第12話 成敗

虎吉とらきちはあらゆる角度から得意の剣技を駆使してりつけるのだが

オロチの胴はヌメヌメとした油のような液体がみ出していて

刀の刃は上滑うわすべりりするだけで、傷をつけることすらままならない

それどころか虎吉に食いかかろうとするオロチの攻撃をかわすことで精一杯だ。


ねず美も後方から手裏剣や苦無クナイを投げて援護するのだが、まったく歯が立たない。


空井龍高そらいたつたかは弓がないかと部屋の中を見渡すと家老の渡鶏知光明どけちみつあきそばの壁に

弓が飾ってあるのを見つけると渡鶏知に向かって


「渡鶏知殿、その弓をこちらへ投げてくだされ」


そう言うと、渡鶏知は壁から弓と矢を取り外し龍高に向かって投げ渡した。


龍高は弓矢を受け取ると素早く弓を引き、狙いを付けて矢を放つと

オロチの片目に見事に命中した。


オロチはもがいているようだが致命傷には至っていないようだ。

虎吉は今が好機と再びオロチに斬りつけるのだが、やはり歯が立たない。


その時、真芝ましばが自分の刀を虎吉に向かって投げ与えた。


「虎吉、それは我が殿から拝領はいりょうした名刀『鬼斬おにぎり』じゃ!」


虎吉はその刀に飛び付くと素早く抜刀ばっとうしオロチの脳天に斬りつけた。


「カランコロ~ン」


刀のさやが床に落ちる音が響くのと同時に虎吉が振り下ろした刀身とうしん

オロチの身体を縦に真っ二つに斬り裂いた。


「ドスン、ドスン」


オロチの身体は音をたてて左右に崩れ落ちた。



真芝たち一行は混乱の収まらない天田あまたの城を後にして帰路に就いた。


真芝はこの信じられないような出来事を主君しゅくん野田信仲のだのぶなかに報告するための

証人として空井龍高と虎吉に同行を求め帰還することとした。


野田信仲の居城きょじょう辿たどり着いた三人は早速信仲に謁見えっけん

真芝は天田の城での出来事の一部始終を報告した。


「なんとっ!あの天田がまことのオロチであったと申すか!?」


信仲は驚きの表情で真芝の話に聞き入り、そして


「その様子では、天田家はいくさどころではあるまいのぅ」


ニヤリと笑いながら、そうつぶやいた。


さらに真芝がオロチを斬った時の様子を伝えながら

自身が信仲から拝領した名刀『鬼斬』を差し出すと

信仲は『鬼斬』を手に取り、鞘から刀身を抜き出した。


「これでオロチを斬り捨てたと申すか・・・

見よ、まだオロチの血とあぶらあとが残っておるわ

しかし見事なものよ、刃毀はこぼれ一つ無いではないか

ふむ、いにしえより刀は人を選ぶものと言われておるゆえのぅ・・・」


そう言いよどむと、信仲は真芝をにらみ付け


「サルよ、この刀はそなたから召し上げることとする

これはまさにオロチを斬った剣の達人こそが持つべき業物わざもの

虎吉と申したな、今日からこの刀はそなたのものじゃ」


そう言うと、信仲は虎吉を近くに呼び寄せ、刀身を鞘に収めると

虎吉にオロチ成敗せいばい褒美ほうびとして『鬼斬』を与えた。


虎吉がうやうやしく刀を拝領する様子を横から見ている真芝に信仲は


「サルよ、心配するでない、そなたにはまた別の褒美を用意する故」


そう言って、不安げな表情の真芝をなだめるのだった。


「ははっ、このサルめ、親方様のおおせとあらば何の異議もございませぬ」


そう言って、真芝は深々と頭を下げた。


真芝は足軽の頃より、その風貌から『サル』と信仲には呼ばれ続けている。


さらに信仲は後方に控える空井龍高を見据みすえて


「そなたが空井家の嫡男龍高か、見事な采配であったようじゃの

弓の達人とも聞き及んでおる、これからは戦の折には

必ず我が陣に参陣せよ、そなたのような家来がおれば心強い」


信仲は龍高にそう命を下した。


「ははぁっ、この空井龍高、身命を賭して野田様にお仕え致しまする!」


龍高が深々と頭を下げ最敬礼をすると信仲はさらに言葉をかけた。


「あぁ、それからそなたにはモノノケ風情ふぜい家来衆けらいしゅうがおるようじゃの

一度その者たちにも会うてみたい、近いうちに連れて参れ」


野田信仲は変わった人や珍しい物にはすぐに興味を惹かれる性格らしく

朱音あかねの家来衆にも興味を持ったようで、龍高は近々の目通りを約束すると

信仲の居城を後にして帰路に就いた。

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