4章 増える本、消えた脅迫状

第14話 不審者はキラキラアイドル?

 夏休みも近くてソワソワし始めた七月の下旬。

「え……」

 放課後、学校の裏門にマスクとサングラスだなんていかにも怪しい不審者がいて、あたしと明くんは思わず立ち止まった。

 あたしたちに気づいた不審者はおどろいたように一瞬固まって。

「騒ぐな!」

 あたしたちに襲いかかってくる――⁉

 だけど。

 伸ばされた手を明くんがつかんで、くるりと体をひねったかと思えば。

 ぶわりと不審者の体が浮いて、次の瞬間その体は地面とこんにちはしていた。

「うわあ!」

 悲鳴を上げて崩れ落ちる不審者。

 サングラスが外れて露わになった顔は、あれ、どこか見たことのあるような……。

「あ、アイドルの、品山カエデ……⁉」


☆  ☆  ☆


 時間は少しさかのぼる。

 放課後、あたしのクラスではアイドルの品山しなやまカエデが写真集を出したという話で持ちきりだった。

「もう見た? 見たっ?」

「見た~! 笑顔やばいよね、かっこいい~!」

「あたしあの表紙めちゃくちゃ好き!」

 女子たちは大盛り上がりだけど……あたしはあんまり興味が持てないんだよなあ。

 かっこいいとは思うけど、テレビの向こうの人というか……自分に関係あると思えないのもあって、夢中になりきれないというか。

 だからって人が夢中になっているものを否定する気もないし、邪魔はしない。

 もう帰ろうかなと席を立つ。

 そこでふと、別の子が話している声が聞こえてきた。

「ねえ、知ってる? 最近、図書室の本が勝手に増えるんだって」

 ……ん?

「新しく仕入れたんじゃなくて?」

「ちがうんだよー。先生も知らないうちに勝手に増えてるっぽいの」

 勝手に増える図書室の本……?

 アイドルよりがぜん気になって、あたしの足は自然とそっちに向いていた。



 図書室に入ると、紙とインクの、どこか落ち着くにおいがした。

 あたしはキョロリと見回してみる。

 たくさんの本があるけど……見ただけじゃ、増えたかどうかわからないな……。

 あたしはカウンターに座っている女の子に目を向けた。

 メガネをかけたその子は目立つ感じじゃなくて、あたしの取材メモにも記録がない。

 でも図書委員の名札がついてるし、聞いてみれば何かわかるかも。

 名札は……えーと、「月見里紅葉」……つきみさともみじちゃん……かな?

 キレイな名前だなぁ。

「すいません。図書室の本が増えてるってほんとですか?」

「はあ?」

 女の子――紅葉ちゃんは怪訝そうな顔で思い切り眉を寄せてあたしの顔を見てきた。

 ち、ちょっと聞いただけなのにそんな怖い顔しなくても。

 メガネがギラリと反射して、なんか怖い! 大人しい子かと思ったのに!

「何なの、いきなり」

「そういうウワサを聞いて……」

「――すまない。それは僕だね」

「ひょあ⁉」

 急に背後から声を掛けられて飛び上がる。

 振り返ると、そこには本を抱えた――あ、ああ明くん!

 こないだの水たまりのときといい、明くんってば神出鬼没すぎる!

 あたしと一緒におどろいたようで目を丸くしていた紅葉ちゃんは、ハッと我に返って「どういうことですか?」と聞いた。

 明くんは本をカウンターに置いて、うん、とうなずく。

「僕の家にある本を持ってきたんだ。どれも素晴らしい本だからみんなにも読んでほしくて……あと家の本棚がもういっぱいで……木を隠すには森の中と言うだろ?」

 答えながら、明くんは珍しく弱り切ったような顔で眉を下げた。

 ……後者が本音じゃないかな。もしかして。明くん、ちゃっかりしてる。

 紅葉ちゃんはメガネをギラリと光らせて

「寄贈するならちゃんと手続きを踏んで」

 と明くんを叱った。うん。もっともすぎる。正論ってやつだ。

「もう。図書室の本には分類するためにシールも貼られてるんだから」

「……本当に申し訳ない」

 しゅん……と小さくなる明くん。

 何となく居たたまれなくて、あたしは笑って彼の背を叩いた。

「今度から気をつけよっ」

「そうだね。持ってきた本はちゃんと持ち帰るよ」

「シールが貼られてない本を抜き出せばいいんだよね? あたしも手伝うよ」

「舞さん……ありがとう。助かるよ」

「いえいえ。よーし、遅くなる前にやっちゃお!」

 あたしと明くんは、棚から順に、シールが貼られていない本を抜き出していった。

 紅葉ちゃんがチラチラとこちらを気にしていたようだけど、他の生徒が本を借りに来たからそっちの対応に追われてるみたい。

 そうして抜き出したのは……十二冊!

 ラインナップは小説だったり、詩集だったり、実用書だったり……本当に様々だ。

 明くん、そんなに持ち込むほど本を持ってたんだ……よっぽど読書が好きなんだね……。

 感心するやら呆れるやら、これ、どうやって持ち帰るんだろう。

「……おや」

 抜き出した本を並べていた明くんは、ふいに声を上げて首をかしげた。

「これは僕のじゃないね」

「え?」

 明くんが持っていたのは、一冊のミステリー小説みたいだった。

 子供向けなのか文字は比較的大きくて、あたしでも読みやすそう。

 あたしも手に取ってひっくり返したりしてみたけど、本のどこにもシールは貼られていない。

 でも明くんが持ってきたものじゃないということは……明くんの他にも、本を持ち込んだ人がいたってこと?

「……一部、文字が切り取られているね」

 パラパラとページをめくった明くんがつぶやく。

 たしかにカッターで切られたような痕がいくつもあった。

 誰かが、本の中身を一部切り取って、図書室に置いていった?

 ……一体どういうことなの?


 明くんメモ:

 明くんは神出鬼没で、本が好き。

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