第30話 ペア試験は着実にいきたい専属メイド

「シェフィ。次はこっちに進んでもいいか?」

「はい、アーク様」


 お互いの片手は手錠で繋がれている。

 

 その上、手まで握り合っているのだから、こういう声掛けは大事だよな!


 俺たちはダンジョン内を探索していた。

 

 右を見ても左を見ても、同じような岩肌と通路ばかりだ。


 それにしても、このダンジョン広いな。

 歩くだけじゃなくて、十分に戦闘できるぐらいの幅や高さがある。


 でも、学園が作ったとなれば低層ダンジョンだと思うが……。


「ふむ。やっぱり地図がないと困るな」


 行き当たりばったりでは先が思いやられる。

 時間制限もあるしな。


 そんなことを考えつつも、足は動かす。

 角を曲がった時だった。


「ゴォォォォオ!」


 低く、唸るような音が響いた。


 視界の先には、2メートルはあるであろう、岩と土の混じった巨体が立ちはだかった。

 

「なるほど。別のモノっていうのはゴーレムのことだったか」


 ゴーレム。

 異世界では聞き馴染みのあるものだ。

 主に岩や土で造られ、ダンジョンや洞窟を棲家としている魔物である。


 だけど、このダンジョンには魔物はいないと言っていた。


 つまりは、学園お手製ってこと。

 何かあるに違いないな。


 まあ出会ったからには、逃げるという選択はない。


 正面からの突破だよな!


 こういう時の魔法は……。


「《ウィンドショック》!!」


 俺は風魔法を発動し、風を纏った拳を振り抜く。

 圧縮された風がゴーレムの胴をボコッと貫いた。


 風魔法は速く、細かな威力も調整ができるから、こういう密閉空間やデカい敵には効果的だ。


 油断大敵ということで胴だけでなく、足も頭も抜かりなく、風を纏った拳を叩き込む。

 

 ゴーレムは耐えきれなくなって、ガラガラと音を立てて粉塵になっていった。


「ふぅ……上手くいったな」

「お見事です、アーク様」

「ああ……」


 安堵の息を吐きながら、シェフィと繋いだ手をぎゅっと強く握ってしまったことに気づく。


「シェフィ、ごめん。ちょっと力入りすぎた。手、痛くなかったか?」


 魔法を使うと反射的に身体が強ばる。


 威力は調整できても、集中しているとどうしても身体や手には力が入ってしまうのだ。

 だからつい、シェフィと繋いだ手をぎゅっと強く握ってしまう。


「わたしは大丈夫です、アーク様。……むしろ、もっと強く握ってくださっても構いません。遠慮はいりませんから」

「そ、そうか? ありがとうな、シェフィ。そう言ってくれると助かる」

「いえ。お礼を言うのは私の方ですよ、アーク様。……ふふっ」


 シェフィは微笑みを浮かべていた。


 遠慮はいらないなんて言ってくれるシェフィは優しいよな!


 次に進もうと、倒したゴーレムのいた方を見れば……砂塵の中に四角いカードが1枚あり、淡い光を放っていた。


「なんだろう? 行こう、シェフィ」

「はい、アーク様」


 俺たちは近づき、カードを拾い上げる。

 そこには、簡潔に文字が刻まれていて……。


『ヒント:このダンジョンは7層になっている』

 

「……なるほど。魔物だとドロップアイテムになるけど、学園特製ゴーレムだと試験のヒントってことねぇ」


 中々、面白いことを考えるなー。


 試験の合格基準はダンジョンのゴールを目指すこと。

 別にゴーレムを倒せってことじゃない。

 

 だが、倒さないと試験のヒントがもらえないってわけか。


 俺としては一刻も早くゴールを目指したい。

 この先の道を確実に進むためには、ヒントを得られるゴーレムを探すことが優先になりそうだな。


「待てよ……? このゴーレム、回復させてまた倒したら別のヒントが出るとかない?」

「やってみますか、アーク様?」

「頼んだ、シェフィ!」

「《ヒール》」


 シェフィが回復魔法を唱えた。


 やわらかな光が触れた瞬間、粉塵が呼応するように集まり、やがて巨体を形作った。

 

「ゴォォォォオ!!!」


 再び姿を現すゴーレム。

 

 その咆哮が、静まり返ったダンジョンに重く響き渡る。

 なんか、さっきよりも気合い入っている気もするが……。


「あとは任せろっ!」

 

 そうして俺は風魔法を発動させる。

 

 だけど、今回はゴーレムが粉塵になっただけで、カードは出現しなかった。


「1体のゴーレムにつき1つのヒントってわけかぁー。まあ、そうだよな。それだと簡単に試験を突破されちゃうよな。シェフィ付き合わせて悪いな」

「いえ。いいペースですので、このままで行きましょう。このまま着実に、手を繋いだまま」

「おう!」


 シェフィなりの励ましの言葉だろう。

 それに手もぎゅっと握ってくれた。


 シェフィはペア試験は着実にいきたい派みたいだな。

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