第4話

「……ちょっと、どういうつもり?」


 生徒会室の扉を思いっきり開けたまま、朱莉が仁王立ちしていた。


 金髪ハーフアップが揺れて、スカートの裾がひらりと踊る。

 その目は、明らかに怒っていた。俺に、ではなく――


「宮園さん、ノックくらいしてくれるかしら」


 一之瀬は動じることなく、書類を整えながら言った。


「そんなことより! 澪ちゃん、今の……どういう意味? “理想の彼氏”って!」


「……そのままの意味よ。相原くんのことを、私は好意的に見てる。それが気に入らないの?」


「……気に入らないっていうかさ。私、今彼といい感じなんだけど?」


「“いい感じ”……それはあなたの主観でしょう?」


「ちっ……!」


 ギリ、と朱莉が奥歯を噛みしめたのが聞こえた。

 なんだこの空気……俺、ここにいていいのか?


「相原くん」


「は、はい」


 一之瀬が俺の方へ顔を向ける。いつもの冷静な顔に、ほんの少しの熱が混じっている。


「私は、彼を“役員候補”としてスカウトしているの。もちろん、個人的な興味もあって」


「わざわざ言わなくていいでしょ、それ……!」


「……でも、私の気持ちに嘘はないわ」


 一之瀬が、まっすぐに俺を見る。

 その視線には、ごまかしも迷いもなかった。


「私――相原くんの、そういう“自然体”なところに惹かれてるのよ」


「……っ!」


 朱莉が一歩前に出る。


「じゃあ、私も言う。

 私だって……相原くんのこと、気になってる。

 一緒に話してて、楽しいし。優しいし。

 いつの間にか……ほっとけなくなってたんだから!」


 生徒会室の中で、ギャルと生徒会長の視線が交錯する。


 それぞれの主張は、明確だった。

 しかも、俺という存在を巡って。


「……あの、ちょっと落ち着いて」


 ようやく声を出した俺に、二人同時に向けられる視線。


「「相原くんは、どっちがいいの?」」


 ……いや、急にそんなこと聞かれても困るんだが。


「どっちの方が、“理想の彼女”っぽい?」


「ねえ、私と澪ちゃん、どっちが気になる?」


「……俺は、まだ誰かをそういう目では……」


 言い切る前に、朱莉がにやっと笑った。


「……そっか。じゃあ、これから意識させてくしかないね♪」


「まったく。強引な子ね」


「言ったでしょ? 私は、気になったら一直線なんだよ」


 


 朱莉は俺の腕を軽く掴みながら、


「この戦い――負ける気、しないから」


 と、にやっと笑った。


 一之瀬も微かに眉を上げて、


「いいわ。正々堂々、勝負しましょう」


 と静かに宣言した。


 


 こうして俺は――

 ギャルと生徒会長の間に挟まれ、まさかの三角関係に突入したのだった。


 ……なんでこうなった。


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