strengiviner《爆脚》
華や式人
第1話 異邦の地、来襲した異世界
この世界には人類の結束が必要なほど強大な「敵」が必要だ。
誰かがこういうと、他の誰かはこう返す。
そういう敵に対する「英雄」を、我らは欲する。
だけどその会話を大勢が嘲る。そんなもの存在しない、いるわけがない。あるいは英雄とは後世の人間が作り出した歴史上の人間、その虚像だと。
では……果たして今は、この時代は。世界が結託するほど強烈な敵を得たのだろうか?喉から手が出るほど強い英雄を人々は目にしたのだろうか?
世界を相手取る敵に関しては異世界より来襲したということだけ、誰もが実感しうる事実だ、と。
二〇mmチェーンガンが砲火を上げて目前の「敵」に弾頭を叩き込む。人体を一瞬で霧散させうる威力を持つの弾丸はしかし、一匹のゴブリンすら倒すことはできない。
「Shit! Gunner, We have to protect their citizens! fire at will!!」
「Already Know that! Retreat G company! Goblins are right before my camera!」
どこかの国、どこかの遠征軍。見たこともない緑色の小鬼が異国の村々を焼き払っていると通報を受け出動した機甲部隊。しかし、歩兵の火力どころか頼みのチェーンガンすら小鬼一匹すら貫徹しえない。後退に後退を重ね、ついには避難が完了していない村の入り口まで退却せざるを得なかった。
すでに数台がゴブリンの群れに覆われ、100メートル前方で擱座している。乗務員たちは槍で体を穿たれ、車両の横に打ち捨てられていた。装甲車の銃手からも見えていたその光景が、この「戦闘」が「敗戦」に近いことを物語っている。
異様な緊張感の中、小鬼程度消し飛ばす威力があるはずの豆鉄砲を連発する装甲車。だがついにはチェーンガンの駆動装置が虚しく空転し、弾薬が切れたことを車内に知らせた。
「shit……my god. We have no hope ……」
ついに隊長車の装甲にゴブリンが取りついた。ハッチがこじ開けられ、ケタケタと薄気味悪いゴブリンたちの笑みが聞こえる。ああ、終わった。全員が十字を切り神に最後の贖罪を唱え始めた。
だが、英雄とは常々遅れてやってくるものだ。──それが課外学業ならばもはや致し方ないというもの。
「ごめーん、遅れた!」
社内の隊員たちに何語か分からない言葉が響く。直後──爆風が吹いた。
ハッチの上で槍を構えていたゴブリンたちが一斉に薙ぎ払われる。そしてハッチに顔を出したのは、東洋人然とした美貌を持つ一人の少女。
えてしてそれは日本語で「ギャル」と呼ばれる存在。それが分かったのは社内の隊員のごく一部だろう。全員が理解したのは、彼女のローファーから滴る血液がゴブリンのそれだということ。緑色の湿った血液を厭わず洗わず、にこりと微笑んだギャルが、すぐさま真剣な表情で前を向いた。
「ごめんね。ご遺体だけでも、家族のもとに帰さなきゃ」
「wa,wait. Are you Seriously fight goblin's army at……ar…… only yours legs?」
「え、なんて?ごめん、ちょうど今日英語の課外だったんだ。まだわからないから、もう一度先生に聞いてみるね」
言い残すのが早いか、装甲車から飛び降りるのが早いか。装甲を蹴ってゴブリンが大挙する地面へと飛び降りた彼女は、己の健脚を踵落としで地面にたたきつけた。
──それを、ただ単に「叩きつけた」と言っていいのか、目撃した隊員たちは判断しかねた。なぜなら彼女の踵落としが一瞬でアスファルトを砕き、散弾のごとき礫をゴブリンたちに浴びせたのだから。
二〇mmチェーンガンですら傷つかなかった緑色の小鬼たちが、まるで紙切れのようにズタボロになっていく。 そのままギャルは地面を疾駆して次々にゴブリンたちを蹴り殺していった。彼女一人で、数千いたゴブリンたちが二分後には千に、十分後には二百へと減り、たまらず退却し始めたゴブリンたちは、ついぞ隊員たちの前に姿を現さなかった。──戻ってきたのは、一振りの杖を掲げた血まみれのギャル。緑色の血を滴らせて、亡き隊員たちの骸へと歩み寄る。
彼女の行動に気が付いた隊員たちも慌てて車外へ降りた。脅威はもう存在しない、IRカメラからもそれは明らか。ギャルに駆け寄った隊員たちは静かに頭を垂れ、死者への哀悼を手向ける彼女に手を差し伸べた。
「ああ、ありがと。でもごめんね、私のことは内緒にしておいて?」
「Are you Japanese?Why did you come from this country……?」
「あ、それ空港でよく聞くやつ~。えーとね、サイトシーイング?」
嘘つけ。曖昧な発音で返された「観光」の言葉に呆れた隊員たちはしかし、彼女が普通の存在ではないことをしっかりと認識していた。
「en……domo arigato」
「ん?ああ、どうもありがとうね。いいって、そんなこと。んじゃ私帰るから、元気で暮らしてね。あと、亡くなった隊員たちの事、よろしくね」
それだけ言い残して、彼女はゆっくりとゴブリンたちが消えた方向へ走っていった。最初はジョグ程度の速度で、最終的にはスーパーカーもかくやな速度で、隊員たちの前から消え失せる。
隊員たちは帰還した基地で聞かされた。
ちょうどこの街に、日本人の修学旅行生たちが来ていた事。そして──問題児が一人、課外授業中に突然どこかへ失踪、捜索依頼がつい先ほどまで出されていた事。
その問題児は女生徒であり、派手な頭髪と見た目をしていた──ギャルだということ。
その問題児はつい先ほど迷子先から生徒たちのところに戻り、先生にしこたま怒られたそうだ、ということ。
隊員たちは察した。彼女こそ、我らが欲すべき英雄なのだと。
当然ながら隊員たちは軍務規定により、何があったかの報告を纏め、その中にあり得ない脚力を持つ女子高生の話も書いた。最初は馬鹿にされるか精神鑑定を受けさせられるかと覚悟していた隊員たちだったが。
報告書は最終的に大統領が目を通す事態にまでなり。
そして──数週間後には、隊員たちが目の当たりにした光景が日常となった。世界が化け物たちであふれ、使命感に溢れた若者たちが一斉に超常的な力で立ち向かう。
誰が言ったか、超常を持つ若者たちを「
世界に英雄がいなくとも、かくて世界に抗う敵はできた。
世界の命運は、年若き若者たちに頼らざるを得ない不安定な綱の上に立たされることになる。
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