22.5話 私たちのセカイのこと(new)

一通り話が終わり、落ち着いた時間が流れる中、エリがふと口を開いた。


「そういえば、今更なのですが、英国や米国の男女格差ってどんな感じなんですか?わたし、女子校だったので、正直そのあたり疎くて」


彼女の質問に、シェリーは少し遠い目をした。


「英国は一般人の間では、ドレスが台頭する前とさほど変わらない。だが、軍の中ではかなり差別意識と対立がある。私の両親は二人とも軍人なので、随分と苦労したそうだ」


エリは、その答えに少し驚いたように眉を上げた。


「じゃあ、シェリーも多少は男性を軽く見ていたんですか?」


その言葉に、シェリーは「ふっ」と自嘲気味に笑い、苦々しい表情で言葉を続けた。


「正直言えば、身の程を知らない思春期の頃にはかなりそういう意識もあったな。うっかりそれを母親の前で言ってしまったものだから、気絶するまで折檻されたが」


シェリーは、まるで当時の痛みを思い出しているかのように、無意識に肩を抱いた。


「若気の至りってやつだな。まあ、うちの母上はこちらがつけあがる隙も与えなかったが、似たようなもんだったよ」


カオリはそう言って、からかうようにシェリーに目を向けた。


「両親は仲が良かったし、母は誰が相手であっても父への侮辱は許さなかった。一度は撤回を求められたが、反抗心で抵抗したんだ。そしたらもう、決闘だ。あんな迂闊な真似は二度としないと誓ったさ」


シェリーの言葉に、エリはごくりと唾を飲んだ。シェリーを一方的に倒せるほどの力を持つ母親の存在を想像し、思わず冷や汗が流れる。


「シェリーを一方的に倒せるなんて、強いお母さんなんだね……」


エリは少し引きつった表情で相槌を打った。


「日本も各武道の道場や警察、自衛隊では男女間にそれなりに壁があるな。特に、ドレスが開発されて以降は、娘に武道を習わせるブームがあったしな」


カオリは、落ち着いた口調で日本の事情を語った。


「意外と身近なところにも壁があるんですね。女性政治家が増えたというのは知識として知っていましたが、そんな変化もあったなんて」


「なあ、アメリカはどんな感じだ?」


カオリの問いに、ナツメは少し考え込むように視線を落とした。


「ドレスが割と身近だからか、一般にもかなり差別意識はあるように思う。それこそ、十歳くらいまでは男児に女装をさせて外出させる地域や家庭もあるくらいだ。そこに人種差別が加わるのだから、もうカオスだな」


ナツメの言葉に、カオリは同情するように眉をひそめる。


「それはなんとも、住み難そうだな」


エリは、ナツメの表情に宿る寂しさを感じ取り、意を決したように問いかけた。


「その……ナツメさんも嫌な思いをしたことがあるんですか?」


ナツメは、一瞬だけ目を伏せた後、顔を上げた。


「日系人だからそれなりにな」


「私から見たら、ナツメさんはそんなに東洋人には見えませんが」


エリの純粋な言葉に、ナツメは苦笑した。


「シェリーならわかるだろう?」


シェリーは静かに頷く。


「そうだな、東洋系のルーツがあるのは最初からなんとなくわかっていた」


「そういうものですか……」


エリは二人のやり取りを不思議そうに見つめた。


「まあ、ハーフにとって住みやすい国なんてあるのかは知らないが。私の場合は、父が何系かもよくわからないし」


ナツメは少し言葉を濁したが、カオリは慎重に、しかし踏み込むように尋ねた。


「その、母親に見当はついてるってことか?」


ナツメは、一瞬だけ戸惑いの表情を見せたが、すぐに落ち着きを取り戻し、寂しそうに微笑んだ。


「まあ、条件はかなり絞られるし、組織の中では有名人だったから特定はできた」


「会ったことは?」


カオリの問いに、ナツメは静かに首を振った。


「まだない。でも、いつかは話ができたらと思っている」


その言葉には、会いたいという希望と、会うことを躊躇う複雑な感情が入り混じっていた。


「感動の対面が叶う日が来ることを祈ってる」


カオリは、ナツメの肩にそっと手を置いた。その気遣いに、ナツメの表情が少しだけ和らぐ。


「ありがとう。その、みんなの両親はどんな人なんだ?」


ナツメは、重い空気を振り払うように話題を変えた。エリは、嬉しそうに身を乗り出す。


「わたしの母はクサナギ重工で開発者をしてるんです。だから、ミラージュとわたしは姉妹みたいなものなんです」


そこから、家族の話題が和やかに続いた。張りつめていた場の空気は解け、三人の間に、穏やかな時間が流れた。


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