第四章 上洛

第19話 作戦会議

海道かいどう一の弓取ゆみとりとうたわれ、最も天下取りに近い男と呼ばれていた

皆川義知みながわよしとも野田信仲のだのぶなかによって討ち取られたという報は

一夜にして全国を駆け巡った。


野田家や空井家矢礼家そらいけやれいけなどでは戦勝の報に沸き返り

それぞれの城下では殊勲の兵たちをねぎら賞賛しょうさんする声であふれていた。


一方で野田方に内応ないおうしていた真平友康まったいらともやすは皆川勢が引き払った

岡崎おかざき城に入城し安住あんじゅうの地を得た喜びを家臣たちと分かち合っていた。


空井家では天田あまたのオロチの成敗せいばいに引き続き

次男の龍安たつやすが皆川義知の御首級みしるしを挙げたことによって

龍安の評判はうなぎ上りとなり、他家に婿むこに出すのはもったいない

といった声まであがるようになってしまい

龍安と朱音あかねの婚姻を一旦考え直すべきではという声をまとめ

当主の龍也たつなり上申じょうしんする者まで現れる始末となっていた。


そんな折、空井龍高そらいたつたか、龍安兄弟は龍高の許嫁いいなずけ村井志津むらいしづを伴い

矢礼家を訪ねて、朱音と共に四人での戦勝の慰労会いろうかいと称しての

作戦会議を行っていた。


「龍安、そなたと朱音殿との仲を引き裂こうとする者たちが

我が家中かちゅうには数多あまたおるように聞き及んでおるぞ」


龍高がニヤケながら空井家の内情を伝えて龍安をからかっている。


「龍安様はおモテになられますゆえ、女中たちからの人気もたこうございます

きっとその者たちの声が後押ししているに相違そういございませぬわ」


龍高の言葉に乗りかかるような言葉を村井志津も浴びせてくる。


「さ、左様なことはござらん、それがしと朱音殿が今日まで深めてきた絆

何人なんびと邪魔建じゃまだてがあろうとも、決して崩れたりするものではありませぬ」


龍安は朱音の顔をちらちらとうかがいながら、不安げに応えていた。


「今回の龍安様のご活躍、今や天下に鳴り響いておられます

気をかれる女子おなごが数多現れるのも仕方のないことにございますわ」


朱音は龍安に微笑みかけながらかばう言葉を優しくかけてあげた。


「ふむ、しかしこのまま家中に不満の声があるまま祝言しゅうげんを挙げるのも

何か禍根かこんを残すようで不安に思うところでもある

何か良い手はないものかのう」


龍高は口に手を当て深く考え込んでいる様子だったが

そのうちに何かをひらめいたようで、その考えを三人に話すと


三人は共にそれは良い考えだと喜び合い

特に村井志津の顔はほころび、頬を赤く染めて喜んでいた。




数日後、龍高、龍安の兄弟は父龍也のもとにやってきて

龍安と朱音の婚礼の件に関して、家中の不満の声に対処するべく

自分達の考えを聞き入れてもらいたいと申し出てきた。


まず龍高がその口火を切った。


「父上、今回の龍安と朱音殿との婚礼の件で

家中に不満の声が膨らみつつあると聞き及んでおります

その声を解消すべく、この度、それがし龍高とかねてより

許嫁の関係にある村井志津との婚礼を同時に執り行い

空井家を挙げての祝言としたいのでありますが

いかがにございましょうや?」


「なるほど、考えたのう龍高、さすが当家の嫡男じゃ

ここ最近のそなたらの活躍で空井家はかつてない活気に満ちておる

空井家挙げての祝言となれば、龍安と朱音殿との婚姻に

反対する者の声も霧散むさんするであろう

龍安の矢礼家への婿入むこいりは既定路線きていろせんじゃ、これを崩すわけには参らん

龍安も同様の考えでおるのだな?」


龍也は龍安の顔を見て問いただした。


「は、この龍安が矢礼家に婿入りすることで

空井家の繁栄に繋がるのであればこの上もないこと

兄龍高と共に両家の繁栄のために励んで参りまする」


かくして、龍安と朱音の婚礼は龍高と志津の二人も併せて

同時に盛大に行われることとなった。

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