鬱展開マシマシ曇らせ現代異能力ファンタジー作品のアニオリ悪役に転生したので、生き延びつつヒロインも原作主人公も幸福にしたい

佐渡

第1話 転生

「まずい、まずい、まずい……」


 起き抜けに頭を抱える。鏡に映るのは赤くてサラサラのロングヘアに、尋常じゃなく整ったイケメンフェイス。少々目つきが怪しいが、差し引きどころか収支プラス。だがそれは『俺』の本来の顔ではない。


 どういうことなのか。

「しちゃってるよ……転生・・……!」

 そういうことである。


 アニメ、漫画、ラノベ等々に少しでも触れたことがある人間ならば想像の付くであろう。一口に転生、と言ってしまったが、状況によって転移だの憑依だのと名称が異なるらしいが俺はそこまで詳しくない。

 ともかく、今身に起こっているのは――自身の知る有名作の中に入り込むような形で異世界に自我が移ってしまうというパターンだ。


 その作品の名前は、【CODE:ZEUS】。近未来的な世界で、超能力が『魔法』として認知され、それを学ぶ学園を舞台にしたバトルファンタジー作品。押しも押されぬ大名作として名高くファンも滅茶苦茶多い。


 で、だ。


 自分が見ていた作品は、どれもこれも転生というのは良い結果をもたらしてきた。ブラック企業からの解放、うまくいかない人生の好転、逆境からの再興、などなど。

 中には過酷な世界で死に物狂いで生き残ったり、復讐に身を焦がしたり、どうにか元の世界への帰還を果たそうとしたりという場合もある。


 俺が愛好していたのは前者。

 しかし自分の身に振りかかったのは――後者だ。

 

 この【CODE:ZEUS】。ファンも多くヒロインの造形も魅力的。だが何よりも話題に上るのは、その展開のヘビーさ。

 名前付きのキャラがとにかく死ぬらしいのだ。序盤登場していたキャラなど生き残っている方が少なく、推しを作るななどと言われるのが常。一時期SNSではアニメのエンディングで流れるキャラクターの名前が並んだスタッフロールを『墓標』などと言ってバズる姿なんかも見られたくらいだ。

 と、まあ色々と情報を列挙してみたが。

 なぜ作中の内容よりSNSのミームネタが、まず真っ先に思い出されるのか。展開やあらすじなど、もっと挙げるべき情報があるはずなのに。


 その理由はただ一つ。


(俺、この作品見てないんだよ――)


 呆然と視線が持ち上がり、顔を覆う。

 自分の苦手そうな作品を回避するのは現代における当然の危機管理。「嫌なら見るな」が現代カルチャーどころか社会のマナーとなりつつあるなか、それを徹底した俺にとって、この作品で見聞きするのは偶然目に入ってしまったSNSのミーム、フォローしている絵師さんの二次創作、リアタイしている友人達の感想、そしてふと思い立って夜更かししながら流し読みしたまとめサイトの情報くらい。


 完全無欠、言い逃れの出来ないにわか・・・野郎なのである。


 そして、そんなにわかですら知っている自分の姿。これが更にまずい。

 ――赤い髪、鋭い目。ビジュアルだけは一級品のこの姿。『俺』がなってしまったこのキャラクター。こいつは、原作には登場しない・・・・・・・・・

 メディアミックスされたアニメ版、そこにだけ登場するオリジナルキャラクター。

 原作の筋書きを魔改造して生まれ、クールを跨いで続投し続けながら。チート能力と制作側の加護を与えられた二次創作みてぇな敵役、『真賀マガ 理人リヒト』。

 アニメ化に際して発表されたちょい役の友人枠のように告知されていながら、三話で突如敵の幹部であると明かされ、その後は原作でぼかされたヒロイン含めた名付きのキャラクターの死亡シーンの大半に関与。

 中には原作で主人公が苦戦の上打ち倒す敵を横から現れトドメを掻っ攫うシーンまであったという。

 もし自分が好きだった作品でやられたら目をひん剥く蛮行を重ねに重ねたド級のヘイトキャラ。


 加えて作品の評価云々を飛び越え、その存在を巡って原作者vs脚本家という問題にまで波及したという曰くがつきまくったキャラクター。そんな手合いに、『俺』はなってしまったのである。


 まずい、非常にまずい。

 自分が今どんな立ち位置にいるのかもあやふや。世界設定についても穴ぼこのうろ覚え。そのくせ自分は悪役になるのが確定しているし、現段階でどのくらい本編が進んでいるのかなんてまったくわからない。

 さらに世界は名前がついていようが無慈悲に死ぬような世界。

 もしそうなら『俺』はどうやって生き延びればいいのか。


 ……恐怖に身がすくむ。

 とにかく、必死で現状を理解しないことには始まらない。


 俺は、呆然と突っ立っていた鏡の前からすっ飛ぶように、部屋に備え付けられたテレビ、机の上に散乱した書類、その中に紛れ込んだスマートフォンにも似た端末を手に取る。


 どうにか、どうにか。自分の命を繋ぐ糸口を探すために。

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