第9話 七瀬澪と天道星奈
転生。フィクションとかでよくあるアレである。
元々あった人物に憑依するもの。
文字通り転生するもの。
文字通り転生するけど後で思い出すもの。
だいたいこれに別れる。
私は……。
「そうだよ。僕が
静かに流れる時間。
ししおどしの音色がゆっくりと時を刻む。
和式の個室にテーブルを挟んだ対面側に彼女――
僕は答えた。彼女の質問に。疑問に。
正直、そう言われるとは思ってなかったので少し驚いたけど、どこか安心した自分がいる。
(この人なら話してもいい)
そう、思えるくらいに。
私は彼女を信じている。
彼女の表情は驚愕、納得、そして……。
「そうですか。なら、尚更、あの子……
そう、助ける必要はない。
あの時で終わりで、後は無干渉でいればいい。
今の私は、そうする必要ないのだから。
「それに、あなたはお人好し過ぎます。
最初は強く張ってた声も、だんだんと弱くなっていく。
わかってる。そんな必要ないって。
今の私は、
前の僕……相原健じゃない。
そう悩んでいると、席をたった星奈が、私とところにやって来て、そして、ゆっくりと抱きついた。
「ごめんなさい。私、調べましたわ。
「うん」
「あなたは相変わらずのお人好しで、ことある事に首突っ込んで――」
「うん」
「そして、なんだかんだで解決していく――」
「うん……」
「それは今も変わらずに、わたくしも助けて頂きましたわ。感謝してもしきれません」
「うん」
私に抱きついた星奈の力が強くなる。
逃がさないように。
離さないように。
「だから不安なんです。また人を助けて、悪意ある人たちに傷つけられて、また亡くなってしまうじゃないかって……」
「……、うん……」
「必要ないじゃありませんか。今のあなたは七瀬澪で、相原健じゃないです。少女を救った若き英雄じゃないです。私の、ただ……ただ……、大切な……、親友なんです……。だから……」
頭を撫で、背中をさする。
今にも泣きそうな……、泣いてしまった彼女を、僕はゆっくり受け止める。
いつもしっかりしてて忘れてたが、星奈も年相応の少女なのだから……。
きっと、亡くなったおじいちゃんを思い出してしまったのだろう。
私が相原健としての記憶を思い出したのは、フラッシュバックのような明確なものじゃなくて。
デジャブのようなじんわりとしたもの。
だから私は相原健で、僕は七瀬澪なんだ。
そこに明確な違いはない……。
ないからこそ、私は、僕は、決めなきゃいけない。
「私は……。私は……あなたのことを……」
「ねえ、星奈」
「なんですか……。澪ぉ……」
「私のこと、好き?」
自分でも狡い質問だとわかってる。
ここで彼女に従って、これ以上干渉しない選択もあった。
それでも僕は……。
「狡い……。狡いですよ……。そんなこと言ったら、私は何も出来ないじゃありませんか……」
「ごめんね。こんな私で。でも、それが私。七瀬澪だから」
「でも……」
「僕は七瀬澪として15年間生きてきた。でもそれは、相原健としてじゃない。私は私として、人助けをしたつもりだよ」
「それは……」
「それとも、こんな私は嫌い?」
「っ……」
私の小さな両手が星奈を顔を包み込む。
しっかりと見るために。
どんな事でも受け止めるために。
泣きながらも笑顔でいようしている。
今、どんな感情や葛藤が渦巻いているか分からない。
でも僕は、私は、星奈を信じている。
「嫌いなわけ……、ないじゃないですか。そんなあなたが大好きなのですから」
「分かりました。もう泣くのはこれまでです。わたくし、天道星奈は澪様のことが、大大大好きな愉快なお嬢様ですわ」
「ありがとう。星奈」
だから前に進める。
過ぎたことはもう何もできないけれど、これからの、今と未来は変えられる。
そう、これは相原健としてではなく、七瀬澪として。
だって私は七瀬澪、なのだから。
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