閑話 糞尿臭い来訪者
俺は自分の家であるマンションの511号室の前へとやって来た。
1週間ほどしか家を空けてないのだが、どこか懐かしさを感じている。
時刻は20時……流石に友美は家にいるだろう。
俺がインターホンを鳴らすと、マイクからどたどたと慌てて駆け走ってくる音が聞こえたかと思うとすぐに扉が開かれた。
勿論、出迎えてくれたのは我が妹の友美だった。
「ただいま」
俺が少し微笑みながら友美に一言挨拶をすると、友美は抱き着いて俺のお腹に顔をうずめてきた。
「お兄ちゃん!! 何やってたの!? 私、心配してたんだよ!? 口座にとんでもないお金入ってたし、Dチューブでお兄ちゃんが出て大変なことになってるし、テレビに美香ちゃん出てたし……それに驚いてたら、今度は大量の頼んでないお寿司まで届いて!! お兄ちゃんに連絡もつかないから……もう私……何がなんやら」
俺のお腹が暖かく、段々と湿ってくる。
家を空けて、友美に全部家の事任せて出ていき、あれ程ネットで話題になってたらそりゃ心配にもなる。
そんな俺を本気で心配してくれていた友美にとても申し訳ない気持ちになる。
俺は友美の頭を優しく撫でながら、俺は友美と一緒に部屋の中に入って扉を閉めた。
「色々、説明しないで勝手に家空けてごめんな。そのお詫びにほら、お前の好きな寿司屋の特上寿司を俺がたくさん頼んだから一緒に食べよう、な?」
「食べる……馬鹿兄貴」
目を赤く腫らせた友美は不満げな顔だったが、台所から皿や醬油などを取りに行った。
(取りあえず……これまでの事を説明しながら、兄弟水入らずでゆっくりお寿司でも食べるか)
そう思いながら届いていた沢山の特上寿司が入った容器を並べていた時だった。
ピンポーーン!
家のインターホンが再び鳴った。
こんな時間に誰だろうか?
俺はもう何も頼んでいないはずだが?
「ごめーーん! お兄ちゃんが出てーー!!」
友美は台所で色々準備があるようで忙しくしている様子だった。
仕方なく、俺はインターホンのカメラを見る。
しかし、そこには誰も映っていなかった。
(いたずらか?)
そう思いながらも、俺は家の入口へと向かい扉を開けたその瞬間、横から俺の胸に誰かが飛び込んできた。
「臭っ!?」
急に抱き着かれて驚いたが、何よりも糞尿のツンッとした匂いが俺の鼻に襲い掛かって来て思わず自分の鼻を抑える。
「やっと会えた……圭太しゃま♡」
その甘ったるい猫なで声には聞き覚えがあった。
俺は恐る恐る下を向くと特徴的なそのツインテール、メイクが崩れたメス顔の持ち主は間違いなく火喰鳥ぴよこだった。
「お前!? なんでここに来た!?」
「ついて……来ちゃった♡」
まさか、ぴよこが俺の家をまでついてきているとは知らなかった。
取りあえず、近所迷惑だしこんな所誰かに見られたら色々まずい。
「お、おい! 取りあえず放せ!! そして帰れ!!」
「いやっ♡ ぴよこ、もう放したくない♡」
離してもらわないと色々めんどくさい事になるし、お前の下半身から発せられている変な臭いが鼻にこびりつくだろうが!!
