第2話

第四章 運命の再会


道場での対峙


薄暗い夕暮れ、道場に漂う線香の香りが、日々の稽古の汗と混じり合っていた。その中に立つ老剣士、源五郎は、静かに刀を抜いた。


彼の前には、二人の若い剣士が立っている。一人はまだ三十路そこそこ、もう一人は三十五歳——三十年前に斬り捨てた男の娘だ。


「三十五か……」

源五郎は独りごちた。三十年前、その男を斬ったとき、その娘はまだ赤ん坊だった。もし二十歳くらいで来れば、潔く斬られてやろうと思っていた。

そうすればもっと他の人生があったんだじゃないか。


「そなたの助っ人か」

源五郎は三十路の剣士に目を向けた。きっと、仇討ちの悲劇を煽り、唆されたのだろう。


「わしはもう六十じゃ。潔く斬られてやる」


---


第五章 真実の重なり


因果の告白


源五郎は刀を下ろし、娘に向かって言った。

「そなたの父上を斬ったのは事実だ。しかし、その時、わしの妻も…わしの子も失った」


娘の顔に困惑の色が浮かんだ。助っ人の三十路の男は、慌てたように口を挟んだ。

「何を言っているのです!そんな昔話で情に訴えるつもりか!」


「黙れ」源五郎の声は静かだったが、威圧感があった。「そなたに口を挟む権利はない」


複数の真実


「わしもまた、敵討ちをする理由があるのだ。だが、そうすれば、またその子が、その孫が…この連鎖は永遠に続く」


娘は震える声で答えた。

「でも、父は…父は無実だと言っていました」


「無実?」源五郎は眉をひそめた。「そなたの父上は、確かにわしの師匠を斬った。それは紛れもない事実だ」


「師匠を?」娘の目が見開かれた。「父が話していたのは…あなたが、無実の民を斬ったと…」


源五郎は静かに首を振った。物語には、いつも複数の真実がある。


「そなたの父上は正義感の強い男だった。しかし、わしの師匠を『悪徳商人と結託している』と決めつけ、証拠も確かめずに斬り捨てた。師匠は無実だった」

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