冒険者を引退した銃士は、静かに暮らしたい

悪魔さん

第1話 貯金完了と、人助け

ダンジョン内に一発の銃声が響く。それと同時にモンスターの体が崩れ落ちた。


「ふぅ、これでやっとお金が貯まった...!」


黒髪に、少し小柄な体格で灰色の瞳を持ち、顔が隠れるような大きさの黒いローブを羽織った少年 一 空夜 零は手に持っていたリボルバーを慣れた手つきでしまいながら、呟く。その表情は喜びに満ち溢れていた。

ご覧の通り、僕は銃士ガンマーだ。その名の通り銃を使って戦うのだが、僕は一般的な銃士ガンマーとは少し違う。


銃士ガンマーは、銃弾に魔力を込めて放って敵を倒すのだが、僕は銃弾に様々な魔法を組み合わせることができる魔導銃士ヴィザマーと呼ばれている。王都の中でも中々いないらしく、珍しい職業の一種である。


そんな僕がやってきたのは、ダンジョン144階層。モンスターやダンジョン、冒険者のレベルは、主にS〜Fまである。ダンジョンは、20階層ずつランクが上がっていくようになっている。ここ144階層は、主にSランクモンスターが出現する場所。


本来なら、パーティーを組んで攻略するのが当たり前。そうでなければ大抵の冒険者は死んでしまうからだ。だが零はソロで潜っていた。


パーティーを組まない理由なんてものは特にない。強いていうならば、パーティーを組む必要がないと思っているから。


元々、冒険者をするつもりはなく、ただ夢のためにお金が欲しいという理由で冒険者になった。

そのため、パーティーを組むという発想すらなく、ただただお金が欲しいという単純な理由だけでここまで上り詰めた。


ただ、僕自身、目立ちすぎて騒ぎが起こるのは避けたかったため、ダンジョン協会の会長にCランク冒険者となるよう、許可を貰った。


「よしっ、帰ろう!」

そう呟くと同時に、ダンジョンの入り口まで走り出した。

しかし、次の瞬間


「きゃああああぁぁぁ!!!!」


という甲高い声がダンジョン内に響いた。

急いで声がする方へ行ってみると、一人の女性がツインヒュドラに襲われていた。ツインヒュドラは、首を10本持つ龍で炎、氷、風の3属性で攻撃してくる厄介この上ない敵だ。


しかし、おかしい。ツインヒュドラは、災害級として認定されているSSランク。本来なら複数のSランクパーティーが挑んでギリギリ勝てる程の強さを持つ。それなのに、彼女はパーティーメンバーすらいない上に、身に纏っている装備は明らかにBかCランク辺りの装備品。そんな装備のまま一発でもツインヒュドラの攻撃を食らえば、一撃で瀕死行きだ。


大方、ダンジョン内に配置されている転移トラップに引っ掛かってこの階層まで転移されたんだろう。ここのダンジョンは、罠が即死レベルで有名だが、ある意味引っ掛かった罠が転移トラップで良かったのかもしれない。


本来であれば、ダンジョン協会に連絡して助けを呼ぶのが一般的なんだけど…このまま助けが来るのを待っていたらおそらく彼女は殺されてしまうだろう。流石に目の前で助けを求めている女性を見殺しにするほど、良心は捨てていない。再びフードを深く被りなおし、地面を素早く駆け抜け腰に携えてあるリボルバーを引き抜く。


銃式変化トランジル


その呟きと同時に、リボルバーが青白いショットガンへと姿が変わった。

銃式変化トランジル」はスキルの一種で、自身の持つ魔力と引き換えに手に持っている銃の形状を変化させるというもの。スキルというのは、主に1人につき一つは持っていて、たまに2つ所持している人もいる。