家の玄関で、俺はぴよこの身体を剥がそうとするがぴよこはしつこく絡みついてくる。
そうこうしている間に時間が経つとどうなるか。
「お兄ちゃーーん!! 誰か来たのーー??」
対応に時間がかかっていることに疑問を持った友美が玄関の方へとやって来てくるのだ。
そして、到頭見られたくない光景を妹に目撃されてしまった。
「お、お兄ちゃん? そ……その人……」
「いや友美……違うんだこれはっ!」
俺がこの光景の誤解を取ろうとした時、友美は目を輝かせて近づいてきた。
「も、もしかして!! あの有名インフルエンサーの火喰鳥ぴよこさんですか!?」
「こんぴよよーー♪ そう! 私が本物のぴよこだよ♪ 実は私ぃ、小川圭太君のぉ……恋ぴよなの♡」
「ええええええええええええっ!?!? そ、そうだったのお兄ちゃん!?」
「恋ぴよなわけねぇだろ!!」
ああ、ほら……絶対こうなるから早く出て行かせたかったんだ……
つか……なんだよ恋ぴよって……
ここで大声で話し散らかしてたらますますめんどくさい事になると思った俺は、取りあえずこの有名しょんべん臭いインフルエンサーを渋々家に入れることにしてやった。
俺はぴよこに洗面所を案内し、タオルを渡す。
「取りあえず、風呂に入れ。話はそれからだ」
「圭太様も一緒に入る? ぴよこは、良いよ?♡」
「なら出ていけ、家から」
「いやんっ♡」
取りあえず、ぴよこに風呂を貸し、その間に俺はぴよこの服を空いていたゴミ袋にまとめてやった。
☆☆☆☆☆
暫く経って、ぴよこが風呂から上がった。
服は取りあえず、友美が使っていない適当なジャージを用意してやったがサイズが合っていてよかった。
風呂から上がりほかほか状態のぴよこはツインテールの髪は解き下ろされ、あつい地雷メイクが落ちすっぴん姿が露わになっていた。
すっぴん姿はごく普通の素朴な少女って感想がでる。
「取りあえず、そこに座れ」
「はーーい♡」
寿司が並ぶダイニングテーブルの椅子にぴよこを座らせ、俺はその正面へと座る。
友美は憧れのインフルエンサーが家にいる事にテンションが上がって俺の隣でキラキラと目を輝かせて続けていた。
「何しに来た? もう、俺とお前は関係ないはずだ」
「何言ってるんですか圭太様! 関係なくなんてありませんよ!! あの最低最悪の屑の権化、葛嶋から私たちを助けてくれたじゃないですか!! それに、見てください♡ 圭太様のおかげでチャンネル登録者数がとんでもないことになってます♡ だからぴよこ、圭太様ともっと配信活動していきたいと思い参上いたしました♪」
ぴよこは軽く敬礼ポーズを俺達に見せてきた。
「凄いじゃんお兄ちゃん! ぴよこさんと配信できるなんて羨ましい!!」
「友美、少し静かにしていてくれ……ぴよこ、悪いけど俺は配信は」
そう言葉を紡ぎかけた時、ぴよこは俺の手を握る。
「圭太様! 世界は圭太様を待っているんです!! 圭太様は沢山の人を虜にする魅力があります!! 私も虜になったその一人♡ 私を使って圭太様の素晴らしさをもっと世界に知らせたい! それに、こんなに有名になった圭太様が普通の日常なんて無理だから! でも、私はインフルエンサー、言うなれば大衆を動かすプロ!! そんな私が傍に居れば圭太様は安心して生活できると思うから。だからお願い! 私をあなたの傍に居させて!!」
さっきまでふざけていたようなぴよことは打って変わり、今話をしているぴよこの目は真っすぐだった。
ぴよこから今までにない本気さを今俺は感じていた。
ぴよこは真っすぐながらも、不安そうに返事を待っている。
「お、お兄ちゃん」
隣で友美も不安そうに俺を見つめ始めた。
俺は大きく溜息を吐く。
そして、覚悟が決まった。
「世界が俺を注目している以上、大衆への今後の在り方について俺はド素人だ。そこまで言うなら、プロデュースはお前に任せる。その代わり……あまり変なことするなよ」
そう言葉を告げるとぴよこは笑顔が広がり、俺の手を強く握った。
「うんっ! こんごともよろぴよっ♡」
本当にこれで良かったのかな……
そう思った時、右手の甲が淡く光っているのに気が付いた。
(ま……まさか……)
その悪い予感は的中した。
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【アニマのタロット】が反応しました。
No.6『恋愛』に火喰鳥ぴよこを登録します。
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まじかよ。
「じゃあ今日はぴよこさんとお兄ちゃんのコンビ結成を祝福して乾杯しよ!!」
友美が人数分のコップにジュースを注いで、2人は腕を上げる。
「「かんぱーーいっ!!♡」」
俺を尻目にはしゃいでいる2人……まぁ友美が楽しそうなら良いか。
何か……どっと疲れた。
俺は寿司を数個食べた後、疲労感に耐えきれずリビングのソファーで意識が途切れるのであった。
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