第5話 新人と英雄
私は、走っていた。
ただ、この森から抜け出すために。生きるために。伝えるために。
「だ、誰か!」
森を抜け、町へ降り、冒険者ギルドへと駆け込んだ。
私の焦る様子を見て只事ではないと判断したギルド職員たちは、ギルドマスターへと案内してくれた。
「それで、いったい何があったのかな。あの森で」
歴戦の勇士であるギルマスは優しく問いかける。
「す…………」
「す?」
「スライムの、突然変異種です…………」
「突然変異だって⁉」
魔物の突然変異は例外なく強化される。それは歴史上一度も覆っていない。
スライムと侮れないことになるのだ。
「どうだった⁉ ソイツの特徴は⁉」
「見た目は普通のスライムでした……でも、言葉を話して………」
「人語を解する魔物となると、Bランクは超えるだろうな……他には?」
ずっと喉の奥で引っかかってそれを、言わねばなるまい。
「剣を、用いていました…」
「⁉」
喋って、剣を使って、それでいて―――――――――――
「パーティーは、私以外死にました」
「もうそれは、B⁺じゃきかないぞ……魔王候補に成りえるかも知れない」
「えぇ…………本当にあれは、魔王です」
イカれていた。あれは本当に、人間の敵になる存在だ。スライム魔王………!
仇を取りたい、けど………。
「私では、勝ち目はありません……」
「敬虔な信徒である君の光魔法でもダメとなると……彼女にしか頼めまい」
「ま、まさか!」
「ああ、そうだ。……光剣の英雄、チナツ・コトノハ」
それから二か月後、英雄が招集される。
「……あれが光剣…………」
「現代の英雄だな」
「初めて見たぜ」
「俺もだよ」
「ああ、あの長い黒髪に黒い瞳! まるでブラックダイヤのようだ………」
「うるせ」
◇◇◇
私の名前は《琴ノ葉千夏》。
極東から来たということにしてるけど、実際はちょっと違う。
こっちに来てからは魔法剣士の冒険者として活動していたんだけど、色んな国で実績をあげてたら英雄なんて呼ばれるようになっちゃった。
………私、結構歳なんだけどなぁ……。
人には言えないくらいには重ねてるよ…………。
「要請に応えてくれて感謝する、英雄殿」
「いいえ、ギルマス。困ったときには頼って下さいと私が言ったんですから」
「……にしても、六年前とまるで変わらないな」
「まぁ、それは……秘密です」
昔にある程度の恩を売っておいたギルドマスターに呼ばれて、突然変異種の討伐をすることになった。
「それで……」
「ああ、モンスターのことだね。単刀直入に言おう、スライムだ」
「…………へっ?」
あまりにも予想外な答えに思わず妙な声を出してしまう。
けど、スライムって………突然変異することあるんだ。昔本で調べたことがあるけど、それにはある程度上位の魔物に限られるって書いてあったような――?
いずれにしても、イレギュラーな事が起きているのは間違いないらしい。
「もちろんそういう反応になるのは分かる。だが、被害としては三人のCランク冒険者が殺されている」
「Cが三人も……」
「そして生き残った一人が言うには、剣を扱い、言葉を話すそうだ」
「…………それ、スライムに化けた
「それならまだ良かったんだけどね。スライムの突然変異種となると、生体が不明なうえに上限が定められないんだよ。だから下級冒険者を派遣するわけにもいかず…」
「……分かりました。引き受けましょう、その依頼」
「ありがとう、本当に………ありがとう」
「それじゃあ、早速出発します」
「いやいや、今日はもう日が暮れる。休んでいきなさい」
「…………そうね………そうさせてもらうわね」
◇◇◇
その頃、スライムはというと…………。
『椅子、机、窓、暖炉、できたぁあああああああああああああ!!!!!!!」
一人生活を満喫していた。
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