第5話 カレーの、お肉
「牛肉で!」「鳥肉でしょ!」
俺と
「山田さんはいつも牛肉なんですか?」
「いや、実家は鳥だったけど、お金がある時は牛肉が食べたい!」
一人暮らしを始めてからは出来合いのカレーしか食べていないから肉の種類など気にした事はないし、実家は鶏のカレーだった。
しかし、お金があるなら高い肉を選ぶのが正義ではないかと思っての意見だった。
俺のその言葉に来栖さんは鳩が豆鉄砲を食ったような顔をした。
「たしかに。スポンサーは山田さんですし……」
納得しかけた来栖さんであったが、ハッとした様子で目を輝かせる。
「それだったら、トンカツを揚げましょう! カツカレーです!」
来栖さんの言葉に俺は脳天に雷が落ちたような感覚に陥った。
「来栖さん、君は天才だ!」
俺と来栖さんは顔を合わせて頷くと、豚ヒレをカゴの中に入れる。
「それじゃあカレーの中は鶏にしますね」
「ああ」
トンカツのインパクトにカレーの肉などどうでも良くなっていた俺は、調理者の来栖さんの意見に笑顔で頷いた。
ジャガイモ、ニンジン、タマネギ、キノコにカレールー。そしてトンカツに必要な物を買ってスーパーを出る。
「重くないですか? 一つ持ちますよ?」
「ステータスでは負けてるかもしれないけどこれくらいはへっちゃらだよ」
流石に来栖さんに荷物を持たせるわけにはいかないので両手の荷物は結構重いが、そう返事をする。
スーパーから俺の家までは近いので、俺は笑顔を保って帰り道を歩いた。
「ここが山田さんのお家ですか? 家から結構近い」
俺の住んでいるマンションに着くと、来栖さんが見上げてそう言った。
「そうなの?」
ご近所さんらしいが、近くで会った事はない。
といっても、知り合ってからまだ数日だし、会っていても気づいてないだけかもしれないし、俺が会社員だったころなら生活リズムも違うだろうしな。
などと考えつつも、話を広げる話術もないので、そのまま2人でエレベーターに乗る。
来栖さんが俺の部屋に入った第一声は「意外と綺麗なんですね」であった。
「会社員時代は寝に帰るだけだったし、物がないだけだよ。さ、入って」
「お邪魔します」
俺の言葉に来栖さんはそう返事をすると、ローファーを綺麗に揃えて部屋に上がる。
俺はキッチンが狭いので、一度テーブルに荷物を置いた。
「それじゃあカレー作るので、山田さんは座って待っててくださいね!」
俺が振り向くと、キッチンで髪を一つに結びながら、来栖さんがそう言った。
来栖さんが料理を始めるが、座って待つだけだとどうも落ち着かない。
この家には、両親以外の来客は初めてなのだ。
「何か手伝う事はありませんか?」
テーブルに来栖さんが食材を取りに来たタイミングで、俺はそう尋ねる。
「んー、じゃあ、お米を研いでください」
「お米?」
「はい、お米です」
来栖さんに言われて、俺は気づいた。
普段出来合いのお惣菜やお弁当で過ごしていたこの家には、お米など置いていない事を。
「お米、買ってくる……」
「え、無いんですか! 普段はどうして……」
「スーパーのお弁当ばっかだったから……」
俺の言葉に来栖さんが「はあ」とため息を吐いた。
「そしたら、今日は一段と気合いを入れて作らないとですね!」
その後、すぐに袖を捲るような動作をすると、笑ってそう言った。
その笑顔に俺は恥ずかしくなり、すぐに立ち上がると「お米買ってくるね」と言い残して家を出たのであった。
◆◇
米を買って部屋に帰ってくると、中からトントンという包丁の音と、玉ねぎを炒める甘い匂いが漂ってくる。
俺が靴を脱いでいると、包丁の音が止まりキッチンから「おかえりなさい」という声が聞こえてくる。
「ただいま。おかえりなんて言われたのは久しぶりだよ」
「私も久しぶりに言いました」
俺はずっと一人暮らしだったが、来栖さんはお母さんが入院してからと言う事なのだろう。
「それじゃ、お米洗うね」
上手い返事が思い浮かばなかった俺は、そう言ってキッチンの上の棚から古い炊飯器を取り出した。
「そっか。来栖さんの分もいるんだよね」
「そうですよ。私だけお預けは嫌ですからね!」
俺の口から漏れた言葉に、来栖さんが苦笑しながら返事をする。
「いや、やっぱりなんか不思議だなと思って……」
「これからずっとなんですから、慣れてくださいね!」
お米を入れ終えた俺は来栖さんの言葉に軽い返事をすると、狭いキッチンで来栖さんと並んで米を研ぎ始めた。
◇◆
カレーが完成して、テーブルに2人分のカツカレーが並ぶ。
「お皿はあって良かったです!」
幸い、皿は親が来ていた時代の物が3組あったので無事にカレーを盛り付けることができた。
「ああ。昔のを残しておいて良かった。早く食べよう! もう匂いでお腹が鳴りそうだ!」
「はい! 私もです!」
テーブルに向かい合って、2人でカレーを食べる時間は、先日の寿司の時よりも会話が弾んだ。
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