スキルにはクールタイムが存在しており、強ければ強いほど、クールタイムが長くなる。

実際、この「銃式変化トランジル」も魔力があれば何にでも変化させられるというものなので、1時間という破格のクールタイムになっている。


僕は、すぐさまショットガンを構える。このショットガンは、特にこれといった名前はないがとりあえず『蒼散銃ルースター』とでも名付けておこう。

「ゴヴア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙アアアーー!!!!」

けたたましい叫び声と共に、ヒュドラの十の頭が一斉に口を開く。


火炎の奔流、水の刃、風の弾丸――三つの属性が絡み合い、弾幕のように襲い掛かってくる。


「おっとと…」


僕は石柱の影に飛び込み、迫り来る炎を紙一重で回避する。頬を掠めた熱気が焼けつくように肌を刺した。すぐさま飛び出し、照準を合わせる。


「ドンッッッ!!!」


引き金を引いた瞬間、銃口から炸裂した弾丸が、着弾。次の瞬間、空気を震わせる轟音と共に、目の前のヒュドラの頭部の一つに巨大な落雷が落ち、粉砕した。肉片と鱗が飛び散り、断末魔の咆哮が洞窟を揺らす。


蒼散銃ルースター―この銃の性能は二段階の多段攻撃。まず、弾丸が硬い鱗を壊し中に突き刺さる。その直後、あらかじめ込めていた雷魔法が炸裂し、内部から破壊する…という物。込める魔法は自分が使える魔法なら、自在に変更できるので使い勝手が良い。


残り九つの頭は、一瞬何が起こったか理解できていなかったようだが、一つの頭を潰され、怒り狂ったように暴れだす。

火の頭が灼熱の息を吐き、水の頭が滝のような奔流を吐き出し、風の頭が鋭利な刃を無数に散らす。

流石は、Sランクをも超えるモンスター。一撃一撃の攻撃が重たい。


しかし、当たらなければどうということはない。

素早く、薬室に弾を込めて連発。幾重もの、落雷と嵐のように荒れ狂う刃で内側から切り裂き、焼き付ける。

巨体が地面に崩れ落ちる。どうやら、無事に倒したらしい。僕は、すぐさま素材を回収する。手に入れた素材は、氷結の鱗、ヒュドラの心臓、風裂の牙などなど、どれもこれもレア素材ばかりだった。流石はSSランクのモンスターなだけあって、素材は豊富だな。そう思っていると


「あの…助けていただいて、ありがとうございした!」


と声がした。後ろを振り向くと先ほどの女性がこちらを見つめてお礼を言っていた。


「いえいえ、お構いなく。助け合いは大事ですかし、困っていたらお互い様ですよ。

それと、この素材を少し貰っていってもいいですか?」

「はいっ、もちろんです!私が倒したわけではないので、全部貰っていっても…」


「いえいえ、流石にそんな事はしませんよ。少しだけ素材を分けてもらえれば十分なので。では、僕はこれで…」


そう言って立ち去ろうとすると、


「待ってください!お礼を差し上げたいんですが…」


と言ってきた。

(うーん、別にそんな大層な事はしてないからな〜)と思いつつ


「お礼は、いりませんよ。さっきも言った通り、困ったときはお互い様なので。」

という言葉を残し、持ってきていた自作の魔道具を使い、ダンジョンの入り口まで移動した。

「せめて、名前だけでも…」という声がしたが、気のせいだなと思い、ギルドに戻って元々の依頼のモンスターの素材を売って依頼を達成する。流石にツインヒュドラの素材をここなんかで売ったりなんかしたら、目立つに決まってるし、それに何より…


「新しい銃作りたいからな〜」


そんな言葉を呟きながら、僕はお金が貯まったことへの喜びと、新しい銃が、作れるというワクワク感のまま家に帰り着く。


今、住んでいる場所は王都付近のボロい一軒家。値段も、安く立地もいいが、修繕個所がいくつもあるのが欠点。今となっては、昔の頃に、ほとんど修繕し終えて普通の一軒家になっているが、それもまた懐かしいような気がする。


とりあえず、明日くらいには急いで家を買いに行きたい。人気があるわけではないが、僕が狙っている家は自然に恵まれていて穏やかな場所。もし、他の誰かに取られたりしたら…なんていう事を毎晩のように考えているので、早く買いに行きたい。

そんな考えを巡らせつつ、いつの間にか僕は眠りに落ちていった。


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