第2話

 翌朝。いつも通りの時間に登校したはずなのに――


「おはよう、相原くん!」


 いきなり背後から声をかけられて、思わず足が止まった。


 振り返ると、そこには昨日と同じ笑顔のギャル――宮園朱莉がいた。


 金髪を揺らして、まるで当然のように隣に並んでくる。


「……おはよう」


 軽く会釈して、歩こうとしたら、


「ねえ、一緒に教室行こ?」と、腕を軽く引かれた。


 ぎょっとする俺を見て、朱莉はくすくすと笑う。


「そんな驚かなくても、別に食べたりしないって」


「……なんで、俺なんかと?」


「んー……ヒマだったから?」


 にっこりと微笑みながら、俺の歩幅に合わせて隣を歩く朱莉。


 ……これは、夢か何かじゃないだろうか。


 普段なら、こういう女子とは交わらない世界にいるはずの俺。

 それなのに――なぜか、隣で笑ってる。


 


 教室に入った瞬間、空気が変わったのがわかった。


「……あれ、朱莉と……?」


「相原くんと一緒に登校って、どういうこと?」


「てか、なんか今日も雰囲気変わってない?」


 席に着くまでの数メートルが、やけに長く感じられた。


 当然のように、朱莉は俺の隣の席に立つと――


「なあなあ、相原くんさぁ、昨日の夜なにしてた?」


「……夕飯作って、妹のプリント整理してた」


「うっわ、やっぱ神じゃん」


「……別に普通だけど」


「その“普通”がヤバいのよ!」


 はしゃぐ朱莉の声に、クラス中の視線がこちらに集まる。

 俺はどんどん小さくなりたくなった。


 だけど朱莉は、全く気にしていない。


 むしろ、わざとみんなに聞こえるように言ってるんじゃないかってくらい堂々としてる。


「さっきも下駄箱で、他のクラスの女子が“相原くん、どんな人なのかな?”って言ってたよ?」


「……なんでそんな話になるのか、分からない」


「そりゃあ、SNSであんだけバズってたら当然でしょ?」


「バズ……?」


「あの“理想の彼氏投稿”、リポスト数300超えてたし。タグも『#理想男子』『#同級生にいた』とかついてたよ」


 ……正直、よく分からない。


 ただ、俺の知らないところで“俺”が勝手に評価されてるのは、どうにも気味が悪い。


「俺、そんな理想の人間じゃない」


 そう言うと、朱莉はちょっと驚いた顔になった。

 けれど、すぐにふわっと笑った。


「……でもさ、アンタが“そう思ってない”ってとこが、また女子ウケするんだよね」


「……?」


「“自覚ないけどすごい”って、ギャップえぐいんだってば」


「……そっか?」


「そっか、じゃなーい!」


 思わず肩をすくめた俺に、朱莉は笑いながら拳で軽く小突いた。

 その一連のやり取りに、また教室中の視線がざわついた。


「宮園さん、あんなに楽しそうに……」


「相原くんって、そんなに面白かったっけ?」


「てか……ちょっと、気になるかも」


 ……俺の知らないところで、何かが加速していく予感がした。


 


 その日の放課後。いつものように帰ろうとした俺に、


「ねえ、一緒に帰らない?」


 朱莉が当然のように言った。


「……俺、寄り道とかしないけど」


「大丈夫。一緒に歩ければいいの」


 そう言って、隣に並ぶ朱莉。


 


 ……そしてその様子を、廊下の向こうから見つめていたもう一人の少女がいた。


 生徒会長――一之瀬澪いちのせみお


 彼女は静かに呟いた。


「……相原くん。やっぱり、あなたって……」

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