第38話 side01 破邪の突
拳で扉を破壊した俺の目に映ったのは、唖然とした人間たちだった。
状況を飲み込めない生徒会長に、なんでここにと驚いている不良ども。
そして、なぜか喜びに満ちた目をしている里中美晴。助けるとは言ったが、この状況に来て、普通は喜べるものなのか?
「寄ってたかって女に――随分と品が悪いな」
「なんだてめえ!」
「知らないのか?そんなはずはないだろう?お前たちの仲間を消して回ってたのは俺だぞ?」
「大丈夫だ、俺は知ってる」
そう言い放ったのは、このグループの頭目らしき男。周りより、一回りほどの体躯で、一番強そうだという印象を受ける。
なるほど、こいつがリアクトか
「お前が美晴をかくまった男だろう?」
「まあ、そんなところだ」
「優しいようだが、馬鹿みたいだな!この状況で余裕ぶれるのは、まともな奴じゃなきゃできないよな!」
「馬鹿はお前だろ。俺がそいつをかくまうために何をしたか知らないのか?メンバーが数人消えておかしいと思わないのか?だとするのなら―――」
「下っ端が消えてなんで気にする?所詮あいつらは、兄貴にほとんど会ったことない端の端だぞ!誰が気にするんだ」
「そういう仲間がいたことないから知らんが、危機感が足りなくなるからその考えはやばいかもな」
少しずつ煽りながら、俺は生徒会長の紀里谷奈央のもとへと向かう。
俺はここには美晴しかいないと踏んで来ていたのだが、なぜここにいるのかがわからない。倒れたまま美晴を心配する様子を見せているあたり、奴らの仲間というわけではなさそうだな。
「あんたは何でここにいる?」
「あ、その、怪人に襲われて……」
「そうか。奴らの仲間ではないな?」
「ああ……」
「スマホに超能力が使えるようになるアプリは?」
「……?そんなものはないが―――というより、どうするんだ。こいつらは怪人の可能性も―――」
そこで彼女は言葉に詰まる。
思い出したのだろう。俺と一緒に見てしまったものを。
あの時のことについて彼女は明確な回答をもらっていない。ゆえに、勘ぐってしまう。
ここが凄惨な現場になってしまうのだろう、と。
「ここまで来たのなら無関係ではいられないか……だが、不必要に関わるなというのは本心だ。今日あったことは、何もかも忘れるに限る」
「なにを言って……」
彼女はまだ困惑するが、今の俺がやることはここの頭目を殺すこと。そして、里中美晴を救うこと。
あまり下手に出てもいいことはなさそうだが、ここの頭目が少しだけ美晴から離れている。今ならできる。目の前の男を殺して、すぐに行動すれば。
そう考えた俺は近くに落ちていた鉄パイプを拾って掌をそわせる。すると、以前のようにただの鉄パイプが鋭利な刃物へと変化する。
「さて……やるか」
相手が応答する前に、俺は動いて一番近くにいた男の首を切り落とす。
その瞬間、首を斬られた男が最後に聞いた音となったのは、風を切る音になったことだろう。
「なっ!?まず……」
「お前じゃねえよ」
俺が近づいてきたことにより、警戒した頭目がスマホを取り出すが、速度を落とさずに横をすり抜けて、美晴の前に立つ。
彼女は吊るされるようにされており、いたるところが傷だらけになっていた。
状態を確認しつつ、吊るしている縄を斬り、彼女を救出すると、抱きかかえたまま後退する。そのままの勢いで会長も抱きかかえながら壁側へと移動する。
「悪かった。こんなになるまで助けに来れず」
「ううん……来てくれただけで十分だよ。けほっ、けほっ……」
「紀里谷先輩―――彼女を頼む」
「お前―――今……」
「制裁は誰かの手によって行われる。今その役割が俺にあるだけだ」
話していると、明らかに怒りの色を見せる頭目がスマホのアプリを起動していた。
「おい!お前、仲間を殺しといて、ただで済むと思ってんのか?」
「あ?お前こそ、死ぬ気で来いよ」
「ぶっ殺す!お前ら!」
奴の掛け声とともに全員がスマホを構える。と、ともにアプリ内のスイッチを起動する。
ったく、端の端が死んでもとか言ってたくせに、今の奴は違うのかよ。
馬鹿はよくわからんな。
アプリの起動もやめておけと言っても無駄なのだろうな。
まあ、もう起動してるんだけど。
俺たちの前にいる男どもは盛れなく全員トルーパーに変身する。
ん……全員……?
「お前、ここら一帯の頭目じゃないのか?」
「はぁ……?俺は頭の弟だ!兄貴がこの力をくれた。だから俺たちはここまでこれたんだ!俺たちがこの街で一番強いんだよ!」
「そこは聞いてねえよ……まあ、いい。ちっ、やり直しか」
「こ、こんなに怪人が……れ、零陵、どうするんだ!」
「どうするって、戦うんだよ。それ以外に、俺たちが無事で済む道があるとでも思ってるのか?驚きだよ」
全員がトルーパーになったのは想定外だが、戦うために構えをとる。
奴らは変身していても、まだやれるはずだ。
「お前、それで戦うつもりか?まだ、俺たちの仲間はいるっていうのに!」
「あざ笑うようなことを言っているが、その余裕を一つつぶしておこう。建物の周りにいた見張りなら、全員殺しておいた。援軍などと期待しないほうがいいぞ?」
「は……?」
俺の言葉に頭目は唖然とした声を出す。だが、すぐに先ほどの調子を取り戻す。
「でも、だからってお前が一般人なことに変わりはないだろ?お前ら!」
その掛け声を皮切りに10名ほどの怪人がこちらに向かってくる。
全員が俺に対しての攻撃を展開してくる。
しかし、この程度は何でもないな。
「ふぅ、やはり
まず一体に狙いを定め、敵の拳をすべてよけながら低い体勢で刃具を構える。刺突の軌道で敵の体に侵入していく。
腹部に突き立てたそれは、背部へと貫通する。
「ぎっ!?」
「まずは一人……」
そのまま手首を返して、刃の向きを横にする。
瞬間、横凪に払う。
一人目の敵は、切られた部分が浮き上がり、下半身から上半身が少し離れながら傾いた状態で絶命する。
「キシャアッ!」
「よっ、と」
殺した瞬間、足元を払うように飛んできた足蹴りを飛び上がってよける。
なら、続いての相手はこいつでいいか。今、隙が空いてるのは、攻撃モーションから抜け出せない奴。つまり、今俺に蹴りを入れた怪人だ。
飛び上がりながら、上半身だけをねじって、全力で刃を投げる。
投擲された後は、俺の狙い通りの怪人の頭部へと吸い込まれていく。
これで二人だ
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