届けたい音
文化祭が終わってから1ヶ月。
楓真は今まで以上にギターの練習をしていた。
どうしても、君に聞いて欲しい曲があったから。
それを、今日君に届けるよ。
静かな空き教室は莉々と楓真の他に誰もいない。
静寂だけが、2人を包み込んでいた。
窓の外では色づいた木が揺れている。
「……弾くよ」
最初の1音を奏でると、莉々が目を丸くした。
それもそうだろう、今までの演奏とは違う仕上がりなのだから。
この曲は世界にひとつだけの、莉々のためだけにあるものだ。
作詞・作曲を自分でするのは初めてだったけれど、自分の言葉を音に乗せるのは楽しかった。
(初めてだし上手くいかない部分もあったけど)
夢に1歩近づけたのは間違いないだろう。
最後の1音を奏で、ピックを下ろす。
莉々が嬉しそうに拍手していた。
「素敵な曲だね!オリジナルなんだっけ?」
「うん。どうだった?」
「すごくよかったよ。……ありがとう」
ギターをケースに入れて、莉々の隣に座る。
ケースの隣に置かれた楽譜を見ていた莉々が、楓真を見た。
「……皆、もうすぐ来るんだって」
「……うん。……ごめん、莉々。黙って転学を決めて」
「気にしてないよ。新しい夢のためでしょ?頑張って!応援してるよ!」
「ありがとう、莉々」
ガラッとドアが開く音に振り返ると桜雅や美涼、ゆいと壱馬、荒が教室に入ってくるところだった。
「お待たせ!」
「行こうか!」
「楓真くん、転入はいつなの?」
「来年の春頃ですね。ちょうど1つ下の代と同時入学なんです。その時期しか空いてなくて」
「結構長いんだね」
「冬休みは、遊べそうだね」
大学から出て、駅へと歩いていく。
駅に着いて、改札を通る。
「予約ってもうしてる?」
「うん」
「ありがとうございます。ここからどのくらいでしたっけ?」
「電車で30分くらいかな。駅からも近くて徒歩5分くらいだよ」
皆が話しているところから少し離れて、莉々と楓真は手を繋いでいた。
他の皆は気づいていないらしく、電車が来るまでの間、楽しそうに話していた。
「……ギター、前より上手くなったね」
「本当?」
「うん。楓真は2期が終わったら大学には来ないだっけ?」
「そうだな。転学手続きがあるから、書類を出したらもう来ないよ」
「そっか……。じゃあ、大学で会えなくなるんだね」
「きっと、そんなに変わらないよ」
「…………そうだといいんだけどな」
「2人とも早く!」
ゆいに呼ばれて、電車に乗り込む。
ー繋いだ手が熱かった。
「……莉々」
「ん?」
「2期の最終日、初めてあった場所に来てくれる?」
「わかった」
「そこで、伝えたいことがあるんだ」
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