第二章 男女比1:9の世界の学園生活とは?

第10話 悪役転生したけど、気になることもある

「アーク様。お届け物です」

「おっ、もしかして……!」

「はい。そのもしかしての物でございますよ」

「おおっ!」


 シェフィが抱えてきた荷物を早速、開けて、俺はそれを手に取って広げる。


「これが学園の制服かぁ〜!!」

 

 紺色を基調として、金色のラインや王冠をモチーフとしたエンブレムが入っているブレザーに、肌触りの良い白シャツ。

 下はチェック柄のスラックス。


 オシャレながらも、上品さを兼ね備えた制服だ。

 異世界でも制服っていうのはなんかテンション上がるよなー。


 そう、制服が届いた。

 あれから俺は入学試験に見事、合格したのだ。


「アーク様。わたしの制服もありました」


 俺のものと同じくブレザーとシャツだが、下は可愛らしいフリルのついたチェック柄のスカートになっている。


「おっ、シェフィの制服も可愛いな〜。これからは俺たちお揃いの制服だなっ」

「はい」


 俺の言葉に、シェフィはほんのりと頬を赤らめながら、それでも嬉しそうにして制服を胸に抱いた。

 

 シェフィも試験に合格したのだ。

 もちろん、ティアナもだ。


 これからは3人で一緒に学園生活が送れるなんて楽しみだよなっ。


「せっかくだし、制服着てみようぜ。サイズが合っているかも確認したいしな」

「そうですね」


 俺とシェフィは別々の部屋で制服に着替える。


「おお、中々似合うじゃん、俺」


 全身が写る鏡の前に立ち、身なりを確かめる。

 ここ数年鍛えてきた身体は無駄じゃなかった。

 スタイルが良いと、少しでもカッコよく見えるからな。

  

 身体だけではなく、魔力強化も、コミュニケーション能力も鍛えてきたつもりだ。


 この世界で生き抜くために。

 破滅フラグをへし折るために。

 

 そして……可愛い女の子たちと仲良くなるために。

 この世界はなんといっても、男女比1:9だからな!


「今の俺なら女の子たちに話しかけても怖がられないよな!」

 

 だが、油断は禁物。

 

 まずは少しずつ仲を深めて、信頼を得るところからだ。


 そしていずれは……可愛い女の子に囲まれて、チヤホヤされたい!

 褒められたいし、甘やかされたい!!


 俺はそんな欲望だらけの女遊びがしたいのだ。


 そんな妄想を繰り広げていると、扉をノックする音がした。


「アーク様、失礼いたします」


 その声に応じると、現れたのは制服に着替えたシェフィだった。

 

 普段のメイド服姿ではない……その新鮮さに思わず息を呑む。


 もちろん、制服姿は似合っているが……どうしても過去と比べてしまう。


 俺の脳裏には、かつてのシェフィの姿がよぎる。


 汚れた布1枚に身を包み、幸薄少女だった面影は……もうない。


 今、目の前にいるのは――立派に成長した美少女だ。


 ……なんか、感動しちゃうなぁ。


「シェフィ、制服似合っているぞ! ほんと、立派に育って……っ」


 母さんが見たら、きっと俺と同じ感想を口にするだろう。

 もしかしたら号泣するかも。

 他のメイドさんたちにもあとで見せに行かなくちゃな。


「シェフィは、可憐で健気でいい子育ったな〜」

「……」


 そんな俺の言葉に対し、シェフィは小さく首を横に振った。


「わたしは、アーク様が思っているようないい子ではありませんよ」

「? そうなのか?」


 孤児院にいた頃のシェフィは大人しくて、どこか怯えながらも礼儀正しく、治癒の才能があったが謙虚な態度であった。

 

 俺の専属メイドになってからも、真面目に仕事をこなし、こうして気軽に会話できるまでになった。


 でも、ティアナと話す時はちょっと雰囲気が変わったりする。


 いずれにしろ、俺にとってシェフィはいい子だと思うんだが……本人には何か引っかかるものがあるらしい。


 自分を卑下しているのかな?

 けれど今は、言葉を濁している様子。

 ならば……。


「でも、これだは言っておこう。俺はどんなシェフィだって受け止めるからな」

「!!」


 そう言ってフッと微笑むと、シェフィは驚いたように目を丸くした。


 そんなに意外なことを言ったかな?

 俺としては最初からそのつもりだったんだけどな。


「当たり前だろ? 俺は、あの日出会った時からシェフィのこと受け止めるって決めていたからな」


『だが、この子はもうアンタのモノじゃない! アンタにはもう渡さない! この子にはもう2度と、辛い思いはさせないっ』


 俺はあの瞬間に、誓ったのだ。

 もうシェフィには辛い思いはさせないと。


 そして……俺は、シェフィに手を出すつもりはない。

 

 シェフィは辛い思いをしてきた。

 その過去はちゃんと聞けていないけど……想像を絶するものであったのだろう。

 

 そんな彼女を悪役の俺の事情にこれ以上、深く関わらせるわけにはいかない。


 俺がシェフィに望むのはただ1つ。


 幸せになって欲しい。


 だから、悪役の専属メイドは女遊びの対象外だ!


「アーク様にそんなこと言われてしまっては、わたしはもう……」

「ん?」

「……っ、こほんっ。なんでもありませんよ」


 何かを言いかけていたシェフィだったが、続きは聞けなかった。


 俺は首を傾げながらも、それ以上は追及しなかった。


 それにしても、俺にはちょっと気になることがある。


 それは……試験のことだ。


 ティアナから事前に聞いていた試験内容は、筆記・実技・面接の3つだった。


 だが……。


『受験番号99のアーク・ノット様ですね。アーク様はの試験となりますのでこちらの部屋へお進みください』


 迎えた当日。

 個別に受験の手続きをしていた時に、係員からはそう告げられたのだった。


 俺は困惑したが……ひとまず、それを断った。

 続けて「正規の試験を受けさせてほしい」と告げた。


 係員たちは明らかに困惑しており、ついには学園の偉い人まで出てきて話し合いをしていたが……。


 結果、俺は正規の試験を受けられることになった。


 って、受けさせてもらえたっていうのはなんか変だけどな。

 

 そうして俺は、合格を勝ち取った。


 これもティアナがずっと魔力強化の特訓に付き合ってくれたり、シェフィが勉強に付き合ってくれたりしたおかげだ。


 まあ試験のことは、俺が公爵家の人間だから優遇しようとしていたんだよな。

 

 だが、これが他の受験者にバレてみろ。 

 絶対、反感を買うはずだ。

 最悪、恨まれて直接攻撃をしかけられても……。


 何より、自分の実力で合格してきた人たちとこれから学園生活を共にするのだ。

 

 俺だって、ちゃんと正式なルートで入って、仲良くなりたい。

 プライドがあるってものだ。


 破滅フラグ要素を1つ解消できて良かった良かった!


「学園が楽しみだな、シェフィ!」

「……。はい、アーク様」

 

 ん? シェフィの言葉に変な間があったけど……まあ大丈夫だよな。


 とにかく、ここからが本編スタートって感じだな。

 気合い入れよ!!



◇簡単な人物紹介◇


アーク・ノット(転生後)


黒髪黒目の容姿であり、四大貴族と呼ばれるノット家の1人息子。

悪役転生したと本気で思っているが、実は男が貴重とされる『貞操逆転世界』であり、また別の意味で狙われていることに気づかない。

男女比1:9になっていることに対しては、「珍しいよなぁ。でも、元の世界とさほど変わらないでしょ!」的な感じでいる。

色々ともう手遅れである。

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