モブの俺、居眠りしてたら図書委員を押し付けられた~S級美少女の先輩が友達になったそして俺の家に入り浸るんだが~少しベタベタしすぎなんじゃ……
🔥SOU🍨🔥12月15日より新作投稿開始
第1話 図書委員と先輩
こっくり、こっくり。
授業中に船を漕ぐその状態は、不安定に揺れていた。
春の日差しが、教室をじんわりと温める。
午後のぬるい空気に睡魔が加速し、頭の中はとっくのとうに夢の国。
牧歌的な原風景。
風が草を揺らす音、鳥のさえずりが心地いい。
このまま昼寝でもしたら、さぞ気持ちいいだろう。
そんなことを考えていたのがいけなかったのか。
俺の意識は突然、現実へと引き戻される。
「野口、起きろ」
ぼんやりとした視界に、担任の顔が映る。
そういや今、金曜六限目だったか。
担任は俺の前に仁王立ち。
机の上に突っ伏していた上半身を起こすと、口元にはよだれの跡があった。
俺は慌ててそれを制服の袖で拭う。
……あ、やべ。
「図書委員、お前でいいな」
「は、はい」
眠気まなこで反射的に返事をしてしまった。
俺が返事をした途端、担任は満足そうに微笑む。
「うん。返事もいい。じゃあ決まりだな」
そう言うと黒板に図書委員 野口勇気と推定クラス委員が記す。
「えっ、ちょっと待っ」
しまった。
「はい」は肯定の意、つまり了承のサインである。
俺は去年の苦い記憶を思い出す。図書委員になったはいいが、仕事が面倒すぎて、ほぼ幽霊委員だった。
結果、委員長の女子にすべての仕事を押し付け、見事に避けられるようになった。
その女子とはそれ以来、口もきいてない。
ホントに御免! まさに黒歴史というやつだ。
「おい、野口。まさかとは思うが、去年の二の舞は勘弁してくれよな」
「うっ……」
担任の言葉が、俺の胸に突き刺さる。
(止めてくれ先生、その言葉は俺に効く)
去年の娘からクレームがあったんだろう。
どうせ俺なんて、居眠りひとつで面倒事を押し付けられるような、モブキャラなんだ。そう、この教室という名の壮大なロールプレイングゲームにおいて、俺はただの村人Aだ。そんな村人Aに、何かを期待されても困る。
「先生、俺、図書委員をやりますなんて言ってないですよ」
「何を言ってるんだ。今、お前がやりますって言っただろう」
「……」
嘘だろ。俺そんなこと言ったか? …………いや言った。言ってしまった。
俺は、自分のうっかりな行動に、心の中で頭を抱える。
「じゃあ、この後、図書室に行ってくれ。委員長と副委員長が待ってるはずだから」
「は、はい……」
俺は力なく返事をする。
担任は満足そうに微笑むと、俺の頭をぽんと叩いて去っていった。
残された俺は、頭を抱えたまま机に突っ伏す。
「野口お前またやったのか」
隣の席に座る親友、松井裕也が陽キャ特有のなんの悪気もない笑顔を浮かべポンと俺の肩を叩く。
「……なんで俺、毎年毎年こんな面倒くさいことに巻き込まれるんだ」
「そりゃお前がいつも居眠りしてるからだろ」
「うっ……」
松井の言葉に、俺は返す言葉もなかった。
「ま、ドンマイ」
「いやドンマイじゃねぇよ」
俺は松井の頭をぽんと叩く。
いつも明るいこいつの言葉に、少しだけ気が楽になる。
俺が図書委員になったことなんて、どうでもいいことなんだろう。
世の中には、もっと大変なことが山ほどある。
俺はそんなことを考えて、もう一度ため息をついた。
「じゃ、オレ、バイトあるから」
「おう、頑張れよ」
松井は俺に軽く手を振ると教室を出ていった。
残された俺は一人、教室でため息をつく。
俺はもう一度、頭を抱える。
――いや考えても仕方ない。
どうせやるなら、さっさと終わらせよう。
俺はそう心に決め重い腰を上げた。
図書室に向かうべく、廊下を歩く。
放課後の廊下は、人影もまばらだ。
ふと、ポケットに手を突っ込むと財布がないことに気づく。
……マジか。
俺は来た道を戻る。
すると教室の前に一人の女子生徒が立っていた。
彼女は俺の財布を手に持っていた。
その女子生徒を見て俺は思わず息をのむ。
透き通るような白い肌。
風になびく黒髪。
まるでどこかの映画に出てくる女優みたいだ。
彼女は石川唯。
三年生で学校一の美少女。
そして噂では近寄りがたい完璧な美しさを持っているらしい。
俺みたいな凡人が話しかけるなんて、おこがましい。
彼女の前を通り過ぎようとする。
その時だった。
「野口くん?」
彼女が俺の制服の裾をくいっと引っ張る。
思わず立ち止まる。
振り返ると、彼女が、俺の財布を差し出していた。
「これ、落としましたよ」
「あ、ありがとうございます……」
俺は彼女から財布を受け取る。
彼女はにこっと微笑む。
「いえいえ。どういたしまして」
「あの、石川先輩……」
「そういうのは、苦手でね。野口くんも、私を呼び捨てでいいよ」
「え、でも先輩に呼び捨てなんて……」
俺は戸惑う。
先輩に敬語を使わないなんて俺にはできない。
「野口くんは私に敬意を払うほどの義理もないだろうし、私もそういうのは気にするタイプじゃないから」
「……」
石川先輩は少し困ったように微笑む。
その表情は噂とはかけ離れていた。
完璧な美しさの中にどこか人間らしい側面が垣間見える。
俺は少しだけ彼女に親近感を覚えた。
……いや、待て。ここで安易に親近感を抱いてはならない。美少女には裏がある。これはライトノベルにおける鉄則だ。
「石川さんって、どうして俺の名前を……?」
「ええ、さっき松井くんからね。野口くん、少し頼りないって」
松井かよ。あいつ、どこまでお節介なんだ。
俺は、心の中で松井に文句を言う。
しかし、同時に「頼りない」と言われたことに、少しだけ傷つく俺がいた。いや、別にいいんだけどさ。頼りがいのある男になんてなりたくないし。
「石川さん、何か用事でもあったんですか?」
「ええ。ちょっと調べたいことがあって、でも図書館の場所が分からなくて」
意外だった。
あんなに完璧な美少女が、図書館に用事なんてあるのか。
まるで、漫画の中の世界みたいだ。
いや、待てよ。このシチュエーション、なんか既視感がある。
「あ、そうなんですね」
俺は、少しだけ、彼女に興味を持つ。
彼女が、何を調べたいのか。
彼女に尋ねてみようか、と考える。
その時だった。
「……よかったら、図書館まで連れていってくれる?」
彼女が、俺にそう尋ねてきた。
俺は、思わず目を丸くする。
まさか、あの石川唯が、俺に頼み事をするなんて。
これも、松井のせいか?
これは、あれか?よくある、主人公がヒロインに頼み事をされて、なんだかんだあって仲良くなるという、あのテンプレ展開か?
いや、俺にはそんなことありえない。きっと、何か裏があるに違いない。
俺は、彼女の言葉に、少しだけ心臓が高鳴る。
「はい、もちろんです」
彼女にそう返事をした。
彼女は、にこっと微笑む。
その笑顔は、とても眩しかった。
俺は図書館に向かって歩き出した。
彼女の横顔をちらりと見ると、そこには、どこか儚げな美しさがあった。
俺は、この出会いが、俺の人生を変えることになるなんて、知る由もなかった。
だが、この時、俺の胸の中には、不思議な予感が芽生え始めていた。
──これは、ひょっとして、青春の始まりだろうか? いや、まさか。そんな都合のいい話があるわけない。
俺は、そう心の中で毒づきながら、俺は一人、苦笑いを浮かべるのだった。
◇
図書室に向かう廊下を歩く。隣には、昨日財布を拾ってくれた石川唯がいた。
道中、すれ違う生徒たちの視線が、石川先輩と歩く俺に突き刺さる。
この状況は、端的に言って地獄である。
視線はまるで石打ちのようだ。俺に向けられたものは「なぜお前が石川先輩と?」という憎悪。石川先輩に向けられたものは「石川先輩が、あんな奴と……」という嘆き。
これがSNS上ならば、文字として可視化できただろうに……。
まるで市中引き回しの公開処刑だ。
この罪なきモブを晒し者にすることに、一体どんな意味があるというのか? もしかしたら、これは「リア充」という名の罪を犯した者への見せしめなのかもしれない。
「いや、俺はリア充じゃない。ただの偶然、いや、不幸な事故に巻き込まれた被害者だ!」と自己弁護したいところだが、どっちにしろ、俺に良いことは何一つない。
この状況をどう説明すればいいのか。責任の一端である石川先輩の美しさを恨んだ。
「――野口くん、どうかした?」
「いえ、なんでもないです」
石川先輩は、不思議そうに首を傾げて見せる。
その仕草すら、漫画の一コマみたいに絵になる。
その視線に耐えきれず、愛想笑いを浮かべると足元に目を落とした。
図書室にたどり着くと、すでに他の図書委員たちが集まっていた。
ざっと見渡すに、真面目そうな男女が三人。眼鏡をかけた、いかにも図書委員らしい男子。少し内気そうな女子。そして、俺と石川先輩。
……どう見ても、俺と石川先輩だけ浮いてる。
いや、石川先輩は完璧に溶け込んでいる。彼女は、この空間の主役であり、俺はただの背景。浮いているのは、俺一人だ。
担当教師に促され、当番を決めるくじ引きが始まる。
俺は、無造作に引いたくじを広げる。そこには「月曜日」と書かれていた。
次に、石川先輩がくじを引く。
彼女は、俺のくじをちらりと見てから、自分のくじに再び視線を落とした。
「……私も、月曜日だわ」
石川先輩が、俺と同じくじを広げると、周囲からヒソヒソと声が聞こえてくる。
「嘘だろ、マジかよ」
「野口、お前、すげぇな……」
「くっ……くじ運だけは、いいのか」
……ちくしょう。やめてくれ。
俺のくじ運がどうこうじゃない。これは、運命のいたずらだ。いや、神様からの試練か。
神様は、俺に「リア充」という名の罰を与えようとしているに違いない。
「偶然だね」
「ですね……あははは……」
石川先輩は、俺に微笑みかける。
俺は、曖昧な返事を返すことしかできなかった。
その言葉は、まるで「これで、あなたも私の舞台に上がるのよ」と言われているようだった。
◇
週明けの月曜日。
俺は、図書室のカウンターで、石川先輩と二人きりだった。
カウンターで、利用者を待つ。しかし利用者はそう多くない。
理由としては、空いている時間が昼休みと、放課後だけであることに加え、図書室で本を借りる物好きが我が高校では絶滅危惧であることが挙げられる。
階下の吹奏楽部の演奏をBGMに雑談を続ける。
きっと甲子園に向けての練習だろう。
「野口くんは、部活とか、バイトとかしてるの?」
「いえ、何もしてないです。帰宅部です」
石川先輩の問いに正直に答える。
無駄な努力をしない主義だ。
将来も在宅でできる楽な仕事がしたいと思っている。
「そう。私も部活もバイトもしてないわ」
「えっ、そうなんですか?」
意外だ。
石川先輩みたいな完璧な美少女なら、部活の勧誘も多いだろうに……二年間で何があったんだろう。
「ええ。それに、図書委員の仕事は、きちんとやるから。安心して」
「あ、はい……」
去年の苦い経験が、俺の脳裏をよぎる。
相方に仕事を押し付けてしまった。
何だか釘を刺されたみたいと感じるのは、気のせいだろうか?
