第19話 悪役転生だけど、食堂はワクワクする②

 食堂の中に入ると……凄かった。

 

 俺の知っている、食券があって、長机やパイプ椅子がいっぱい並んだ食堂じゃない。


 ここはまるで……オシャレなカフェのようだ。


 木造の温かみある造りに、壁はガラス張り。丸テーブルやソファ席もがいくつもある。

 居心地の良さが段違いだ。


 受付でメニューを選ぶところは前世と変わらないけど……。


 そのメニューは、学食という域を超えている。

 

 ステーキに本格パスタ、焼きたてパンに……さらには、専門店でしか食べられないような料理もある。


 どれにするか迷うなぁ……。


「私はいつも通り、日替わりでいい」

「わたしも日替わり定食ですかね」


 ティアナとシェフィが即答。


 えっ、早っ。こんなにメニューあるのに……って、日替わり定食はパンとスープとサラダおかわり無料なの!? すごっ!

 

 でも俺は今日は違う物を食べるんだ!


「俺はやっぱり肉食いたいなっ。ハンバーグにする!」


 そうして3人とも注文を済ませる。


 料理は係の人が運んでくれるらしい。

 片付けだってしてくれる。


 貴族位の生徒もたくさんいるからってことかな?


「さて、席を探さないとなぁ……」


 辺りを見渡そうとした時、すっとスーツ姿のお姉さんが現れた。


「3名様のご利用ですね。席にご案内します」


 なんと……案内までしてくれるらしい。

 

 食堂って、席探しが面倒なんだけど……これなら絶対に座れるし、回転率もいい。


 さすがは名門学園。食堂のシステムまで考えられているとは……。


「個室かつ、薄暗くて、音漏れがしないところでお願い」

「ティアナ、それはもう食堂じゃないぞ……」


 完全にエッチな場所なんだよなぁ。

 まあ女の子がそんなこと思わないと思うけど。


「私は見られても構いません。むしろ、見せつけてあげましょう。その方が良いですから」

「シェフィ……」


 ……何故だろう。

 言ってる内容はまともなはずなのに、怪しく聞こえるような?


「……」

 

 お姉さんを見ると、ぽかんと固まっていた。


「ほら、お姉さん驚いているだろ。すいません、変なこと言って……」

「い、いえ……。どちらかといえば、私が驚いたのは貴方様にですが……」

「え、俺……?」


 俺、なんかしたっけな?


 そんなことを思いながらお姉さんを見ていれば、お姉さんの頬がほんのり赤くなってきた。


「ん、早く行こう」

「席の案内をお願いします」

「は、はいっ」


 そうだよな。混んでいるし、早くしないと。


 俺たちは係員のお姉さんにソファ席に案内される。


「ん、私がアークの隣に座る」

「わたしがアーク様の隣です」

「はいはい、2人とも。お姉さんが困るからジャンケンで決めようなー」


 お姉さんが目を丸くしていたので、俺たちは早めに済ませる。


 ジャンケンに勝ったのは、シェフィだった。

 

 ほどなくして料理が運ばれてきた。

 熱々で美味そうだ。


 食事前の挨拶を済ませて、俺たちは食べた。


「ん! うまっ」


 まず、デミグラスソースが美味いし、中はふわふわで肉汁も溢れ、口いっぱいに旨味が広がる。

 これだからハンバーグはたまらない。

 

 てか、ここにある料理、全部美味いに違いないな!


「アークのハンバーグ、美味しそう」


 向かいに座るティアナが、じっと俺の皿を見ていることに気づく。


「美味いぞー。ティアナも食べるか?」

「うん」


 ティアナがこくん、と頷いた。


 俺は1口サイズに切ったハンバーグをフォークで差して、ティアナの方へ。


「ほい」

「はむっ」


 ティアナがぱくりと口にする。

 

 モグモグと食べているけど……いつもクールな表情がほんのり明るくなった。

 

「ん、美味しい」

「なっ、美味いよなっ」


 美味しい物を人と共有するとさらに美味く感じるよな〜。


 それに、ティアナも成長したなぁ。

 

 昔のティアナは無口でおどおどしていたが、今はこうして自分の思ったことを言える。

 感情を素直に出せるようになった。

 

 ティアナはいい方向に変わっているよなぁ。

 俺の破滅フラグも遠のいていっているに違いない!


