第4話 side01 本来の姿を間違ってはならない

 「さあ、説教の時間だ―――って、どこに行く!」

 「いや、先生相手じゃねえなら聞く意味ないだろ。たかだか1年か2年早く生まれただけだろ?あんたが俺にとやかく言う資格はない」

 「資格ならあるさ。私は生徒会長―――お前たち生徒の規範となる存在だ。間違ったものがいれば正すのが私の役目だ」


 そう言いながら自信満々に言う彼女は、俺の目の前でどっしりと構えるように座っている。

 だが、実際この女が俺にどうこう言う資格などない。生徒会長だかどうだか知らないが、行動をとがめられる理由がない。


 「そもそも正当防衛だ。先に手を出すほうが悪い」

 「それでもだ。しかも、あれは明らかに過剰―――相手を殺そうとししない限り……」

 「殺すつもりだったぞ?打ち所が悪くて死んだら、残念でした。それで終わりのつもりだったが?」

 「……だ、ダメに決まってるだろう!お前はそういうことで人生を棒に振っても―――」

 「元々ないような人生がどう壊れるんだ?それに、奴らは社会にとっての害だろう?害虫を駆除するのに、良心の呵責など必要ないはずだ」

 「ひ、人は虫とは「同じだよ」……っ!」


 目の前の女は生徒の規範と言ったが、結局、偽善で傲慢だ。自分が正しいと、絶対だと。そう考えているだけに過ぎない。


 周りはその正しさを美化しているだけ。


 「お、お前はそもそも先輩に対して敬語というものを―――」

 「さっきも言ったろ?1年か2年早く生まれたくらいでほざくな。敬語は敬うべき相手に使うものだろ。お前がそこにいるのか客観的に見たらどうだ?」


 俺はそう言い捨てて呼び出された教室を出ていこうとする。

 その背中に彼女は最後の抵抗とばかりに言葉をかけてくる。


 「そ、そんなことじゃ―――親御さんが悲しむぞ!」


 最後は情か―――本当にくだらない。


 「俺に親はいない―――よかったな。お前の言うろくでもない人間に、親がいなくてな」

 「なっ!?―――い、今のは……!」

 「ちっ、しつこいんだよ」


 俺はそう吐き捨てると呼び出された教室を去っていき、授業へと戻っていった。


 それからしばらくは特に何もなく、時間だけが過ぎていく。

 だが、いつもとは違って、嫌なことが思い出される。


 白い花と赤い花―――その時には、一緒になってはならない花だった。

 誰もが祝福の声を上げる中、あの舞い降りた不幸。齢5の時なのに、いまだにあの時のことを鮮明に思い出せる。本当に最悪な記憶だ。


 (最悪だ……なんでこんなこと思い出さなきゃいけないんだ……)


 朝から気分が最悪だ。授業の合間の短い休み時間、誰にも話しかけることもかけられることもなく過ぎていく。

 というか、どのみちそんな気にもならない。


 「なあ、これ見てみろよ!」


 突然、教室内が騒がしくなる。クラス内にいた男子生徒が騒ぎ始めたのだ。

 その男子生徒は自身のスマホを掲げ、友人に見せびらかすようにしていた。


 「なんだこれ?超能力アプリ?」

 「ああ、本当にあったんだよ。超能力を使えるようになるアプリが!」

 「これ本物か?ネタアプリだろ」

 「ちっちっち!このアプリを起動して、このボタンを押すと……」

 「うお!すげえ!机が浮いた!」


 男子生徒がスマホにある『START』のボタンを押し、自分の机を見つめるとそれが持ち上がった。もちろん、手を触れることなくだ。


 「なんだこれ?ワイヤーもついてる感じゃねえし、すげえ!マジで浮いてるぞ!」


 その人知を超えた立ち姿に周りの人たちが次々に騒ぎ始める。だが、それを面白う思わない者たちもいた。


 「ふん、なにか種があるに決まってる。全員でグルなんだろ?」

 「なんだお前?じゃあ、見せてやるよ、なあっ!」

 「ぐっ!?―――ゲホッ、な、なにが……!?」


 そんな輩は、超能力がどうのとのたまわる生徒が攻撃を仕掛けた。

 見た感じ、肺に力をかけて、呼吸をできないようにしているようだった。


 少々ことが大きくなる前に対処しなければ。力を見せつけるようにする生徒の前に俺は移動する。


 「あー、えーっと、零陵か?ほら、机を触ってみろ。種も仕掛けも―――ぶっ!?」


 そして、俺は何も言わずにその男子生徒にアッパーを入れて吹き飛ばす。その際に、スマホを奪い、彼のスマホはいつの間にか俺の手元に移動していた。


 「いってぇ……なにすんだ―――お前、なにしてんだ!」


 吹き飛ばされた次の瞬間に、男子生徒の目に映った光景は凄惨な光景のほんの一瞬前だった。

 なにが起きているのかと言えば、ほかの生徒の目にもとまらぬ速さで近くの机のそばに行き、その上にスマホを半分だけ机の淵から出るように置いて手を思い切り振り上げているところだった。


 そして俺はその振り上げた手を迷うことなく振り下ろし、スマホを真ん中からへし折った。


 バキィッ!と、おおよそ金属から鳴らしてはならない音を鳴らして、無情にも男子生徒のスマホは修理もできないレベルの破損状態となった。

 あまりの出来事に、持ち主本人もほかのクラスの人たちも言葉を失っていた。


 しばらくすると状況を理解したのか、怒りの形相で男子生徒が殴り掛かってきた。


 「お前っ!」

 「はぁ……別になくても生きていけるだろうに―――ちっ、ここに20万ある。これで新しいの買え」

 「お、おう……に、20万……どこからこんなの?」

 「気にする必要あるか?放課後、携帯ショップにでも行ってくればいいさ。連休もしばらくないし、すぐに買えんじゃねえの?」

 「あ、え、そ、そうだな―――あ、ありがと―――って、なんで人のスマホを壊すんだよ!」

 「感謝するのか怒るのかどっちかにしろよ。そもそも、俺はお前を助けたんだよ」

 「はぁ!?なに言ってんだよ!」

 「これ以上面倒ごとになりたくなければ、超能力を得たいなどと考えるな。次はスマホじゃ済まねえぞ?」

 「お、おう……」


 俺の剣幕に圧倒されて、男子生徒は裸の20万を財布の中に入れて自分の机に戻っていった。ちなみに20万の入った分厚さにどうすればいいのか困っていた。


 俺もすぐに自分の席に戻って、本を読み始めた。

 クラス内にざわつき程度はあったものの、俺の剣幕と先ほど見せられた超能力らしきものの話題性に会話が持っていかれ、また誰も俺のことを気にするものはいなくなっていた。


 超能力を使えるようにするアプリ―――こんな、クソアプリをどうして使いたがるんだろうか?俺には理解できないことだった。

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