08 否認一切的愚者:一夜魔咒
外の世界に出ると、空気がとても清々しく感じられた。都市にあった空気汚染の問題はまったくなく、まるで別の世界に来たようだった。その時、シェナが前方にある町を指さしながら言った。
「そうだ、この場所は私たちが以前いた都市から遠く離れた場所で、田舎の村よ。ここでは階級意識が強くないから、私たちのように階級が低いからって排除されることはないの。」
彼女のその言葉を聞いて、私の重かった心は水底に沈むように消えていった。私は一面に広がる草原を見つめると、思わずその中を走り回りたくなった。
そのまま軽く走って、少し先にある町にたどり着いた。そこでは人々が平凡な生活を送っていて、町は小さいものの、通りには美味しそうな屋台がたくさん並んでいた。しかし、本当にこの町は小さく、少し歩いただけで全てを見回ることができてしまった。
町にはいろいろな種族の人々が住んでいた。例えば、猫耳の少女やエルフの魔女などだ。それらの光景を目にして、私はようやく自分が本当に異世界に来たのだと実感した。
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そんな時、突然大きくて太い木の棒が私の頭上に落ちてきた。それが頭に当たりそうになる直前、魔力によって制御され、私の額の近くで止まった。
「おい、坊や、大丈夫かい?どうしてそんな危険な物が落ちてくるんだ?見たなら魔力で防ぎなさいよ。運よく私が見ていたからよかったけど、そうでなければひどいことになっていたわよ。」魔法帽をかぶった老婆が言った。
「魔力ですか……多分、私、持ってないかもしれません……」そう言い終えると、しまったと思った。彼らに魔力がないことがバレたら、私は最低どころか「ゼロ階級」として見下されてしまう。急いで口を押さえたが、もう遅かった。
その時、空から一人の男性が降りてきて、慌てた様子で謝り始めた。
「すみません!すみません!私のミスです。修理作業中に投射方向を間違えてしまい、物が落ちてしまったんです。本当に申し訳ありません!」
「私の階級が低いからって攻撃したりしないですよね?」私は緊張して尋ねた。
「しないよ。ここは都市じゃないんだからさ。ここの村人の半分は、都市のルールが嫌で引っ越してきたんだからね。もしかして君、最近ここに来たばかりの人?」魔法帽をかぶった老婆が尋ねた。
「ええ……都市で半殺しにされて、ここに逃げてきたんです。」私は気まずそうに答えた。
その時、老婆の隣に立っていた魔法帽をかぶった若い女性が近づいてきた。彼女はおそらく老婆の娘だろう。
「なるほど、そういうことなら、あなたは新しい住人ですね!ようこそ!歓迎しますよ。どうですか?レストランで歓迎会をしましょう!」彼女は笑顔でそう言った。
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私は驚きでその場に立ち尽くし、どう答えればいいのか分からなかった。
都市で出会った人々のように冷たくされるとばかり思っていた私には、こんな光景は信じられなかった。私のために歓迎会を開いてくれるなんて、これまで経験したこともないことだったのだ。
私が戸惑っていると、若い女性は突然魔力で私を持ち上げ、そのままレストランへ連れて行った。
レストランに到着すると、そこにはすでに大勢の人が集まっていて、テーブルにはさまざまな料理が並んでいた。彼らは私を囲んでテーブルの前に連れて行った。
私は目の前にいる人々を見渡した。彼らはさまざまな種族の人々だったが、皆一様に温かく私を迎えてくれた。
「どうだい?驚いただろう?彼らがなんでこんなに歓迎してくれるのかって?それはな、ここにいるほとんどの人が都市から逃げてきたんだ。だから、都市から来た人には親切にして、過去の痛みを忘れて新しい生活を始められるようにしてるんだよ。」煙草を吸う禿頭の老人が笑いながら言った。
「そう……ですか。それなら……本当に嬉しいです……」私は平静を装いながらも、心の中は喜びでいっぱいだった。
料理を一口食べると、自然と笑顔がこぼれた。その時、小さくてかわいい猫耳の少女が私のそばに来て、私にすり寄りながら言った。
「ねえ、都市でどんなことがあったのか教えてくれない?」
その言葉を聞いて、私は言葉に詰まり、口の中の食べ物を飲み込むのがやっとだった。
