幕末から徳川将軍が最強すぎたもしもの物語(歴史苦手でも読めます)

@shingoK777

第1話 幕末の嵐、神の如き最強将軍が立つ

時は1860年代。日本は、嵐の前の静けさに包まれていた。黒船が来て以来、外国とのゴタゴタが絶えず、国内では「尊王攘夷そんのうじょうい」を叫ぶ者たちが不穏な空気をまき散らしている。江戸城の奥、将軍が暮らす大広間には、異様な緊張感が漂っていた。


第14代将軍、徳川家茂いえもち。まだ十代半ばだが、その瞳の奥には、常人では計り知れない深淵な力が宿っていた。家臣たちは口々に騒ぎ立てる。「長州が!」「攘夷じょうい派が!」「このままでは幕府の権威が!」と。


だが家茂いえもちは、ただ静かに座している。その細身の体からは、まるで宇宙そのものを圧縮したかのような、途方もない威圧感が放たれていた。家臣たちは家茂いえもちのただならぬ気配に、声をひそめていく。


「将軍様…このままでは…」


重臣の一人が震える声で進言した。家茂いえもちはゆっくりと顔を上げた。


「…心配はいらぬ」


その声は、広間いっぱいに響き渡る。静かで、それでいて、地球の核から発せられたかのような重みがあった。


「全て、この私が終わらせよう」


家茂いえもちはそう言うと、静かに立ち上がった。その瞬間、広間の空気が一変する。



京都、池田屋。

尊王攘夷そんのうじょういを叫ぶ長州藩士たちが、密議を交わしていた。彼らは自分たちが歴史の主役だと信じていた。


「このままでは幕府の好きにされてしまう!我らこそが、日本の未来を切り開くのだ!」


彼らの高揚感は最高潮に達していた。そこに、一人の若者がふらりと入ってきた。


「…将軍、徳川家茂いえもちだ」


若者は静かに名乗った。長州藩士たちは、呆気に取られる。将軍が、たった一人で?

彼らは笑い声をあげた。


「ふざけるな!そんな嘘が通じるか!」


藩士の一人が刀を抜いて襲いかかる。だが、その刀は家茂いえもちの体に当たる直前、まるで時間が止まったかのように、ぴたりと静止した。


「な…!?」


藩士は驚愕し、刀を引こうとするが、まるで岩にでも刺さったかのように、微動だにしない。家茂いえもちは何もせず、ただそこに立っている。


「愚かなことだ。争いは、何も生まぬ」


家茂いえもちが静かに語りかける。その声が、藩士たちの頭の中に直接響く。

彼らの槍や武具が、まるで意志を持ったかのように、宙に浮き上がり、バラバラと分解されていく。彼らは恐怖で顔面蒼白になった。


「ば、化け物か…!」

「俺たちの槍が…!弓矢が!」


彼らが叫ぶ中、家茂いえもちはさらに、手をかざす。すると、彼らの体から、戦うという意志が、まるで霧散するかのように、消えていくのが分かった。体中に力が入らない。ただ、震えることしかできない。


「お前たちの持つ武器は、全て無意味だ。そして、お前たちのその小さな力も…」


家茂いえもちの瞳が、僅かに光を放った。その瞬間、池田屋の空気は一瞬にして静寂に包まれる。長州藩士たちは、その場に崩れ落ち、ただひたすらに震えることしかできなかった。彼らの目に映るのは、もはや将軍などではない。圧倒的な、神の如き存在だった。

だが家茂いえもちは、侍の誇りを示す刀だけは破壊しなかった。彼らの生き様そのものは、決して否定してはならない、そう思えたからである。


多くの日本刀が、その場で藩士たちの足元に、静かに置かれていた。



一方、薩摩藩は、京都の動乱を静観しつつ、虎視眈々と機を窺っていた。西郷隆盛は、家茂いえもちが京都に現れたという報告を耳にし、信じられない思いでいた。


「まさか…将軍自らが京都に…?」


西郷は、家茂いえもちの力を目の当たりにした長州藩士の報告を聞き、愕然とする。

「武器が砂のように崩れ落ちた」「戦意が根こそぎ消え去った」…。

にわかには信じがたい話だった。だが、報告に嘘偽りはないと、西郷は直感した。


「…徳川は…とてつもない力を隠していたのか…」


西郷は、これまで築き上げてきた薩摩の力を、家茂いえもちの前では塵芥に等しいと悟った。

彼は、盟友である大久保利通おおくぼ としみちに、静かに語りかけた。


「大久保よ…もはや、我らの出る幕はなか」

「しかし西郷さん…このままでは…」

「…戦ってはならん。我らの力では、あの御方には、指一本触れるすらできん」


西郷は、徳川に反旗を翻すという長年の野望を、自らの手で葬り去った。ただ、その表情には、屈辱とは違う、不思議な安堵の念が浮かんでいた。これほどの力が存在するならば、この国は、きっと平和になる。そう信じられるほどの、途方もない力だったからだ。


この後も将軍の躍進は続く。世界の列強はどう立ち向かうのか。


次回『軍艦は砂に、ロンドンは消滅の夢』

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る