第6話 宿敵の再来

 ゲートを潜り、現実世界へと戻ってきた。



 装備しているアイテムは一度アイテムボックス内へと戻し、いつでも即時装備できる状態にした。



 俺が出てきた変異空間ダンジョンのゲートが閉じられるのを確認してからDICアプリを確認してみる。



 *************************************

 C級ダンジョンをクリア及び消滅を確認しました、お疲れ様でした。

 以下、1名でのクリア報酬となります。


 ・500万DPを小川様のアプリ内口座へ入金

 ・ランクがC級に認定されました

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 どうやら、変異空間は踏破すると消滅するようだ。



 報酬で貰ったこのDPは探索者専用の電子マネーである。1DPで1円の価値があり、探索者達はこのポイントで日々の支払いが可能になっている。



 本来、報酬はパーティで山分けされるのだが俺はソロクリアなので満額貰えた。500万DP……これが安いか高いかは人それぞれだ。



 俺は正直……安すぎると思う。



 それとランクも無認定からC級へと上がっていた。このランクは探索者の強さ及び実績を分かりやすく表したものだ。



 ランクが高ければ高いほど、優秀で歴戦の猛者と言えるのだ。



 ああ、このランクでマウントを取り合う探索者達の姿が想像つく。



 ダンジョンをクリアした探索者が向かうのは勿論、あの場所だ。



 そう、みんな大好きダンジョン調査センターである。



 なぜ戻って来たかって? 俺のアイテムボックスに溜まった魔鉱石を換金するためだ。



 俺はダンジョン調査センター内の隅にある魔鉱石換金所へとやってくると小柄な黒髪の女性が対応してくれた。



「こんにちはです! 魔鉱石換金ですか??? では魔鉱石沢山出しちゃって下さい!!」



 俺はアイテムボックスを開くと、無言で受付のテーブル一杯に魔鉱石を出して見せた。



「これらをお願いします」



 規格外の量の魔鉱石を見て、女性は目を丸くしていた。



 それもそのはず、目の前には300個以上の魔鉱石が1人の人間の前から出て来たのだ。



「こ、こんなに沢山……?」



 脳の処理が追いついていないのか混乱している様子で大量の魔鉱石の前で固まっているのを見た俺は彼女の肩を叩いた。



「すみません? 大丈夫です?」


「はっ!? す、すみませんですした!! 今、計算してくるですます!!」



 もう色々とごちゃごちゃだけどまぁ良いか。



 女性は裏から4、5人応援を呼び俺の魔鉱石を裏へと運んでいく。



 その間は暇だったので、俺はDICアプリで次のダンジョンを探そうとした……その時だった。



「あれあれぇ〜〜見覚えのある顔じゃ〜〜ん?☆」



 後ろから聞き覚えのある……いや、思い出したくはないが耳に台所の水カビ、道端のアスファルトに落ちているガムの如きしつこくへばりついた気持ちの悪い声が聞こえた。



 正直振り向きたくなかったのでガン無視したがそいつは俺の顔を覗き込んでくる。



「やっぱりオタク君じゃ〜〜ん☆ 俺のこと覚えてるぅ〜〜??」



 そいつは最後に見た時よりも金髪が輝き、肌も松◯茂よりも黒く焦げた肌に外人でも身につけない黒光したサングラスを身につけたゴミカス……葛嶋茂だった。



 キラキラとウザく眩しいほどの服に包まれたそいつは俺に馴れ馴れしく肩を組んできた。



「あれから1年も会ってなかったけどどう? パスタ巻いてた? それとも1人で息子慰めてた? ギャハハハハ!!!!」



 1年前よりもウザさも下品さもレベルが上がった葛嶋だが、俺はそれでも無視を続けた。



「……てめぇさ、流石にノリ悪すぎじゃね? 俺の事誰だと思ってやがる?」



 俺はそう言われ、葛嶋の腕を振り払ってから目見て言う。



「眼に入ってくるゴミ」



 俺の言葉を聞いてすぐに葛嶋は俺に拳を振ってきた。



 俺はそれを手で受け止めた瞬間、周囲に置かれた椅子が吹き飛んでいくほどの衝撃波が生まれた。



「……へぇ〜〜俺の攻撃を止められるんだぁ☆」



 突然の出来事に周囲にいた一般探索者達はその場を離れ、DICの警備員達がやってくる。



「君達!! 何をしている!!」



 葛嶋が俺の手から腕を振り解くと警備へと顔を向けた。



 葛嶋の顔を見た警備員達はすぐにどよめき、顔が青くなった。



「あ、貴方は!? ギルド“アスモディ”のS級探索者葛嶋茂様!? ど、どうしてここへ!?」



 葛嶋がたるんだ服を伸ばし、襟を立てると警備員達を睨む。



「俺がいちゃいけねぇか? 失せろ」



 その一言で警備員達は萎縮し、何事もなかった様に下がっていく。



 静まり返るダンジョンセンター内。



 俺と葛嶋がお互いに睨み合い、緊張感が走る。



「お、お待たせ致しましたです!! 査定が終わりましたです!!」



 空気の読めない受付嬢が俺の横で紙を置いた。俺は視線を遮り、紙を査定結果確認しようとしたがその紙を葛嶋に横取りされた。



「……」



 葛嶋がその紙を見た後、胸ポケットから何かを取出してそれと一緒に机に叩きつけた。



「これ、俺様が直々に行くダンジョンの招待状だ。有名インフルエンサーの生放送付きだし、美香も来る」



 美香と言う言葉を聞いて俺は目線をあげた。



「てめーーも来い。来なかったら……わかるな?」


 

 サングラスを外し、俺に殺気を向けてから葛嶋はこの場を去った。



 俺は査定の紙を確認するとそこには約“3億DP”と明細に書かれている。



 それと、あいつが置いていった紙には日時とでたらめな文字の羅列書かれていた。



 俺を招待するとは一体何が目的だ? 恐らく罠である可能性が高いが逆に行かなくては何をされるかわからない。



 それに、『美香も来る』と言う台詞。



 言わなくて良いはずの情報を敢えて俺に言ってきた。



 あいつなりの挑発的言動かもしれない……が、これは奴に復讐できるチャンスかもしれない。



 俺はもう1年前のようなヘタレじゃない。



 俺はあいつの招待状をポケットにしまった。



「あ、あのぅ! もしこちらでよろしければ現金かDPでのお渡しですが如何なさいますか!」


「DPで」


「はいぃ! ありがとうございますです!! 即時入金致しますのでまた来てくださいですぅ!!」



 俺は受付を終えて外へと出た。



 気がつけば、もう夕方になっていた。



 長い1日だった。1年という眠りから覚めて夢の様な出来事は今日で夢ではないと証明された。



 風が強く吹き、1年間伸びた俺の長い髪が揺れる。



 この髪を見ていると美香みかを思い出してしまう。



「……帰りに散髪してくか」



 今日、俺の人生が再び歩き出した瞬間となった日である。

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