第9話 日常と聖戦

『あー、もう夜になったな』


「そうね……そろそろ家に入りましょうか」


 二人暮らしする事になったその日、ちなさんの食糧を回収した後に帰宅する。

 まったく、どうしてこうなったかな。


 昨日まで一人の生活を楽しんでたってのに……まぁ、悪くわないわな。


「スライムくん、食べる?」


『だから、腹は減らないって言っただろう? 俺はいいよ』


「そう? これ美味しそうじゃない?」


 彼女が食べているのは山菜とキノコ。いっつも見てたけど、あんまりおいしそうには見えないんだよなぁ。


 岩のほうが旨いだろ。


「あっ、そうだ……お風呂とかある?」


『風呂? あるにはあるけど……ま、いっか。焚火もあるし』


 そう言うと、彼女は「やった」とガッツポーズ。


(そういや小説にも載ってたな……女性は風呂にすんごいこだわるとかなんとか)


『つっても温泉だぞ』


「温泉⁉ さいっこうだね!」


『そ、そう?』


 彼女が食事を終え、二人で温泉に入ることに。

 俺の身体は汚れを消化するから、正直入浴は必要ないんだけど……どうしてもと言われたらしょうがない。


 そして


「はぁぁぁあああ……気持ちいい……いいねぇスライムさんは、これに毎日入ってたの?」


『毎日というか、気が向いたらボーっと入ってるだけ』


「ふーん……いいなぁ、こういうの」


『なぁ、ちなさん』


「?」


『なんで俺と暮らすなんて言い出したんだ? あんた、一応元とはいえ冒険者だろ』


「うーん……ちょっと昔話になるよ?」


『……ああ、構わない。物語は大好物だ』


 そして彼女は、静かに語りだした。自分の正体と、過去を。


 ◇◇◇


 私は、二百年前に東洋の魔術師に造られた人造兵士。


 コードネームは「サウザンド」。千の魔力砲と精霊を操作する能力を付与されて兵器としての宿命を植え付けられた生きた人形。


 戦え、殺せ、壊せ、敵を、子供を、女を、兵士を、城を、街を、国を、魔法を、呪いを、最後まで、一つ残らず。


 そんな命令を忠実に守って、色んな人を殺した。


 そして、最後の戦争……魔王に戦を仕掛けた私の国は滅ぼされた。

 けど、私だけは何故か生かされたの。魔王は私の出生に同情したんだと思う。


 それからしばらく、魔王の城で暮らして―――楽しかったの、初めて。


 おかしいよね? 同郷の人や、女子供を沢山殺した怨敵なのに……初めて、人間扱いしてもらった。


 故郷では私は人形のように、兵器として白い目を向けられて……誰一人助けてくれなかった。


 魔王は私をあの場所から、狭い檻から助けてくれた恩人。でも、それを私の存在意義が否定するの。


 どうして、魔物と人は争うんだろうってずっと考えてた。それでも答えは出ないけど、私は探すよ。


 魔王に報いるために。


 あの魔王は勇者に討たれて死んだ。世界平和と、人魔共存を目指してようやくここからって時に。勇者はどっちだ、魔王はどっちだと思ったね。


 だって勇者は、魔王を殺して終わりなんだもん。


 その後は、人類同士の戦争。


 私は魔王の願いを継ごうと必死に戦って、戦って戦って戦って戦って戦ったよ。

 結局、あの頃と何にも変わっていない。


 戦うための生体兵器、それが光剣の英雄。


 魔王の戦いはまだ終わっていない。けど、彼以外の魔王は好き勝手に暴れたり自分の国から出てこなかったり―――これじゃあ、あの人が報われないよ。


 私の中で、二つの言葉がずっとせめぎ合ってる。


 殺せ、殺せ、殺せ、殺せ、殺せ、殺せ、殺せ、殺せ、殺せ、殺せ、殺せ、死んで。


『生きろチナツ……そして叶えてくれ……、俺ができなかった、真の平和を……!』


 出来ないとは言わない。


 死にたいとは言わない。


 それが、私の罪。生まれてしまった兵器の贖罪だから。


 ◇◇◇


『……』


(想像より斜め上のシリアス過去きたぁ……)


 彼女の脇腹には火傷のような跡がある。恐らく、戦乱でついた傷だろう。


 その痛々しさは、戦争の壮絶さを物語っている。


『……ありがとう、聞かせてくれて』


「ううん、こっちこそ……ありがとう」


『……』


「……」


 こんな時にどう言えばいいのかはわからない。でも、分からないからと止まっていたら、きっといつまでも分からない。進めない。


『……ちなさん。俺は……貴女から離れない。だから……心配するな』


「……うん!」


 パッと明るくなった彼女の笑顔に、どこかが熱くなるように感じた。


 ◇◇◇


「チナツさん、戻って来ませんね……」


「ああ、そう、だな」


 冒険者ギルドには、重い空気が漂っていた。あの英雄でも勝てない魔物をどうすればいいのか。


「おれが行くよ」


「えっ、あ、貴方たちは―――勇者パーティー⁉」


「おれがその人を助け出す。だから心配しないでください!」


「お、おぉ……神の祝福だ……ありがとうございます……!」


「お願いします! チナツを、俺たちの英雄を助けてくれ!」


「「任せろ!」」


 勇者パーティーの四人は自信満々に答えた。

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