第12話

私とタクミは外国人のダンジョン研究者の依頼で、ダンジョンの5階に来ていた。


この人は世界中のダンジョンを回ってモンスターの生体の研究をしているらしい。


この5階は、壁も床も灰色の石畳で出来ていて、自然の多い3階までとは雰囲気が全然違う。

壁ぎわの石と石の間から背の低い植物が生えていて、依頼人はその植物に夢中だ。


依頼人によると、一部のモンスターは植物を食べているのでは無いかと言う事だけど、確かにそうかも!

モンスターが普段何食べてるかなんて考えた事もないから新鮮!


でも、ここに来るまではモンスターを倒したり私とタクミも役に立っていたが、こうなっては何もする事がない。

依頼人の調査が終わるまでひたすら待つ。

タクミは研究者さんと一緒になって真剣に植物を調べているけど、面白いの?


ああ、たいくつだなぁ。


ドドドドドッ!

「な!何ッ!?」

遠くで音がして、慌てて音の方を見る。

5階の強敵モンスターの討伐依頼は見たけれど、こっちとは真逆のはず。

別の何か!?


私は退屈を破る騒音にワクワクした。


見ていると、近づいて来る中に、見知った顔があった。


「ロウちゃーん!!」

私は思い切り手を振った。


◇◆◇◆◇


走ってモンスターを振り切るつもりが、思いの外、モンスターはしつこかった。

追いかけて来るのは犬型のモンスターで魔犬と呼ばれている奴だ。


魔犬は階層によって大きさや強さが違い、5階は中型犬サイズで、ビーグルと呼ばれている。

ちなみに、4階ではチワワで、3階以上は子犬と言う意味でパピーと呼ばれている。


俺は戦闘では、何匹いてもビーグルに負けることはないのだが、足の速さでは流石に犬には敵わない。

他のモンスターは問題なく振り切って、と言うか、追って来るそぶりも殆どなく振り切れているのだが、ビーグルは逃げるものを追いかける習性がある様で、遠くからでも走っている俺を見つけると追いかけて来た。

数十匹の群れになって追いかけて来るビーグルに、そろそろ追いつかれそうだ。


この道をまっすぐ行けば太陽石のある広場に出る。

太陽石にモンスターは近づけないから、そこまで行けばビーグルも追い払えるのだが……。


難しそうだと思い、戦うしかないのかと迷っていると、声が聞こえた。


「ロウちゃーん」


目の前に人が居た。

ピョンピョンと跳ねて手を振る人物の頭のリボンが一緒に揺れている。

あれは……。


人が居るなら、このままビーグルを引き連れて進むわけには行かない。

俺は反転すると剣を抜く。


ビーグルたちは、急な俺の行動に驚いて止まれない。

俺はその勢いのままビーグルたちを切った。

あっという間に倒れる数十匹のビーグルたちに、最初から戦っておけば良かったかと思うが、追いかけられて全力以上のスピードで走れた気がするし、結果オーライか?


そのまま先に進むと、イクミが居た。

手を振っていた人物で、俺を『ロウちゃん」と呼ぶ。

小さいが元気いっぱいの女の子で、俺の同級生でアカネたちと一緒にダンジョンに潜っていた仲間だ。

肩までで切り揃えられた髪に、頭のてっぺんに結んだバンダナがリボンの様に揺れて目立っている。

特別背が低いから、目立つ様にとバンダナを結んでいるらしい。

確かに、盗賊職ですばしっこいイクミは、頭のリボンが無ければ見失っていただろうと思う事が多々あった。


イクミの後ろでは、タクミと外国人が壁に向かってしゃがんでいる。

何やってるんだ……?


タクミは俺に気づいて立ち上がると、すぐ横で壁に立てかけていたバカでかい盾を持ってこっちに来る。

タクミはイクミの双子の弟の守備職で、イクミと同じくダンジョンに一緒に潜った仲間だ。

背は双子に姉のイクミよりは高いが、男にしては低めで、アカネはより低く、サラと同じくらいだ。

タクミは今日は比較的軽装で、多分、外国人の依頼で、素材集め等の戦闘がメインじゃない依頼でダンジョンに来ているんだろう。


「ロウちゃん、戻って来たの!」

そう言ってイクミが抱きついて来る。

「ロウちゃん、久しぶり」

と、タクミも来るが、俺の帰還に少なからず驚いている。


うーむ、驚くのも無理はないが、その辺の事情をきちんと話すのは恥ずかしい気がした。


「夏休みのバイトだよ。悪いんだけど、急いでるんだ。5階の強敵モンスターの事知ってるか!?」

とにかく、今はそれどころじゃ無いので、俺はイクミを引き剥がしながら、情報を求めて急いで質問する。

「かなり強いモンスターだよ。だから5階には今はほとんど人が居ないんだ。居るのは俺たちくらいかな。他の階にも強敵モンスターがいて、腕に覚えがある人はみんなそっちに行ってて、その間に出現したから討伐する人が居ないんだよ」

察しの良いタクミが直ぐに答えてくれる。


討伐する人が居ないって、ゴロウ達が出会っていたら餌食になるの確定だな。

背筋が寒くなる。


「どこに居る!!」

「東側の神殿の入り口っぽい所だって見た気がするけど……」

聞き終わる前に俺は走り出した。


東の神殿入り口は、ここから1番遠い階段で行ける場所だ。

ゴロウ達が真っ直ぐに向かっていたら、もうとっくに着いているだろう。


「ロウちゃーん!夏休み中いるなら、一緒にダンジョン探索しようねー!」

後ろからイクミの能天気な声が聞こえて来る。

返事をする余裕もなく、俺は全力疾走で駆け抜けた。


「&¥:@?」

「@:¥&*€#」


俺が居なくなった後で、イクミたちの口から出る聞き慣れない言語が追いかけて来る。


最短距離で東の神殿入り口に1番近い神殿までやって来る。

見ると階段から続く紫の光の筋が見えた。

やはりゴロウたちは、ここからアリアドネの糸を使ったようだ。

時間経過とともに薄くなるアリアドネの糸の光は少し薄くなっていた。


まずい。

ダメかも知れない。


俺は走る速度を緩めずに確認するが、遅かったと言う事実に心が折れそうになる。

けれど、諦める訳には行かない!

俺は限界を超えるスピードでアリアドネの糸の光の筋を追う。

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