「アーク様」

「ん?」

「わたしのも美味しいですよ」


 と……シェフィが差し出してきたのは、1口サイズの魚のフライだ。


「食べてもいいのか?」

「はい。ぜひ食べてください」

「じゃあ食べる!」

「では、あーん」


 もぐっと頬張る。

 衣はサクサク。中はふっくらジューシー。くさみもなく絶品だ。


「うまっ!」

「ふふっ」


 思わず笑みがこぼれたところで、シェフィがさっと紙ナプキンで俺の口元を拭った。

 どうやら衣が付いていたみたいだ。


「ん、ありがとうシェフィ」

「はい。アーク様はもっとお世話されるべきだと思います」

「もう十分してもらっているけどなぁ」


 学園では従者として。

 屋敷では専属メイドとして。

 

 これ以上どう尽くしてくれるつもりなんだろうってぐらい、シェフィにはお世話してもらっている。


 シェフィもいい子に育っているし、これはもうどこに出しても大丈夫!

 シェフィには幸せになってほしいよな。


「夜のお世話ももちろんできますし」

「夜なぁ……。最近はすぐに眠くなっちゃうんだよなぁー」


 筋トレして、風呂に入ったらすぐ眠くなっちゃう。

 健康的な生活とはいえ、俺が目指すのは女遊びという不健全さ。


「……じゃあ寝かせないように頑張りますね」

「お、おう?」


 シェフィは夜更かしがしたいのかな?

 

 何するんだろ? ゲームとかなら付き合ってあげれるけどな。


「えっ……なんで食堂に男子がいるのっ!?」

「男子といえば、男子専用の部屋を使うか、一旦家に帰るのに……」

「隣の子は従者だとしても、一緒に座ってるのって、あの天才令嬢じゃない?」

「ちょ、ちょっと待って……! てか、今、あーんして、あーんされてなかった!?」

「あそこで何かの撮影始まってる……?」


 ざわざわと周囲が騒めきだした。

 食堂だから当たり前だけど、やけに視線を感じるような……。

 

「んげ……」


 ふと、ティアナが苦い顔になった。


「ん? ティアナ、どうした? 喉に何か絡まったか? 苦しい?」

「いや……違う」


 ティアナはふるふる首を横に振った後、遠くを見つめていた。


「……プレス先輩だ」

「プレス、先輩……?」


 俺は首を傾げつつ、ティアナの視線を辿っていくと……集団が入ってきた。

 その中でも目立つ人がいて……。


「見て、風紀委員長よ……」

「今日も凛々しくてお美しいわぁ……」

「さすが四大貴族の1つである家系のお方だわ……」


 周囲からほぅ……と息が漏れている。

 なるほど、学園の有名人らしい。

  

 高く結ったポニーテールに170センチはありそうな高身長。

 細いウエストでありながら、付いているのは巨乳。歩くごとにゆっさゆっさ揺れている。


 そして、腕には『風紀委員』と書かれた腕章が巻かれていた。


 確かに、あれだけ美人で凛とした雰囲気なら人気出るよなぁー。

 

 だだ、揺れるたびに1番風紀を乱していそうな存在な気もするけど。


「この学園、風紀委員がいるのか。生徒会だけかと思ってた」

「ん、生徒会も風紀委員もいる。この学園は争いになりがちだから中立の立場が必要。何よりも……」


 ティアナはそこで言葉を切り、ちらりと俺を見た。


「ん? どうした?」

「……なんでもない。とにかく、争いやトラブルが多いから風紀委員がいる」

「なるほどなぁ」


 異世界だと剣や魔法もあるし、喧嘩一つで大騒ぎに発展する。

 風紀委員がいなければ大変だろう。


「っ!」

「ん?」


 と……風紀委員長と呼ばれる先輩と目が合った気がした。


「い、委員長! あそこに男子が……!」

「しかもあれは、噂の男であるノット家の……」

「一緒にいるのは従者の子だとしても、もう1人はあのティアナ嬢ですよっ」

 

 彼女の傍にいる女子生徒がざわついているけど……。


「……。いくぞ、お前たち」

「い、良いのですかっ?」


 別のところへ行ってしまった。


 ここは料理を食べる場所なんだ。別に問題なんて起きないよなっ。

 

 それにしても、悪役ポジションと風紀委員長。

 プレス……そういう組み合わせといえば――


「っ……!」


 俺の脳裏に、この世界の原作……ではなく。


 前世で読んだラブコメ漫画の鉄則が浮かぶ。


『くっくっ……さっさとメスに堕ちろ!!!』


 そして、謎のモブおじボイスも再生される。

 

「……」


 あの風紀委員長の先輩って……。

 絶対、メス堕ちする人ヒロインじゃん!

 

 近寄らないでおこう!!


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