第3話3人のターゲット『私の秘密のお仕事って』
あれから、3日がたった。
マスターやミント、タイムからこの世界のいろいろな事について、教わった。
どうも、日本という国については、3人とも知らないようだ。
地球とは違う文明なのかもしれない。
ただマスターにラテン語の知識があったり、植物や食べ物も、
私がいた世界のものと似ていたりする。
朝食後、私達3人はマスターに呼ばれた。
「では、今回はお仕事の話をしましょう。
今回は
王国を裏で牛耳るこの3人の殿方を始末いたします。
もちろんエレガントに、
ではタイムさん。準備はよろしいですか?」
とマスター。
「大丈夫」
とタイム。
「ミントさんは、どうですか?」
とマスター。
「平気」
とミント。
えっ始末って……。
どういう意味?
仕事って、まさか。
「この殿方をもっともエレガントに始末するには……。
エレガントとは、眠るように自然に旅だったかに見せかける。苦しみも与えずに」
とマスター。
その顔は歓喜に満ちている。
この人、なんでこんなに気持ちよさそうな顔をしているのだろう。
「えっ。
始末って、あの~。命を奪うという意味ですか」
と私。
「そうだよな。ローズマリー、僕もそう思うよ。彼らはもっと苦痛を受けるべきだって」
とタイム。
えっ?なに苦痛を受けるべき?ちょっと意味がわからない。
タイムの言っていることが私にはわからなかった。
しかし話は勝手に進む。
マスターは、腕を組みながら、話しだす。
「たしかに、彼らは苦痛を受けるのが当然かもしれません。
しかしながら、その苦痛に歪む表情を、私は見たくありません。
ですからあくまでエレガントに昇天させるのです。
それに、地獄というものがあるのなら、
そちらの鬼様たちの仕事を奪うわけにはまいりません。
苦痛は鬼様たちに一任すべきではないでしょうか」
とマスター。
これちょっとマジで意味わからないんだけど。
えっどうするの?
と私は思った。
やっぱり命を奪うってこと?
「これがみんなの仕事なのですか?」
と私。
「そうこれが私達の仕事。もちろんローズマリーさんの仕事でもあるのですよ」
とマスター。
「説明いたしましょう。
我々は『毒殺を主にする機関』の一員です。
実は全世界に我々のネットワークがあり、
古代の昔からこの機関は存在しており、
世界の調整役を担っています。
歴史には、ある種の"均衡"が必要なのです。
我々は、その歪みを調律するだけです。
歴史の調停者……。
それが私達の姿。
世界が滅びない理由の一つは私達なのです」
とマスター。
「えっ。でも命を奪わなくっても」
と私。
「もし直接的な手段が用いられず、かのもの達を放置し、戦争という手段がとられたなら、多くのものが犠牲になります。
ここにいる者たちは皆、戦争で愛する家族を失いました。
我々は欲望のために、力を行使する愚かな芽を摘み取っているのです」
ミントは黙って下を向いている。
タイムはずっと拳を握りしめている。
そうか……。
みんな戦争孤児なのか。
「戦争を回避させるという善行を行ったことで、神に罰せられるとは到底思えませんが、例え罰せられたとしても、それで私達のような悲劇をさけられるのなら、喜んで地獄へも参りましょう。
それが我等の矜持ですから」
そうマスターは言った。
その瞳には、影と少しの寂しさがあった。
「あの……。
マスターも、家族を奪われたではないですか。
復讐はしたくはないのですか?」
とミント
「復讐したくないのですかって?
それは多分したいのでしょうね。
残忍に残酷に、そして人々の残響に残るような最後……。
しかし、
それはエレガントではありません。
私は常にエレガントに振舞いたいのです。
それに、報復は連鎖を生みます。
すると私たちのような者が、またどこかに生まれる。
それは悲しいじゃありませんか」
とマスター。
「お強いのですね」
とミント。
「私が強い?
それは勘違いではありませんか?
私はただ人々が悲しむ顔が見たくない臆病者ですよ。
あちらで皆に謝らなければいけませんよ」
とマスター。
ミントは一瞬、唇を噛んだ。目を伏せ、そしてゆっくり顔を上げた。
「いいえ。私はマスターを臆病者などと思いません。
マスターは気高く、そして強い御方。私はそう思います」
とミント。
タイムもうなづいている。
「やれやれ、強情なお人だ。しかし存外、そういう言葉は悪くはありませんね。お気遣いに感謝を」
とマスター。
「気遣っているわけではありません」
とミント。
「フフ。わかっていますよ。ミントさん……。
あなたは魂が美しい。きっと今以上にエレガントな女性になりますよ。
優しさはエレガントの揺りかごですからね」
私は考えた。
たしかにマスターのいう事はわかる。
彼らを放置すれば、戦争が起こり、多くの人たちが犠牲になる。
それはわかる。
……でも本当に私に命を奪う権利はあるのだろうか?
それに怖い。
人の命を奪うつもりなら、
自分の命も奪われるつもりでしろ。
そう聞いたことがある。
戦争の記憶も薄れた日本という国で。
戦いから逃げて閉じこもった私が、
世界を調律するという、重い運命を背負う。
まぁラノベにはよくある物語か……。
でも、それが目の前に現実として突きつけられると。
途端に臆病になる。
いや。違う。私はずっと臆病だった。
逃げて逃げて逃げた。
親もそれを許してくれた。
戦う必要なんてなかった。
でも目の前で、同じくらいの少年少女が、世界を守るために命を賭けようとしている。
私は、ラノベを見ていた時、どう思ってた。
だらしないな。……すっと決めろよ。
そう思っていなかった?
現実はどう?……ムリだよね。
私は勇気も、勇敢さも何も持ち合わせていなかった。
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