第10話 監視役(美少女)
「国を見て回りたいというのなら、案内が必要じゃな。魔法研究所の研究員に適任がおってな。のう、所長?」
「ええ、とても優秀な研究員でぜひ旅のお供にさせていただきたいわ。ついては、一度王立魔法研究所にお越しいただけないかしら? 彼女を紹介したいし、できれば研究所の施設で一度、エーテルニタスさんのことを詳しく調べさせてもらいたいのだけれど、どうかしら?」
(さらっと言って誤魔化そうとしてるけど、完全に監視よねそれ? 私は自由な旅がしたいのだけれど)
「……それは監視だろうと言っています。自由な旅がしたいとも」
さすがに無理があると思ったのか、王は気まずそうな顔をして、
「……そうだな、エーテルニタス殿に誤魔化しなど通用せんよな。確かに彼女は監視のための要員だ。だが、すまんが受け入れてはもらえぬだろうか? 貴殿の力はあまりにも強大過ぎるのだ。監視無しではわしも他の重臣たちも安心して眠ることができんのじゃ。どうか、検討してはいただけないだろうか?」
重臣たちの前で威厳を保たなければいけない王としては、最大限へりくだった言い方だろう。しかし、それを咎める重臣は誰もいない。彼らもまたエーテルニタスの恐怖に怯え、この際面子などどうでもよくなってしまっているのだろう。
(うーん、どうしようかしらねぇ……)
エーテルニタスも王の態度にさすがに思うところがあったのか、対応に悩んでいるようだ。すると、そこで所長が悪魔の囁きをした。
「ちなみに彼女は優秀なだけではなく、とても美しい少女ですよ?」
(王にここまで頼まれたら、一肌脱がざるを得ないわね。ほら早く、ジャン。さっさと通訳して安心させてあげなさい)
「あー……王に頼まれたら、断るわけにはいかないそうです」
「そ、そうか! かたじけない、エーテルニタス殿!」
こ、このエロ触手……。監視役が美少女だとわかったら、手のひら返しやがって。
……いや、待てよ? ってことは、俺も美少女と一緒に旅ができるってことじゃん! うわーっ、そう思うと楽しみ――だけど、ただでさえアレなのにその子から見たら俺は、ケツから触手を生やした男なわけかぁ……。
うん、あまり期待はしないでおこう。最悪キモいと蔑まれる可能性まである、だがそれはそれで――ハァハァ……。
(うへへへへっ、ハァハァ……)
「うへへへへっ、ハァハァ……」
「そ、それはいったいどんな感情なんじゃ?」
「……ハッ!? い、いえ、とと、特に深い意味はないと思われます!」
「そ、そうか」
通訳したつもりはなかったのだが、いつの間にか考えていることがシンクロしてしまっていた。一旦落ち着いて、王の言葉を待つ。
「では、了承も得られたことだし、早速魔法研究所へ向かってもらおうかの。馬車で半日程の道のりじゃ、すぐに手配するからしばし待たれ――」
(あーいいわ、ちょっと外の空気吸いたい気分だから歩いていくわ。一、二日あれば着くでしょうし)
「……えーっと、どうやら外の空気が吸いたいらしくて、歩いていくからいらないだそうです。一、二日あれば着くからと」
「むむっ、いや、それは……」
戸惑い、言葉に詰まる王。そして、それは俺も同様だった。
上手く話もまとまりかけたところで、せっかく馬車を出してくれるっていうのに、なんでわざわざ歩いていかなければならないのか……。
「馬車でほんの半日程度の辛抱じゃ。研究所の職員を連れてならこの国を自由に移動してもらって構わないが、それまではどうか穏便に過ごしてもらいたいのじゃが……」
(誰も暴れるなんて言ってないでしょう? ちょっと散歩がしたいだけよ)
「……暴れる気なんてない、ちょっと散歩がしたいだけと」
「いや、しかし――」
(私はあなたを信頼して協定を結んだのよ? あなたは私のことを信頼してはくれないの?)
「……わ、私は王を信頼して協定を結んだと、王は私のことを信頼してくれないのかと」
「むぅ……」
王が黙りこくる。確かに半日と言えど、この厄介な触手を国内に放つのは恐ろしいことなのだろう。
しばし、重たい沈黙が玉座の間を支配した。そして、ようやく王が口を開いた。
「……わかった、そなたを信じよう。ただ、きちんと魔法研究所には来ておくれよ? 地図はあるか? あと食料と水と、必要な物資を買うための資金と――」
まるでお母さんのように世話を焼いてくれる王様。実際は必要なものを与えておかないと、略奪するために暴れるんじゃないかと気が気ではないのだろう。
というわけで、ガッツリ装備や資金を受け取って、いざ魔法研究所まで向かうことになったのだった。徒歩で……。
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