第10話 side01 すべては王のため
結局来てしまった。
いろいろと考えることもあったし、今後の学校生活をどうしようか予定建てだってあった。それでも、俺はいつの間にか待ち合わせ場所である鉄山駅に来ていた。
現在時刻は9時45分―――俺の調べた情報では、待ち合わせはこのくらいでの目算がちょうどいいらしい。
時刻が時刻なだけに、人は気持ち多いかなという程度のものだ。
出勤ラッシュなるものと言いたいところだが、今日は日曜日。むしろ、ここから数駅程度の距離感にある山に向かう人たちのほうが多いだろう。
俺は言ったことはないが、近所の幼稚園や小学校も校外学習という名目で訪れるほど手軽に登れる山らしい。
そのせいか、人は多くないながらも荷物多めという感じだった。
そんな周りに対して、俺は軽装だ。家に一枚しかない外行き用の私服に身を包んで来ている。この国では何が通用して、なにがそうでないのかは全部把握できているわけではないが、この程度くらいなら無難にできる。短いが、社会常識に触れていた期間はあるからな。
そんなこんなで時間だけが経過していき、5分ほど経過すると自分を誘ってきた人物が駅のほうから姿を現した。
「―――もう来ていたのか……てっきり来てくれても10分ほど遅れるものかと思ったが」
「むしろ、来ないとでも思ってたんじゃないのか?」
「ぶっちゃけるとそうだな。だが、来てくれてうれしいよ」
そう言って会長は笑顔を見せる。
惹きつける笑みとでも言うのだろうか?彼女が生徒会長である片鱗が見えたような気がするが、勘違いだろう。
なんせ、俺の見た情報には笑顔を見せる女は誰もが可愛いとあった。
ならば、今目の前にいる会長が特別ということはないはずだ。
危うく、俺の目が奪われてしまうところだった。気を付けなくてはならないな。女の魔力とやらには
「ん……どうしたんだ?」
「いいや、騙されてはいけないなって」
「騙される……?誰に?」
「こっちの話だ」
他愛もない会話を続け、改札を抜けようとする。
彼女はカードのようなものを改札にかざすだけだったが、俺は切符を買ってホームへと入っていった。
その行動に会長は違和感を覚えたのか、俺に質問してきた。
「零陵はICカードを持ってないのか?」
「なんだそれは?」
「知らないのか?いや、これ自体はもう20年以上前にあるものだぞ?」
「知らんものは知らん」
「そ、そうか……月野の件で食事を奢ろうと考えていたが、ICカードの発行も付き合ってやろうか?」
「必要ない、そもそも、今日もあんたが呼び出さなきゃ電車使うこともなかったんだから」
「そう言うな。あるだけで、結構便利だったりするぞ」
「お節介はいい。別に今必要ないなら、この先必要になることはない」
そうか……と少しだけ肩を落としながら会長は俺の横を歩く。
改札内は電車待ちの列ができていて、少し窮屈ではあったが俺たちは登山客たちとは反対の方向の電車に乗るので、その列に並ぶことはない。
ただ、カバンが大きい人が多く、後ろから突かれることが多い。いや、当たるだけならいいのだが、明らかに相手のほうはこちらを気にしていない。
ある程度は見逃してもいいが、これはどうすべきか……
俺が少しだけ悩んでいるのを見ると、それを見かねた会長が話しかけてくる。
「移動するか?降りるとき、少し歩くことになるが先頭車両のほうなら人が少ないぞ」
「……そうだな。不快な気分になるくらいなら歩くほうがマシか」
そうして会長の提案をのむ。すると、本当に駅の端のほうには人がおらず、先ほどのようなストレスは感じられない。その後はなにごともなく電車に乗って、目的の駅に到着する。
もちろん、駅から出るときも俺は切符だ。わざわざICカードの発行の意味はない。
「それで、買い出しって何を買うんだ?」
「今度中学生向けの学校説明会が行われるんだ。そこで生徒会がちょっとした企画をやるんだが、そこの景品の調達をしたい」
「どう考えても荷物の量が多くなりそうなんだが?」
「いや、筆記用具とか小さくてあまり金額のかかりすぎないものにするつもりだ。こういった場であまり高価なものを買えない。それに経費のこともあるから、おそらく袋いっぱいになるくらいだ」
「まあ、それくらいならいいか」
「持ってくれるのか?」
「もともとそのつもりなんだろ?わかってて来てるから気にしてない」
「零陵のそういうところは好感が持てるな―――なあ、生徒会に……」
「断っておく」
「まだ言ってないじゃないか……」
みなまで言わずともわかる。
どうせろくなことにはならん。とりあえず、今は入るつもりもないし、月野がいる以上どの道ありえないという程度だ。
なぜ俺が生徒会に入らなければならないのかという疑問はあれど、そこは深く考えない。
そろそろ俺が会長の人となりを理解し始めているからだろう。
彼女は割と自由主義なところがある。だが、ルールを守ったうえで、という感じだ。
しかし、それがどうにも鼻につく。自由主義なところが原因か、それとも彼女の厳格なところがなのかぶっちゃけはっきりしない。
俺も、今の感情がどこにあるのかわからない。
「結局景品はどうするんだ?」
ショッピングモールに入ってしばらくすると、俺は思わず漏らしてしまった。
「この、シャープペンシルはどうだろうか?1番に1000円ほどの価値を、2から4位には800円程度―――参加賞は500円程度にしよう」
「何人くらい来るんだ?」
「一応私たちの学校説明会は予約という形でやっている。この景品を使う日は、およそ30人くらいだったかな」
「てことは、2万弱か―――予算はたっぷり使うんだな」
「そうだな。来年の受験者を一人でも増やしたい。この学校が楽しいと思ってくれることが何よりだからな」
にしてもシャーペンか
「もしかしたら、すぐ壊されるかもな」
「そんなことないぞ。私は、一度替えてはいるが中学2年から4年近く同じものを使っている。私の母なんかは、私の生まれた日に購入したシャーペンをいまだに使っているぞ」
「母か……」
「あ、す、すまない!そういうつもりじゃ……」
「いや、別にいい。ただ、そういう思い出を大切に使い続けるなんて良い親なんだな」
「あ、ああ……だが、お前は―――」
「だから気にするな。親がいなくとも生きていける。それに今の俺には生きる意味もある」
「生きる意味……?」
会長は首をかしげるが、俺は続ける。
俺の言い切る意味、今を歩き意味などただ一つだけだ。
「すべては、王のためにだ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます