第8話 用心と罠

「おい、お前ぇ! 何であの時出てきてくれなかったんだよおおおおおおおおっ! あれじゃただおっさんたちに肛門を見せつけただけじゃねぇか! めっちゃ気まずかったんだからなマジで!」

(うるさいわねぇ……悪かったわよ。今探し物してるんだから、ちょっと静かにしてくれない?)

「探し物? 探し物って、さっきから何やってんだ?」


 やたら豪華な部屋に案内されてすぐ、エーテルニタスはすぐにひょこっと俺のケツから顔を出し、触手を数本伸ばして部屋の中をあさり始めたのだ。


(盗聴器とか心を読むような魔導具とか、こちらを探るようなアイテムの類がないか確認してるのよ。魔力の放出は――うん、無いわね。さすがにここで何か仕掛けるほど馬鹿ではないか)


 無数の触手を合わせまるでアンテナのような形に組み立てると、グルっと一回転するように部屋の周囲に向ける。どこかから魔力を飛ばされていないか探知していたようだ。


「……なぁ、そう言えばさっきの言ってよかったのか? 一日のうちに活動できない時間があるなんて」


 必ずしも味方というわけではない、エーテルニタスを脅威に思っている国王に対してそんな情報を漏らすのは死活問題だと思うのだが。


(ああ、大丈夫よ。あれ嘘だから。休もうと思えば休めるけど、すぐに起きれるし。本当に活動できない時間なんて無いわ)

「おおいっ!? 嘘だったのかよ! 俺の肛門見せ損じゃねぇかそれじゃあ! ……っていうか、何でそんな嘘ついたんだ?」

(とりあえず、相手が信頼できるか試そうと思ってね。活動できない時間があるって聞いて闇討ちでもかけてくるようなら、王家ごと滅ぼしてやろうかと思って)

「そ、そう……」


 いきなりそんなヘビーな話をされても、そ、そう……としか答えようがない。いや、それにしても、


「意外と警戒してるんだな。圧倒的な力があるんだし、もっと舐めてるかと思ってたわ」

(人間は意外と厄介よ? 英雄と呼ばれるような飛びぬけた力を持ったやつもいるし、こちらの習性を利用して策を練ったり古代の魔導具を使ってきたり、女神や精霊の力を借りてきたり……。最強種でも人間に出し抜かれたようなやつらはたいていどこかで油断してるものだからね。同じ轍は踏まないわ)


 最強種のくせに油断はしないし罠は仕掛けてくるし、本当に厄介な化け物だなこいつは……。


「それで、いったいどうするつもりなんだ明日は?」

(別にどうもしないわ。ただ今後のことを交渉するだけよ。私としては自由に世界を見て回れたらそれでいいんだけど、あちらから多少の制限はかけてくるでしょうね。それが法外なものでなければ、おそらく相手の提案を受けてこちらが同意することになると思うわ)

「と、とりあえず、いきなり王様を人質に取って暴れるとか、そ、そういうのはしないよな……?」

(……私を何だと思ってるのよ? そんな話の通じない獣みたいなことするわけないでしょ。相手があまりに無礼なことでもしない限りはね)


 誠実な人っぽかったし、俺のことも気遣ってくれてたし、大丈夫だよな王様? 主に俺の身の安全がヤバいから、変な気を起こすのだけはやめてくれよマジで……。


(じゃあ、特にすることもないし寝ましょうか)

「えっ、もう寝るのか? いきなりこんなことになったし、いろいろ気になることとか聞きたいこととかあるんだけど……」

(まぁ、それはおいおいね。……本当は、さっき見かけたかわいいメイドさんを襲いに行きたいんだけど――)

「あーっ! なんか急に眠くなってきたなぁー! おやすみー!」


 こんなところで、この百合触手に騒ぎでも起こされたらたまらない。気が変わる前にとっとと寝ることにして、部屋の明かりを消した。まったく、ずいぶんマイペースな触手だなこいつは。


 それにしても、この場合は百合でいいのだろうか? 頭の中に響いてくる声は女の人の声だし、しゃべり方も女の人っぽいけど、触手を百合と言っていいものなのだろうか……?


 そんな深淵で哲学的な考察をしながら、俺のこの無駄に長い一日の夜が更けていくのだった。

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