第7話ミントの場合
私はミント。
マスターと出逢ったのは
オークション会場。
そう……。
私はマスターに買われた。
300Gで……。
王国の兵士の初任給がおよそ30Gだから300Gというと、その10倍。
買われた時の感想は、
あぁ私は価値はお父様の一月の給料と同じ程度なのか……。
だった。
私はある中級貴族の令嬢だった。
正しくは、中級貴族の父と使用人の母との間に産まれた、望まれぬ子だった。
母はお父様を愛していた。
いずれお父様は私達を迎えにくる。
そう毎日言っていた。
そして、母が亡くなったあと、私はお父様に引き取られた。
ただ……。
お父様とは一度も会話をした事がなかった。
使用人等の会話からしか、お父様の事をしるよしはなかった。
私は一応令嬢という立場を手に入れたが、とても令嬢という扱いではなかった。
ただ執事が実の母と同郷で、いろいろな事を教えてくれた。
お父様はなにも買い与えてはくれなかったが、本だけは自由読めた。
平民出身でまともな教育は受けていないから、
貴族社会になじめるはずはない。
どこに行っても異物扱いだった。
それは平民のコミュニティの中でも同様だった。
平民出身の貴族の令嬢……。
それは嫉妬と、あらぬ噂の的となった。
私はどこに行っても異物でしかなかった。
排除、除去、抹消……。
そんなカギカッコの言葉が、人々の頭の上にボンヤリと浮かんでいた。
私は『存在してはいけない存在』そう思えた。
そして私のいた国は戦争に負けた。
感想?
そんなものはなかった。
ただ、真っ赤に染まった世界が……。
はじめはキレイだと思った。
でも3日もすると悪臭に包まれる。
そして赤い色は醜い漆黒へと姿を変える。
それが不思議だった。
お父様が戦場で倒れたと手紙が届いた。
正妻と正妻との子供達と使用人は皆、後を追った。
あらかじめ毒を手配していたのだ。
私にはそれさえも与えられなかった。
「生きなさい」とも言われず……。
宙ぶらりんのまま。
血と欲に飢えた男たちが群れる戦場へ
ただ放置された。
街は真っ赤に輝いていた。
私はそれをボンヤリ眺めていた。
兵士達が屋敷に乱入してくる中、私は仲良くしていた黒猫と隠れていた。
兵士が部屋に入ってくると、黒猫は私の顔をひっかき、窓から逃げていった。
私は黒猫からも見捨てられたのだ。
その様子を見た兵士達は笑った。
飼い猫に見捨てられた貴族の娘。
そうからかわれた。
顔の傷は癒えなかった。
まるで呪いのように残った。
そうして……。
呪われた貴族の娘と呼ばれ、
処分するようにオークションにかけられた。
ただ世の中には好事家がいるらしい。そんな曰くありげな娘でも、値は上がった。
最終的に300G
買ったのは美しい顔の若い男性。
こんなに醜い私を、存在価値のない私を、世界に見捨てられた私を……。
一体どうしようというのか。
マスターは私を馬車に乗せ言った。
「あなたのお顔は美しい」
私は言った。
「目がお悪いのですか?こんな醜く傷があるのに、これは呪いだと」
マスターはトランクから小瓶を取り出し、私の傷になにかを塗りこみ、
「これは呪いなんかではありません。あなたの身を守る為の祝福です」
と言った。
この方は、すこし変わった方なんだと、そう言い聞かせた。
それからも何度かマスターは傷口になにかを塗りこみ、3日後にはあんなに酷かった傷口はキレイに消えていた。
「もしこの傷がなかったら、あなたは過酷な目にあっていたでしょう。あの傷は猫ちゃんかな?」
マスターは優しい顔で私を見つめた。
「はい。仲良くしていた黒猫です」
と答えると
「そうでしょうね。猫ちゃんが守ってくれたんですよ」
マスターは優しい目で、そういった。
裏切られた……。
そう思っていた。
実は守ってくれてたなんて……。
心に溜まっていたものが、
一気に流れだした。
私は泣いた。
泣き叫んだ。
悔しい……
悲しい……
嬉しい……
どう名前をつけたらいいのかわからない感情が、心のなかに溢れて、どうにも止まらなかった。
マスターは、そんな私の頭をなでてくれた。
マスターになでられると、さらに感情があふれた。
マスターは何も言わず、黙って、私の頭をなで続けた。
ふと顔を見上げると、
マスターの頬も濡れていた。
この方は、すこし変わった方なんかじゃない。
とても、とても……。
優しい方なんだ。
私はそう思った。
マスターから私のお役目を聞かされた。
あまり抵抗はなかった。
人は必ず旅立つ。
それが少し早まるだけの話。
それに最後に幸せの中で旅立てるなら、
誰よりも幸せなのではないか。
そうも思えたのだ。
お父様を待ち続け、失意の中に旅だった母。
お父様が亡くなった事をしり、失意の中に旅だった正妻と正妻の子供達と使用人。
平凡な日常が突然奪われた、街の人々。
私が出会ったどの人々より、幸せな終わり。
それを与えられるなら、私は慈悲深い女神ではないか。
そう思えたのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます