疑をかけられ、捕まりかけた。

 もしその時ひいお祖母さんが捕まっていたら僕も美琴もこの世にいなかっただろう。

 満州鉄道の元社員に助けられ、命からがら日本に逃げ帰ってきた。その満州鉄道の元社員というのがひいお祖父さんだ。

 けっこうドラマチックな話なので僕が漫画の技術を高めたら、題材にしたいとひそかに考えている。

「美琴ちゃんなら美人だしスタイルも良いし、良いんじゃないの」

 理央は美琴を推している。

 

 実の妹にコスプレ写真集のモデルを頼むのは気がひけるな。

 僕が悩んでいると理央はスマートフォンをいじりだした。

「やってくれるみたい」

 なんと理央はさっそく美琴に連絡をとり、許可どりまでしたようだ。ていうかいつの間に理央は美琴とラインを交換したのだ。

 僕がスマートフォンを確認すると美琴が未確認生物リオネルのグループラインに参加していた。

そういうわけで美琴が新しくサークルのメンバーに加わることになった。

 


 

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