「野口くん」
「はい」
「そういうのは、苦手でね。野口くんも、私を呼び捨てでいいよ」
「えっ、でも先輩に呼び捨てなんて……」
戸惑を隠せずにいた。
学園カーストトップの石川先輩を呼び捨てにするなんて、そんな俺の平穏な人生のルート分岐を担う選択をしたくない。
「野口くんは私に敬意を払うほどの義理もないだろうし、私もそういうのは気にするタイプじゃないから」
「……」
石川先輩は、俺の返事を待っている。
俺は、どうすればいいのか分からない。
「……じゃあ間を取って唯さんで……」
「いいわ。私は、勇気って呼んでいい?」
「え、はい」
俺は、なぜか「はい」と答えてしまった。
俺の呼び方は、今まで「野口」だったはずなのに。
「ふふ、野口くん……じゃなくて、勇気。なんだか、初めて友達っぽいことができたから」
石川先輩は、そう言って、少しだけはにかむ。
その表情は、どこか寂しそうだった。
……いや、待て。美少女が寂しそうな顔をするのは、ずるい。ずるすぎる。
まるで、「私を助けて」とでも言われているみたいじゃないか。
そんな石川先輩の横顔を見て、少しだけ胸が痛む。
このまま、彼女を放っておいていいのか?
このまま、俺の怠惰な性格に従って、彼女と距離を置くべきなのか?
いや、違う。
俺は、彼女に手を差し伸べるべきだ。
ライトノベルの勇者だってそうしてただろう。
そう、俺の心の中の、ほんの少しの優しさと好奇心、そして下心がそう言っていた。
「……唯さん。俺と、友達になりませんか?」
俺は、石川先輩の目をまっすぐに見つめて、そう尋ねる。
石川先輩は、一瞬、目を丸くする。
「……ええ、もちろんよ。勇気」
彼女は、俺に微笑みかける。
その笑顔は、とても眩しかった。
「ありがとう。勇気」
「いえ、どういたしまして」
俺は、少しだけ照れる。
友達になった途端、緊張の糸が切れたのか、俺は眠気に襲われる。
俺は、いつの間にか、カウンターで眠ってしまっていた。
どれくらい時間が経っただろう。
俺は、ふと目を覚ます。
目の前には、俺の頭を撫でる、石川先輩の手があった。
「あ、すみません……」
「いいのよ。疲れてたんでしょ」
石川先輩は、微笑みかける。
俺の代わりに、石川先輩が、すべての仕事を終わらせてくれていた。
俺は、彼女の優しさに、少しだけ胸が温かくなると同時に申し訳なくなる。
俺たちは、最終下校時刻を過ぎてしまった。
俺は、石川先輩の家まで、送っていくことにする。
「送ってくれて、ありがとう。勇気」
「いえ、どういたしまして」
夜の帰り道は、静かだった。
俺たちは、特に会話もなく、ただ並んで歩く。
「……勇気、私、少し人付き合いが苦手なの」
「あ、そうなんですね」
俺は、彼女の言葉に、少しだけ戸惑う。
彼女が人付き合いが苦手だなんて、想像もつかなかった。
「だから、勇気が、私に気を使ってくれたのは、すごく嬉しかった」
「……」
俺は、自分の考えを見透かされているような気がして、少しだけ恥ずかしくなる。
俺は、ただ、彼女を助けたかっただけだ。
「でも、友達は、一方通行なものじゃないわ。会うのに時間を使うのは、もったいないことじゃない」
唯さんは、俺の顔をじっと見つめて、そう言う。
その言葉は、俺の胸に、深く突き刺さる。
彼女の言葉に、何も言い返せなかった。
彼女の言葉を、噛み締める。
自分の考えを改めさせられた。
「着いたわ。ここが、私の家」
立派な戸建がそこにあった。
石川先輩は、俺に微笑みかける。
彼女に「じゃあ、また明日」と告げようとする。
その時だった。
「……どうぞ、入って」
彼女が、俺にそう告げる。
思わず目を丸くする。
入って?
え、マジかよ。
俺は、予想外の展開に、頭の中が真っ白になる。
これって、まさか……。
唯さんの顔を、じっと見つめる。
彼女の顔は、少しだけ赤くなっていた。
俺の心臓は、ドクドクと音を立てる。
これは、きっと、青春の始まりだ。いや、待て。これは青春という名の毒だ。
俺は、そう思い、石川先輩の言葉を、もう一度、噛み締める。
『──どうぞ、入って』
俺は一体……どうなるんだ?
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
明日からは朝07時18分に投稿します。
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