猫耳の少女は私の頭を優しく撫でながら言った。
「大丈夫だよ。もし話してくれたら、私たちも助けてあげられるからね。困ってることがあれば何でも言って。無理に言わなくてもいいけど、緊張しないでね。」
彼女の優しい言葉に、私の緊張は徐々に解けていった。
もしかしたら、ここでは都市での経験を話しても大丈夫かもしれない。きっと彼らなら理解してくれるし、助けてくれるだろう。
今の私は、ただの愚か者ではなく、血と肉を持つ本当の人間だ。
そこで私は、ここに来るまでの出来事――ケイとの出会いや殴られたこと、その他の経験をすべて話すことにした。ただし、私が別の世界から転生してきたことだけは伏せた。
私の話を聞いた人々は驚き、言葉を失う人もいた。その中で、猫耳の少女は私の頭をそっと撫でながら笑って言った。
「まったく、君が経験したことは本当にすごいね。でも大丈夫、何も心配しないで。困ったらまた言ってね!」
彼女の階級は私より少し高い平民だったが、それでもケイのような人間よりよっぽど人情味があった。性格は階級ではなく、環境や社会的地位によって形作られるものなのかもしれない。
私がそのことを考えていると、誰かが私に一杯の酒を差し出した。
「ほら、飲みなよ。もう過ぎたことなんだから。」
「でも……私、お酒は飲まないんです……」私は断ろうとしたが……。
……。
宴会が進む中で、私はこれまで感じたことのない温かさに包まれ、逃げずに生きていく理由を見つけた。
窓の外では、シェナが顔を出して私を見守りながら、微笑んでいた。
「やれやれ、これならもう逃げないだろうね、バカ。」彼女は自分に言い聞かせるように呟いた。
午後になり、私は村の大きな木の下で休んでいた。こんなにもリラックスして楽しい時間を過ごせたのは久しぶりだった。
しかし、その静かな時間は突然の騒がしい声にかき消された。好奇心に駆られた私は、すぐにその声のする方へ向かった。
そこでは、子供たちが慌てて走り回り、大人たちは小声で何かを囁き合っていた。その中心には黒い影が静かに浮かんでおり、地面には不気味な黒い液体が漏れ出していた――。
正当私が近づいて調べようとしたとき、隣にいた男性が突然私の腕を掴んだ。彼は私の肩を軽く叩き、緊張した表情で低声で言った。
「お兄さん、あの子は悪霊族の者だ。近づかない方がいい。悪霊族の能力は恐ろしいもので、彼らが現れるときは必ず災厄や危険を伴うんだ。」
そう言い終わると、彼は巻き込まれるのを恐れるかのように、急いでその場を離れていった。
しかし、その黒い影に近づくほど、周囲の人々のざわめきは大きくなり、その中には恐怖と敵意が満ちていた。私の好奇心は、どうしても足を止めさせなかった。この黒い影は一体何なのだろうか?
そのとき、黒い影の中から低い笑い声が響いてきた。
「みんな逃げたか。ハハ!俺がここにい続けたら、いつか全員を殺してしまうかもしれないな。」
私は不安を押し殺し、黒い影に向かって声をかけた。
「お前が言っていた『全員を殺す』ということ、それはどういう意味だ?他人に危害を加えるというのか?」
「お前は誰だ!近づくな!」黒い影の中の声は緊張と恐怖に満ちていた。「これ以上近づくと、お前を巻き込んでしまう!無関係な人間を傷つけたくないんだ!」
声が響くと同時に、黒い影が徐々に消え、一人の少女の姿が現れた。彼女は髪を乱し、左目に眼帯をつけ、長いピンクのインナーガウンを身にまとっていた。数カ所には包帯が巻かれ、その下から傷跡がわずかに見えていた。
「お前は誰だ?なぜ他人を避けている?」私は思わず彼女に問いかけた。
彼女はすぐには答えず、地面に広がった黒い液体が急に粘り気を増し、私がうっかりそれを踏んでしまった瞬間、足が底なしの深淵に沈むような感覚に陥った。慌てて足を引き抜こうとしたが、彼女が私を力強く突き飛ばした。
「近づくな!」彼女は咳き込みながら、大量の鮮血を吐き出した。その姿は、まるでそれが日常のように見えたが、彼女はそれでも口を押さえ、不安げにこちらを見つめていた。
「おい、大丈夫か?どうして急に血を吐いたんだ!」私は思わず彼女を支えようとした。
「触るな!」彼女は怒鳴り、手から黒い物質を地面に落とした。それはすぐに地面に吸い込まれて消えた。「これは普通の血じゃない。私の能力だ。この黒い物質は他人の力を勝手に吸い取ってしまう。そして攻撃にしか使えない、何の役にも立たない能力なんだ。それに、この力を毎日放出しないと暴走してしまうんだよ!」彼女の声には怒りと自嘲が込められていた。
彼女は口元の血を拭いながら続けた。
「こんな能力で他人と渡り合えると思うか?みんな私を怖がり、嫌がる。お前たちには分からないだろう、この気持ちは!」
私はしばらく黙った後、ゆっくりと口を開いた。
「本当に、全ての人が君が思う通りだと思っているのか?」
彼女は驚いたような表情を浮かべたが、それでも冷笑を浮かべて答えた。
「強さ?能力?そんなもの、もうたくさんだ!誰もが私を嘲笑い、見下す。もう気にするのはうんざりなんだ。正しいか愚かかなんて、所詮答えなんてない。」
その瞬間、彼女の体は激しく震え、大量の黒い血を吐き出した。それと共に黒い物質が次々と湧き出し、彼女の顔色は白くなり、冷汗が頬を伝って落ちた。
「おい、大丈夫か!」私はもう一度彼女に駆け寄ろうとしたが、彼女はよろめきながら立ち上がり、力を振り絞って私を再び押しのけた。そして、怯えたように痛みに顔を歪めながら走り去った。
追いかけようとしたそのとき、彼女は目の前の地面を黒い物質で覆い、私との間に壁を作り出した。
「近寄るな!私に関わらないで!」彼女の声は絶望と怒りに満ちており、そのまま濃い黒い霧の中へ消えていった。
私はその場に立ち尽くし、目の前の黒い壁を見つめながら動けずにいた。ただ彼女の後ろ姿が霧の中で消えていくのを見送るしかなかった。
彼女が向かったのは前方の茂みだった。私は別の道から茂みを抜けようと急いだ。そして気づけば、私の目の前に現れたのは、私と同じくらいの年齢の男性だった。
しかしその男性は未成年の少女を押さえつけ、服を脱ぎ捨て、彼女に襲いかかろうとしていた。少女は怯えながら泣き、私を見つめながら必死に助けを求めていた。
助けたい。しかし、目の前の男性の恐ろしい表情を見た瞬間、恐怖で足がすくんだ。助けようとして自分が命を落としたらどうする……?
過去の出来事が頭をよぎり、私はただその場で怯え、震えていた。
「おい!そこのガキ!何見てんだ、死にてぇのか!」男は怒鳴りつけてきた。
私は驚いて反対方向へ逃げ出した……。
(俺は何をしているんだ……。女の子一人すら助けられないなんて、俺には何ができる?何もできやしない。ただ逃げ回るだけ……そうだ、これが俺なんだ。もう諦めよう……。)
(でも、本当にこのままでいいのか?)
(俺には夢があったはずだ。強くなり、誰かを守れる人間になりたいと願っていたはずだ……。なのに、今の俺はどうだ?『できない』と言い訳し、すべてから逃げてばかりだ。)
(このままじゃ、俺には何も残らない……。)
足を止めた瞬間、木の根に足を引っ掛けて転んでしまった。そのとき、過去の記憶が蘇る――。
かつての自分もそうだった。他人に助けを求め、誰かが救ってくれると信じていた。しかし、結局誰も来なかった……。
私は立ち上がり、顔についた血を拭った。あのときの俺も、こんな風だったのか?他人に助けを求めるだけで何もしなかったのか?
前方にはいくつかの古びた建物があった。私は緊張しながら近づき、思わず大声で叫んだ。
「誰か!助けてくれないか!誰でもいい、助けてくれ!」
(結局、俺には何もできないのか……。)
しかし建物の中は静まり返っていた。私は中に入ってみたが、中の物はすべて破壊されていた。
さらに、部屋の壁には未成年の少女たちの写真が貼られており、その目には赤いペンで線が引かれていた。
床には解剖された被害者の遺体がガラスの瓶に詰められて並んでいた。それを見た瞬間、猛烈な吐き気が襲ってきた。
建物を出た私は、再び少女を助けるために向かうことを決意した。もうこれ以上、目の前で誰かが死ぬのを見たくなかった。
地面に落ちていた血に染まった手術刀を拾い上げ、私は前へ進もうとした。しかし、また足が動かなくなった……。
(ダメだ……やっぱりダメだ。俺はいつだって誰かを助けようとするたびに、何もできないままだ……。)
足を押さえつけながら、前方を見つめた。なぜ俺には、他人のように力強く物事を成し遂げる力がないのか……。
「そうだな。一人で無理なら、二人でやればいいんじゃないか?」
そのとき、背後から声が聞こえた――!
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